第14話 ショタ好きメイド その後

 わたしは、元の場所で目を覚ます。


 社交界のような空間は、消えていた。


「よかったー。ミサキ先輩! 急に立ちくらみなんてするから、びっくりしましたよぉ」


 どうも、わたしはテーブルにいきなり突っ伏したらしい。


 そう見られていたのか。 


「先生、わたくしは一体?」


 同じように閉じ込められていたサユさんが、辺りを見回している。


「大丈夫。ちょっとお誕生日会の準備が忙しくて、居眠りしていたんじゃないかな?」


「その割には、本格的でしたわ。先生そっくりの方が助けてくださったのは、覚えているのですが」


「気のせいだよぉ」


 わたしは、適当にはぐらかす。


「でもミサキ先生! わたくし、手にケガを……あら?」


 サユさんが、自分の手をわたしに見せる。しかし、手はきれいなものだ。あの空間で負ったナイフの切り傷なんて、どこにもない。


「たしかにわたくし、ハルキさんを守るためにナイフをつかんだ記憶が」


「やけに本格的な夢だねえ。安心して。ハルキくんなら、ほら」


 ハルキくんは、眠っていたサユさんの肩に、自分のジャケットをかけていた。


「気が付いた?」


「よかった。ハルキさん」


 立ち上がって、サユさんがハルキくんを抱きしめる。


 その後、お誕生日会は順調に進んだ。


 帰り際に、わたしはメイドさんに呼び出される。


「ご迷惑をおかけしました」


「なんのことでしょう?」


「あなたが、ワタシを悪夢から目覚めさせてくださったのでしょう?」


「うーん、なんのことだか」


「シラをお切りになるのでしたら、仕方ありません。ですが、感謝いたします。ハルキさまのことは、あきらめがつきました。こんなワタシが、サユさまのお側に仕えていいのかわかりません。しかし、サユさまを見守る決心はつきました」


 どうやら、メイドさんの歪んだ欲望は消え去ったようだ。


 帰りの車の中で、わたしはアヤコにその話をしてみる。


「魔女が消えたことで、悪い感情も拭い去れたのかな?」


「いいえ。彼女は今後も、ずっと自分を責め続けるわ」


 アヤコが、ハンドルを握りしめる。


 凶暴化しても、自分がやったことはわずかに残っているらしい。

 自分の欲望や罪からは、逃れられないのだ。

 だが、対処法も知っている。自分が現実に戻り、事情を受け入れることだ。

 

 ただ魔物を倒して「やったー」とはいかない。

 負の感情がまた暴走しないように、自分を律する必要がある。

 今度は、魔法少女の手を借りずに。


「そういえば、どうしてサユさんはハルキくんを目覚めさせることができたんだろう?」


 わたしの質問に、アヤコはしばらく考えた後、赤信号で強めにブレーキをかけた。


「あっ、あの子、リクからブローチをもらっていたわ!」


「プレゼント?」


「そうよ! きっとリクの持っている魔女の力が働いたんだわ」


 ならば、リクくんはまだ魔女に染まりきっていないと考えられる。もしくは、魔女とリクくんは無関係なのかも。


「ともあれ、リクのアバターそっくりの魔女と戦ったっていう、あの仮面の男が気になるわね。何者なのかしら?」


「さあ……」


 敵ではないと思うが、味方かと言われると困る。


「でさあ、オトコといえばミサキ! あんた、あの男性教諭どういう関係なの?」


「ええ!? ただの後輩だっての!」


「そうかしら? いい感じだったわよ?」


「ないない! 絶対ないから! 前向いて運転なさいよ」


 信号で停まると、きつね色のオンロードバイクが横についた。ドライバーが、わたしの席の窓をノックしてくる。


 何事か? あおり運転なら半殺しにしてやろう。


「あの、なんでしょう」


「ボクです! 苺谷いちごだに!」


 ヘルメットを脱ぐ。


「ミサキ、あとは送ってもらいなさいよ」


 なんと、アヤコはムリヤリわたしを車からおろした。


「え、ちょ」


「この後なにもないでしょ? ごゆっくり」


 アヤコの車が行ってしまい、わたしは道路に取り残される。


「あはは……で、用事があるのかな?」


「実は、渡し忘れていたものが」


 苺谷くんがくれたのは、ネックレスだった。


「今月、お誕生日でしたよね? おめでとうございます」


 もう祝って喜べるような歳ではない。が、うれしかった。


「でも、こんな高そうなのを、わたしに?」


「見た目ほど、高価ではありません。もうすぐ参観日ですから、オシャレをなさるかなと思って。どうぞ受け取ってください」


「ありがとう!」


 男性からプレゼントなんて、父親でもなかったな。まあ、あの父が娘どころか母にすら贈り物をしたかどうか微妙だが。


「そうだよね。参観日があったんだよね」


「ボクもがんばりますね」


「うん。一緒にがんばろう!」



 だが、わたしたちの決意は粉々にされてしまった。


「ミサキ! 貴様まだ教師の道を捨てきれんのかぁ!」


 極道の家紋入りの袴を着た、初老の男によって。


 わたしの父に。



 第三章 完!

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