第22話 浮気

 あぁぁぁ~、スッキリした。

 けど、ちょっとだけ身体が怠いなぁ……。

 強烈な虚無感に襲われて、何もする気になれない。

 ボーっと体育館倉庫の天井を見上げていると、朱理が話しかけてきた。


「どうだった……?」

「マジで気持ち良かったよ。ありがとうな、朱理」


 僕はそう言って、よしよしと朱理の頭を撫でる。

 すると、彼女は「えへへ」と子猫のように目を細める。

 幸せそうだった。

 ほんと、僕の彼女は可愛いなぁ。

 

「また今度してあげようか?」

「え!? ま、マジで……?」

「うん、マジマジ。変な気持ちになったらアタシに言ってね? またアレのお手伝いしてあげるから」

「……」


 朱理の甘い言葉に僕はゴクリと喉を鳴らす。

 やっぱり、この子は天使だなぁ。

 なんで僕はこの子と付き合えたんだろう?

 なんてこと思いながら、優しく朱理の頭を撫で続ける。


 僕の彼女は本当に可愛い。

 おそらく、僕が出会った女性の中で一番可愛いだろう。

 しかも、スタイルまで抜群だ。


 美しい容姿とグラビアアイドル顔負けのスタイルを誇る朱理は、男子生徒に大人気だ。


 男子生徒の間で密かに行われた『可愛い女の子ランキング』ではぶっちぎりの一位だった。ちなみに、僕は朱理に投票しました。

 篠宮朱理ファンクラブまで存在しているらしい。


 つまり、何が言いたいかというと、朱理は学校のアイドルなんだ。

 そんな学校のアイドルがアレのお手伝いをしてくれた。

 薄暗い体育館倉庫の中で、たくさん僕を幸せにしてくれたんだ。

 男子生徒がそれを知ったら、僕に殺気を向けてくるだろう。下手したら、殺されるかもなぁ。


『あっ、それやべぇな……』

『ふふ、気持ちいい?』

『あぁぁ……もう最高だよ』

『そっか、そっか。もっと気持ち良くしてあげるね』


 あの非現実的な光景を思い出して、ジワジワと身体が熱くなる。

 特に下半身が熱い。

 ヤバい、また変な気持ちになってきた……。


「あ、あの……朱理さん」

「ん? どうしたの?」

「もう一回いいっすか……?」


 僕の言葉に朱理は「へ……?」と抜けた声を漏らす。

 呆気に取られていた。


「また変な気持ちになっちゃったの……?」

「は、はい……」

「ぷくく、祐二くんはエッチだね♪」


 朱理は僕の唇にチュッとキスしてから口を開いた。


「もう一回気持ち良くしてあげるね」

「ああ、頼むっ……」


 


 ◇◇◇




【篠宮朱理 視点】



 ――夜――


 今日、薄暗い体育館倉庫の中でアレのお手伝いをしてあげた。

 初めて男の子のアレを見たけど、あんな感じになってるんだね……。

 色々と凄かったなぁ。

 

 ネットで勉強した技をたくさん試すと、祐二くんは「それ、マジでやべぇぇなぁ……」と喜んでくれた。


 あのシチュエーションを思い出して、脳内がクラクラしてくる。

 頭の中がピンク色に染まり、体の一部が熱を帯びる。

 祐二くんっ……祐二くんっ……。


 我慢できなくなったアタシは、パジャマと下着を脱いで妄想の祐二くんとイチャイチャし始める。


「祐二くんっ……」


 妄想の祐二くんとベッドの上でプロレスごっこをしていると、急に正人が電話をかけてきた。

 もうっ、邪魔しないでよっ……。

 正人のバカっ。

 アタシは「はぁ……」と深いため息を吐いてから電話に出た。


「もしもし、正人?」

「よう、朱理」


 スマホのスピーカーから正人の声が聞こえてきた。

 

「なんで電話してきたの?」

「それはその……」


 アタシの問いに正人は返事を窮する。しばらくして彼は口を開いた。


「祐二のヤツ……浮気してるぞ」


 正人の言葉に「は……?」と間抜けな声を漏らす。

 あの祐二くんが浮気?

 あは、あはは……冗談でしょ?


「なんでそう思うの?」

「今日、見たんだよ」

「見た……? 何を見たの?」

「祐二と優衣が手を繋いで、ラブホに入っていくところを見たんだよ」

「……ぇ……?」


 正人の言葉に頭の中が真っ白になる。

 祐二くんと優衣ちゃんが手を繋いで、ラブホテルに入った……?

 祐二くんは優衣ちゃんと浮気してるの?

 彼はアタシじゃなくて優衣ちゃんのことが好きなの?

 

 ふと祐二くんの言葉が脳裏に浮かぶ。


『優衣ちゃんとキスしたことあるの?』

『あぁ……』


 祐二くんのファーストキスの相手は優衣ちゃんだ。

 おそらく、優衣ちゃんは祐二くんのことが好きなんだろう……。

 どんどん正人の話の信憑性が高まる。


「本当に祐二くんは浮気してるの……?」

「ああ、本当だ。証拠もある」

「え……? 証拠……?」


 突如、正人が一枚の写真を送ってきた。

 私はその写真に目を向ける。

 

「う、うそ……」


 スマホの画面に映る写真を見て、アタシは焦燥感に駆られる。

 ドクドクと心臓が高鳴り、心が乱れてしまう。

 そ、そんな……。


 正人が送ってきた写真には、祐二くんと優衣ちゃんがキスしているところが写っていた。

 本当に祐二くんは浮気してるの?

 彼はずっとアタシを騙していたの?

 

 けど、違和感を感じる。

 なんだ、この違和感は……?


「朱理。祐二と別れた方がいいぞ……?」

「……」


 最近の正人は変だ。何を考えているのか分からない。

 これが違和感の正体だ。


 やめろ、正人の話を信じるな。

 取り返しのつかない事態に陥るぞ。

 そう本能が訴えてくる。


 彼の話を信じたら、アタシと祐二くんの関係は壊れるような気がする。

 だから、アタシは正人じゃなくて祐二くんを信じる。

 彼の『好き』って言葉だけを信じる。

 とりあえず、祐二くんに相談しよう。


「おい、聞いてるのか? あんな祐二クズとは別れた方がいいぞ?」

「嫌だっ……」


 アタシの返事に正人は「は……?」と驚き混じりの声を漏らす。


「おいおい、何言ってんだよ、お前……。アイツは浮気してんだぞ? 絶対に別れた方がいいって」

「祐二くんは浮気なんかしないもんっ! 絶対にしないもんっ!」

「いやいや、その写真見ろよっ。優衣とキスしてるだろ? どう見ても浮気してるじゃねぇか!」

「うっさいっ! もうアタシに話しかけないでっ!!」

「え……? あっ、おい!? 待てよっ!? 朱理っ!?」


 アタシは正人の言葉を無視して電話を切った。 

 スマホのスピーカーから正人の声が聞こえなくなり、部屋中が静まり返る。

 はぁ……なんか疲れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る