第5話 『黒い家』はどこにでもある。

★章表紙 https://kakuyomu.jp/users/Tempp/news/16817330652138346878


 こんにちは。ようこそお越しいただきました。

 ここはダラダラと映画のイメージを述べていくエッセイです。大抵映画の感想ですらない。


 さて、だらだら映画エッセイ流れ第5弾は『黒い家』です。

「邦画ホラーのおススメ教えて」と言われたのだけれどやっぱりこれ。

邦画のホラーは色々みたけど、自分の中で邦画不動のホラー1位はやはり『黒い家』で、他の作品を追随を許さない。でもこれだけだと間が持たないので、せっかくだから自分が好きだけど他の人の知名度がなさそうな邦画ホラーを紹介してみることにするよ。


1.黒い家の独自性

 さっそく『黒い家』だけど、この映画にはジェイソンのような殺人鬼もリングのような怪異も番町皿屋敷のような幽霊も吸血鬼のような怪物も出てこない。

 出てくるのは、自分やあなたの隣に普通に住んでいるかもしれない『人間』。怪物やモンスターなんていないんだ、っていう安らぎなんて全くない。


 さて、あらすじからいこう。

『保険会社に勤める若槻が取った電話口から、「自殺でも保険金は降りるの」という声を聴く。家まで来てほしいという声を断れず、進まぬ足でその家に向かう。あふれる不穏な空気に「ふすまを開けてくれ」といわれて開けると、そこでは子供が首を吊っていた。』


 そもそものところ人間が怖いなんてサイコスリラーはありふれてる。

 それと何が違うのか。そこから始めよう。

 人間が前提のサイコホラーっていうと何が思い浮かぶかな。

 サイコとか羊たちの沈黙かな。でもこれらに登場するノーマン・ベイツなりハンニバル・レクターなりは「通常の人間」としては描かれていない。一見普通に見えるかもしれないミザリーのキャシー・ベイツやファニー・ゲームの白い男たちもあくまで特殊な状況下、つまり非日常に被害者が巻き込まれるタイプ。


 黒い家の恐ろしさは逆なんだ。

 いつもの仕事の内容として、普通の日常の中で、普通の顔してやってくる。非日常じゃない。徹頭徹尾、日常の中での小さな違和感を深めていく手法だ。日常のささいな違和感から広がる異常性。その小さな差異によってもたらされる大きな結果に恐れ慄く。そういうお話。


 若槻は会社の社員としてその顧客である菰田に対する対応自体を断ることができない。親切心で言った一言から懐かれて地獄が始まる。始めてしまったのは若槻自身。ギリギリ断れないラインで要求をねじ込んでくる菰田夫妻。茹でガエル理論じゃないけど、少しずつおかしさが深まっていく人間というのは違和感を感じてもなかなか関係を切れるものではない。切れるほどの明確な理由がない。

 というか異常性というものはその差異が明白に指摘できなければ、何がどうおかしいのかよくわからなくないものだ。おかしいんじゃないか、でも自分はそうと言い切れるのか。そんなふうに迷っている間は、何も対処ができない。何故なら業務は行うべき義務であり、それになにせ、相手は業務の顔をしてやって来てしまうだから。

 つまり、拒否する積極的な理由が見当たらないまま巻き込まれてしまうのだ。


 この、あくまでギリギリ普通な範囲を突き詰めて異常に持っていくのが『黒い家』であり、その不気味さと恐怖だと思う。

 この映画の恐ろしさは、菰田幸子は映画のなかでも異世界でもなく、人に紛れて隣に普通に住んでいることだ。

 で、何故邦画のお勧めがこれかと言うと、この若槻の立場に共感できる日本人はとても多いだろうから。アメリカ人なら即効会社辞めて終わりな気がする。


 それでこのホラーに色を添えているのは大竹しのぶ。

 この大竹しのぶ以上に恐怖を感じるキャラはなかなかいないぞ。ただ難点もあってだな。ちょっとキャッチ―過ぎる感じで、ともすれば笑えてくるかもしれない。その辺で非現実感を感じてしまう人も多いから、この映画は賛否が両極端だと思う。映画的にいまいちと思う人もいると思う。


 でもね、圧倒的に原作を読んで欲しい。

 映画は映画で大竹しのぶは素晴らしかったけど、原作の震えるような恐怖は何回読んでもときめく。貴志祐介大好き。

 ちなみに韓国でもリメイクされてる。こっちはこっちで面白かったけど普通のホラー映画っぽかった。邦画版よりゴアシーンにはあふれてたかな。


2.割とどうでもいいマイナー和ホラーのオススメ

 さてっと。これだけではアレなので、邦画ホラーのお勧めをやってみよう。

 方向性としては色々ある。


 日本の有名ホラーというとやっぱり『リング』シリーズとか『呪怨』シリーズ。そこからカルト的邦画ホラーというと塚本晋也の『鉄男』シリーズとか『片腕マシンガール』みたいなアメリカから帰ってきたファンタジックなTOKYO SHOCKシリーズとか。滾る。『ノロイ』とかドキュメンタリー系の白石晃士のシリーズも面白いかもしれない。『富江』とか『尻怪獣アスラ』も有名だよね? うむうむ。

 でもこれらはこれらで1つのエッセイ作れそうなので今日はもっとニッチで誰も見てなさそうな単発映画の中でわりと自分が気にいて、しかもよっぽどじゃないと見てないだろうと思うものを紹介をしよう。


注意:以下は一般的に駄作です。

注意:しかし、自分は光る部分があると思っています。

注意:借りてみて駄作でも怒らないでください。


 最初は『恐怖! 寄生虫館の三姉妹』。……見たことないよね?

 1997年の作品で、とりまあらすじ。

 『主人公が行き倒れて洋館で目を覚ます。そこは寄生虫の標本だらけでそこの三姉妹が主人公が母親に瓜二つだから是非家政婦になってほしいと言われる』


 この映画はB級だ。だからB級好きにしかすすめない。

 この映画の面白さは登場人物がみんなおかしいこと。全体的に登場人物のテンションがおかしい。女性がガチで素手で人を殴り殺す勢いの作品って少ないよな。普通ならキャーという悲鳴もウピャーとか謎めく何かに置き換わっている。アクションもオーバ―過ぎてこの世のものとは思えない。最後も衝撃的なエンディング。

 これ系の『登場人物がおかしい姉妹』なシリーズはままある。だいたい耽美に寄ることは多いけど、これは奇矯に寄ってしまった、そんな映画です。

 なお寄生虫シーンは瓶が置いてあるだけで特にありません。なんで寄生虫タイトルなんだろう。


『デッド寿司』これも見たことないよね? 多分。

 2013年の作品。

 あらすじはこんな感じ。

 『ケイコさんは寿司屋の一人娘。うまい寿司を作るために格闘技に勤しんでいたんだけど、行き詰ってどこぞの旅館で働き始め、(略)、寿司に襲われる』

 どうだ、この突っ込みまちのあらすじは。


 ええと、寿司に襲われるというと何を想像しますか?

 超巨大寿司? あるいは寿司怪獣? いいえこの映画はそんなチャチなものではありません。なんと、なんと! 普通の握り寿司が空をとんで襲ってくるのだよ。ちなみに寿司同士が交尾したりもします。

 でもこの食べ物が襲ってくる系の映画って色々あってさ、『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト 』とか『アタック・オブ・ザ・ジャイアント・ケーキ』とかいろいろあるんだよね。

 だから食べるものに食べられるというのはカルトの中ではメジャー路線、に違いない。倒錯的で嫌いじゃない。


 でもこれはギャグ特化の映画なので、ギャグ映画駄目な人はNGだと思います。そういやこれ映画館で見てそのまま回転寿司食って帰った記憶がある。


 ちょっとだけ解説すると、これは井口昇という監督の作品。

 先に出た『片腕マシンガール』『東京残酷警察』『デスカッパ』というTOKYO SHOCKというシリーズがあるんだ。これは東京・女子高生・ゴアという海外でヒットしたコンポーネントで、なんていうか海外でいうNINJA的に流行った日本風ホラーを日本に逆輸入した時期があった。日本的な文化をホラーで描いている。この監督の作品には他にも『ロボゲイシャ』とかもあるけど、それはそれでそのうち特集したい。


 この『デッド寿司』もその系列ではあるのだけど、なんとなく他の井口昇作品よりコメディ路線なので別枠にしてみた。まあ『デスカッパ』もコメディっちゃコメディなんだが。


3.割とどうでもいいマイナー和ゾンビのオススメ

 じゃあ次はゾンビ関連で繋げてみようかな。

 日本の田舎で女子高生がほっこりゾンビに襲われるっていうのは既に定型化したスタイルだ。竹中直人の出てくる『山形スクリーム』とかそう。日本は日本でゾンビ映画って多い。


 でも日本はもともとゾンビがいないんだ。土葬の文化が凄く最近まであるのに。日本では江戸時代、というか仏教では土葬がメジャーで、明治当初前後に神道と仏教と防疫が絡んで火葬を禁止したり義務付けたり色々混迷していた。茨城のほうだと昭和の終わりくらいまで土葬の文化があったと聞く。


 それでもゾンビがいないのはおそらく高温多湿だからだと思う。ゾンビっていうのはある程度の期間、形状が保たれることが前提となっている。

 高温多湿の日本じゃ遺体を遺体のまま留めるのは難しい。

 日本には死人憑っていう妖怪もいるのだけど、それも近所の農民の死体に何か付き物が宿ってしばらく滞在したら腐臭を放って動かなくなったっていう、何か生臭い話だ。

 もともと日本人はケハレの観念が昔から強いから、死人がよみがえるのは強い禁忌だった気はする。この辺は一度調べてみても面白いかもしれないな、とちょっと思った。


 さてそんなわけで気を取り直してBorZ級ゾンビ映画の紹介です。

『お姉チャンバラ THE MOVIE』

 最初はこれかな。これは片腕マシンガールの系統が流行ってた時の映画だからひょっとしたら見てる人は案外多いかもしれない。2008年の映画だけど、もともとがゲームなので見た人はいるのかも。いや、どうだろう?

 これはね、ストーリーはないんだ。

 女子高生である主役がひたすら半裸になってゾンビを切り倒したり殴り倒したりするゲームなので。ゾンビに囲まれて半裸、しかもポンチョわざわざ脱ぐ。北斗の拳っぽくて、でもこういう馬鹿な映画って大好き。

 アクションはそれなりに"ありえなさ"が面白いんだけど、結局のところそれ以外に特筆すべき点はない。


『巨乳ドラゴン 温泉ゾンビ VS ストリッパー5』

 漫画が原作だし主演が蒼井そらだったりするので見たことある人は案外いたりするのかな。

 安っぽさが光る2010年の作品で、あらすじはこう。

『カリフォルニアがえりのレナはお金がなくなったのでストリッパーになって興行でひなびた温泉に行く』

 ええと、デッド寿司はまだB級好きには勧められるけど、これはZ級好き以外はちょっと勧められないかも。片腕マシンガールほどのキャッチ―さも美学(?)的なものもないので。

 これもコメディホラーで全く怖くはない。この映画で押すべきは驚愕の安っぽさだ。笑いに走るホラーというのはままあるものの、ここまで安っぽい作品というのはほとんどない。

 まあストリッパーな話なので胸はぽろぽろ出ているけれども全くエロくはないです。ゾンビも理由なくコスプレして沸いてくるけど、とくにこれも意味がないです。


 それじゃあ『幽霊ゾンビ』はどうだろう?

 2007年の映画だ。

 白石晃士という比較その界隈で有名な監督がとってるから見たことがある人はいるだろうか。白石晃士は『ノロイ』は凄く好きなんだけど、基本的に煮え切らない微妙な作品を量産する監督と認識している。

 あらすじ。

『主人公はタクシー運転手をしているんだけど、民俗学者の柳ユーレイを轢いてユーレイの幽霊に取りつかれる』

 なんかもう、あらすじで全てが落ちたよね。基本的に真面目に作ってるのか作ってないのかはよくわからないけれども、幽霊とゾンビというわけのわからない取り合わせでよくわからないものが色々出てくる。でも正直このノリは賛否両論な気がする。

最後はホラーなのになぜかなんとなくほっこりするんだ。


 そういうわけで、他に絡みそうにないけどわりと好きなしかも認知度が低そうな邦画ホラーを並べてみました。でも正直どれもお勧めしなくはある。

 次のリクエストは『ヤン・シュワンクマイエル』です。

 当該エッセイは常にリクエストを募集しております(見てなければリクエストに添えないすみません。)。


 See You Again★

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