第44話 修学旅行③

 俺たちは、福岡から乗り換えて鹿児島へ向かう。長時間の移動に身体も少し疲れてきた。


「うい、ういうい」

 俺の隣に座る祐樹はやけにハイテンションになっている。


「なんか良いことあったか?」


「いやな? 瑞希と結構話してたんだけど、なんかいい感じというか」


「そうか。上手く行くといいな」

 俺と違って、な。


「そういや斗真は、カラメルの方に行かなくていいのか?」

 祐樹は思い出したかのように俺にこう言った。


「いや、ま、まぁ大丈夫だ」

 俺はそう言って誤魔化す。


「そ、そうか?」



 そう2人で話していると、瑞希が俺らの方に来た。


「斗真君、ちょっと話しませんか?」


「え?」


 いつだって君は俺の前に現れる――






「それで何か用か?」


「いやちょっと真緒さんから聞いてね」


「なんだ真緒、瑞希にも喋ったのか……というかてっきり、俺は」

 まぁ瑞希はしっかりしてるし、大丈夫だけど。


「祐樹君の事話すと思った?」


「まぁな。てか自分から言うんだな」

 瑞希はそういうキャラじゃないので意外だな。


「まぁ、祐樹君の事はちゃんと考えてるよ。積極的に話しかけてくれたりするし」


「まぁ、そりゃあな」

 傍から見ても、祐樹が瑞希に好意を寄せていることは分かってしまう。


「というかカラメルさんと別れたの?」


「まぁ、一応はそんな感じだが……距離を離した、っていう方が正解かな」


「色々と把握はしたよ。恋愛の難しさも、分かってるつもり」

 

 瑞希は人に言い寄られる事も多いし、色々と大変な事もあった。だからこそ、考える事もあるのだろう。俺と少し価値観が似ているところもあった。


「何だかんだお前とが一番合うんだよな」


 これは俺の率直な感想だった。最初に人生が嫌だという“共通項”から仲良くなったこともあり、生徒会で活動していても何だかんだ息が合う。


「それはそうね。まぁ、何でも協力するから何かあったら言ってね」


「おう、助かる。そういや、祐樹と付き合うか、聞いてもいいか?」


「……それは断ろうと思ってる」

 瑞希の答えは意外なものだった。


「その理由は?」


「私と祐樹君はたぶん合わない。ずっと祐樹君が無理してる感じだし」


「そこは向きあうことで解消されるんじゃないか?」


 確かに祐樹が合わせている感じはする。俺とカラメルみたいにバランスが崩れたら、失敗しかねない。


「私は、まだ斗真君が忘れられないって言ったら怒る?」


「さぁどうだろうな」

 その問いから俺は逃げる。君に理想的な答えは返せないから。


「嘘つき。まだカラメルさんが好きなくせに」


「まぁどうなるか分からないけどな。カラメルが他の男に行く可能性もあるし」

 急に冷めて、俺の事を嫌いになる可能性もゼロではない。


「斗真君が他の女子に行く可能性もある、と」


「俺はねぇよ。カラメルに不満がないと言えば嘘になるが、俺はまだあいつが好きだ」


「それ、浮気する直前とかのセリフだよ」



「うるせぇ」

まぁ、確かに寝取られ前の彼氏みたいなセリフだけども。


「まぁ、問題はないのでしょう?」


「ああ」

 一応、カラメルとも話すことはできたし……気まずいながらにも疎遠にはなっていない。


「なら少し気を遣いながら行動するわ。いやそれはできないかも」


「えっ、おい!」


 そう言って瑞希はカラメルの方に向かっていった――






「やっほ」


「なんだ東雲さんか」


 瑞希がカラメルの方に行ったという事で、代わりに東雲さんが来た。


「なんだとは何よ」

 東雲さんは、瑞希や真緒とはまた違った接しやすさがある。


「それでカラメルはどう?」


「だいぶ落ち着いたっぽい。けどやはり安佐川君と壁はある気がするなぁ」


「そっか」

 これは時間の経過とともに待つしかないのかもしれない。


「いっそ私にしとく?」


「なんでだよ」

 東雲さんの冗談も、今は癒される。



「私が思うに、唐沢さんは少し傲慢、なのかな。安佐川君に全て受け入れてほしいし、受け止めてほしいんだと思う。それに対して安佐川君には合っていない」


「俺が自分の時間を楽しんだりするところか?」


「そう。安佐川君は、ある程度1人で大丈夫なのに対して唐沢さんは一緒にずっといるタイプだからね」


「なるほど、ね」


 それは一理あると思った。タイプが違うからこそ上手く行く可能性もあるが、合わない可能性もある。


「まぁでも安佐川君の言う事も理解してたっぽいし、関係はすぐ直るかも?」


「だといいんだけどな」

 どうなるかは神様しか分からない。


「安佐川君は他の子とかこの機会に見ないの?」


「告白するまでに嫌と言うほど向き合ったからな」

 後輩たちに真緒に瑞希、カラメル……色んな人の気持ちと向き合った。


「流石モテ男」


「流石って」

 まぁ、一応モテ男とは言えるけども。


「もしかしたら、他の子の方が理想的に見えるんじゃない? もしくは好きになるんじゃない?」


「ない。それに付き合うとしても早すぎるだろ」


「はは、確かに。クズ男になっちゃうね」


 もしそんな事したら、俺はボコボコに言われて居場所がなくなるだろうな。


「もう1回美少女を無視したら、また何か起こるのかもな」


「それどういうこと?」


「いやこっちの話」

 また美少女を無視して、青春が始まらないかな、なんて。


 そう話しているうちに、もうすぐ鹿児島に着きそうだ。

 誰しも違った価値観や思考、論理に趣味……アイデンティティというものが人間にはある。



 本当に面倒だ――




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