第七章. 知られざる逆転国家の秘宝

138. 赤の爪牙たち

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https://kakuyomu.jp/works/1177354054896166447


――――――――――――――――


 ぼろぼろに崩れた廃墟。

 

 恐らくは古代遺跡の中だろう。灰色の壁や床、天井を這う電灯の跡からその事が察せられる。窓は無いが、ところどころが崩れており、その隙間から太陽の光が差している。

 

 そんな部屋の中に、十人ほど人間がいた。

 

 ネコミミの獣人忍者レオンハルト、その弟テオドール、イヌミミのランスリット。黒いローブを被ったイルザに、不気味な翼を持つヴォルフ。その他にも戦士風の男や巫女のような恰好をした女など、数人の人物。

 

「ふん。失敗したの。なんて情けない」


 その中の一人。魔術師のような恰好の女が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

 豊満なスタイルを持った黒髪の女。年は三十前後くらいだろうか。その顔つきからかなり気が強い性格をしている事が察せられる。

 

 但しその姿は淡いホログラムで出来ており、この場にはいない。どうやら通信装置で姿を映し出しているようだ。


「精霊石の奪取に続く数々の失敗。ハッ、無能にもほどがあるわね。何とか言ったらどう?」


 彼女の言葉に、ぐぬぬと悔しそうにするヴォルフ。言い返したいが言い返せないという感じだ。イルザもぶすっとした表情になっており、ランスリットは犬耳を垂らして落ち込んでいる。

 

「待て。元々ヴォルフらの任務は情報収集。混乱を引き起こすのは必ずしも必要ではなかったはず。咎められる言われはない。明確に失敗したのは俺だけだろう」

「レオ……!」


 ふと、横からレオンハルトが口を出した。彼のフォローにヴォルフが表情を明るくする。

 

「ハッ。言われた事をするだけなんて犬でも出来るわ。むしろ愛嬌がある分だけ犬の方がマシね。最低限の事をこなしただけで誇れると思って?」

「ぐぬっ!」


 が、女の厳しいツッコミに再び苦々しい表情に戻った。

 

「全く、揃いも揃って情けない。赤というのは役立たずばかりなのかしら? ま、特にアンタたち外征組は出自からしてアレだし、マトモな教育も受けてない。そうなるのも仕方ないわね。ヴェルトル様の慈悲に感謝しなさい」


 さらに女はぐちぐちと説教を続けた。

 

 長々しい話。そのうち、イルザがふああとあくびを一つ。それを見た女の目元がピクリとし、彼女の方を睨む。

 

「ちょっと。聞いているの?」

「は? 何? アンタのどうでもいい話を真面目に聞く必要、ある?」

「何ですって……!?」


 カッと目を開き、怒りを見せる女。しかしイルザはハッと鼻で笑う。

 

「私たちは“赤”。アンタは“黒”。なーんでアンタの言う事を聞かなきゃなんないのよ」

「ッ……! あなた、私が誰だと思って……!」

「二番目に偉い人でしょ? “黒”の。知ったこっちゃないわね」


 明らかに馬鹿にしたようなイルザ。「その通りだな」とヴォルフも同意。ランスリットやテオドールは何も言わないが、否定もしない。


「アンタはただのメッセンジャー。お忙しいヴェルトル様の代わりのね。で、これからどうするの? 私たちの上申の結果は? さっさと教えなさい」

「そうだ! 一刻も早くあの冒険者共を始末すべきだ! 奴らは強い。放っておけば間違いなくやっかいな事になる! 赤のエースたる俺が、今度こそ……!」

「勝手にエース名乗ってんじゃないわよ。アンタじゃ無理。私がやるわ」

「ぬうっ! イルザ、お前もエースを狙うか……!」


 そんな風に女が怒る中、イルザとヴォルフが言い合いを始めた。どちらも自分が行くと主張していたようだ。

 

 ワナワナと肩を震わせる女。プライドを傷つけられたのだろう。


 すると、女は……

 

「ク、ククッ……! いいわ。教えてあげる。どちらも却下よ」

「何ッ!?」

「アンタたちじゃ力不足と思われたのでしょうね。そりゃそうよね。あんなのが相手なんだから」


 くすくすとあざ笑う。イルザとヴォルフ、どちらが追う事も許可されなかったようだ。

 

「黄金の瞳、救世の力……。神皇様と同じ……」


 ふと、巫女服の者がぼそりと呟いた。すると、ホログラムの女がこくりと頷く。

 

「そう。我が国をおつくりになった初代皇帝、あるいは聖竜や聖樹といった存在と同種である可能性は非常に高い。そんなのどうにかするなんてアンタたち程度に出来る訳ないでしょ? 身の程を知りなさい」


 馬鹿したような顔。ヴォルフは怒りを見せ、イルザはキッと睨みつける。だが、言い返す事はない。目の前の女ではなく、主であるヴェルトルの決定ならば従う以外の選択肢は無い。


「だが、どうする。放っておくのは悪手だろう。また我らの邪魔をされかねない」


 レオンハルトの問いかけ。もっともな疑問であった。すると女は、くすりと笑い……

 

「奴らが向かった方向は把握しているわ。南の、恐らくはカルド王国。その周辺は……」

「ッ! 奴か……!」


 とある男の存在に思い至ったレオンハルト。彼は顔をしかめ、嫌そうな顔をした。イルザやヴォルフも同様であった。

 

「あの男なら大丈夫でしょう。むしろ適任じゃない? 武はもちろんだけど、それとはまた別の能力を持つ男なのだから。現に、素晴らしい成果を上げ続けている」

「むう……」


 女の言葉に納得をしつつも、やはり釈然としない雰囲気のレオンハルト。

 

 だが、それも仕方ないと言えよう。混沌とした赤の爪牙の中で、もっとも理解できない存在。あの男が事を起こすとなれば間違いなく大変な事になるであろうからだ。


「ま、見せてもらおうじゃないの。


――赤の爪牙、その中で最も狂った男の行動をね」


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