第21話 ピクニック開始

「ぜえぜえ。おまたせ」


 わたしは、どうにか待ち合わせの時間に間に合った。


 苺谷いちごだにくんは先についていて、わたしを笑顔で迎えてくれる。


「どうしたんです、ミサキ先輩? なにか食べてから登りますか?」


「いえいえ。今日はハイキングじゃなくてピクニックだから。この山も軽めだし」


 言えない。早朝料理教室が乱闘寸前までいったなんて。おかげで、到着がギリギリになってしまった。


 どうにか弁当は完成したが、不安要素は多い。


「行きましょう。お弁当が待ってるよ」


「ありがとうございます」


 わたしは先頭を進む。


 だが、すぐに苺谷くんに追いつかれる。


「ほんとに大丈夫ですか? 寝不足なんじゃ」


「これくらい、ワケないって」


「目にクマもできていますし」


「問題ないよ」


 歩き始めたばかりだというのに、もう数時間歩き通しのような疲労感が。


「この先にベンチがありますから、座りましょう」


 苺谷くんのリードで、わたしはベンチに腰掛ける。


「自販機が、ありますね」


 スポーツドリンクを、苺谷くんに買ってもらった。


「はあはあ、ありがとう。助かるよ」


 まったくもって、迷惑をかけどうしである。なんのためのデートかわからない。


「これじゃ介護だよ。情けない」


「いいんですよ。完璧な人なんていませんから」


 それにしても、ほんとに頼もしくなった。


「苺谷くん、いろいろとありがと」


「いえ、ミサキ先輩のお役に立てるなら!」


「山頂まであとちょっとだから、がんばろうか」


「はいっ」


 わたしは苺谷くんと手をつなぐ。


 そうだ。デートなんだから、なにもリードする必要はないんだよね。むしろ同じペースで進んでいいんだ。


 なんとか山頂に到着して一安心……だったらよかったんだが!


「うわ! ゆるキャラが暴れだした!」


 子どもたちが、逃げ惑っている。


 追いかけているのは、山をイメージしたゆるキャラだった。


「やってられっか! ただでさえ暑いのに、こんな服を着せられて!」


 あれは、操られているのか?


 しかし、正気を失っているのは、ゆるキャラだけじゃない。


「家でのんびりしたい!」


「ゲームもまだ終わっていないわ!」


 次々と、大人たちが凶暴化していく。モンスターに変わってしまった。


 なにかがおかしい。こんな集団での怪物化は、今まで見たことがなかった。


 わたしは、アヤコに連絡を入れる。


「デートはお預けね。変身よミサキ!」


「わかった! 苺谷くん」


 苺谷くんに、子どもたちの避難をお願いする。


 せっかくのデートが、こんな形で台無しにされるなんて。


「魔女キテラめ……ゆ る さ ん!」


 髪留めに手をかざし、魔法少女に変身した。


「テメエら、まとめてぶっとばす!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る