第42話 修学旅行①
修学旅行当日。移動もあるため、朝早くから起きて最終確認などをし、学校に向かう。親や後輩達からもお土産も頼まれたし、カラメルとの思い出も作りたい。
どうか修学旅行は何も起きませんように……
集合場所の第一体育館に行くと、既に多くの人が集まっていた。俺も慌てて、クラスの集合場所に行く。
「おっ、斗真も来たぞ! おはよう」
集合場所に行くと、班の中で俺が最後だったみたいだ。祐樹が元気よく挨拶してくれる。
「俺が最後か。まぁまぁ早かったと思うんだが」
まだ集合時間の20分前ぐらいなんだけどな。
「皆楽しみにしてるしな。自ずと早く集まっちゃうんだろ。今日は。ほとんどの人が親に送ってもらうしな」
「皆、朝から元気だねぇ」
俺の顔なんか幽霊みたいだったのに。
「斗真、よかった。ちゃんと来たんだ」
そう話かてくるのは、俺の彼女であり班長でもあるカラメルだ。
「今日は親の送りで別々だったとはいえ、彼氏を何だと思ってるんだ」
「はは、ごめん」
その後、改めての確認事項や出発宣言みたいな事をしてバスに乗り込む。バスの席は男女で別れている。俺の隣はもちろん祐樹だし、中央を挟んでの向こう側には、カラメルと東雲さんがいる。
俺らのグループの女子は3人のため、半端になってしまう。瑞希と真緒がまずペアで座り、他のグループの東雲さんとカラメルがペアで座る形になった。
正直、昨日の事などを気にしたり、思い出したりしてしまって落ち着かない。まぁ、何も起きないと願うしかない。
香川県、というよりどこか四国は断絶されているイメージがある。これは新幹線に限った話だが、四国は本州と繋がっていなくて、香川の場合だと一回岡山で乗り換える必要がある。
今回の修学旅行は、岡山までバスで行った後、新幹線で福岡まで行き、その後乗り換えで鹿児島まで行くという流れだ。飛行機を使えばもう少し早く着くのだろうが、色々問題があって使えないらしい。
まぁともかくバス移動なんだが……
「ねーね―斗真」
「あれ凄くない!?」
「話そうよ、斗真ー!」
カラメルは相変わらず元気で、俺に構ってくる。祐樹は朝早くて眠くなったのか、爆睡している。そして東雲さんは、何も言わずにただスマホを見ていた。
「元気だな、カラメルは」
「だってめっちゃ楽しみなんだもん! 斗真もいるし」
そうだ、この心配が杞憂に終わるならそれでいい。
サービスエリアに着いたら、必ず降りてトイレに行きましょう。これは俺が教わった親からの教えだ。岡山までなら耐えれる距離だが、まぁ一応トイレに行こう。それにずっと座っていると腰や尻が痛いし。
トイレを済ませて、少し身体を動かしていると肩を叩かれた。
「やっほ」
「なんだ、東雲さんか」
「なんだとは何よ」
東雲さんはツッコミとボケが両方できるので、こっちとしても話していて面白い。
「どうしたんだ?」
「いや暇だったからさぁ。あんたらずっと2人で話しているしさー」
「悪い。東雲さんにも振った方が良かったか?」
東雲さんに触れていいか迷ってたけど、話とか振った方がよかったか。
「いや、いい。安佐川君の彼女が何て言うかわかんないし」
「流石にそこまでの一大事にはならないだろ、たぶん」
流石に……と思いつつ言い切れない。今のカラメルの状態なら、もしかしたらという事も考えてしまう。
「まぁ、それで壊れるならそこまでの仲だったってことだしね」
その東雲さんの目はどこか冷徹で悲し気で、過去の自分を投影しているような気がした。
「ねね、斗真。暇だからしりとりしよ」
そうカラメルが言うと、
「えっ、私も入れて!」
自然な感じで東雲さんが入ってきた。
「東雲さん?」
カラメルは何か怪しんでいる様子だ。
「まぁ、いいんじゃないか。3人でやろう」
「う、うん」
俺の提案にカラメルは、納得してない様子だった。
「じゃ、まず俺からだな。リクライニング」
「わおっ、安佐川君尖ってるね。じゃあ、グロテスク」
「え、えっとーじゃ、車にしようかな」
「ま、か。マサチューセッツ州」
「あはは! う、ね……うんこ」
「こら女の子がうんことか言うな」
「あはは! ごめんごめん。次、唐沢さんの番ね」
俺たち3人のしりとりは予想以上に盛り上がる。俺、東雲さん、カラメルの順番だ。
「……」
「カラメルどした? 次は、こからな」
「あっ、うん。じゃあコアラ」
「ら、か。面白い言葉浮かばねぇな。ランニング」
「ぐ、ね。グーパンチ。あっ、ちで繋いじゃった!」
「どこを心配してるんだよ」
東雲さんは、見た目に反して下ネタと言ったりするので、少し男っぽい。まぁ俺は、喋りやすいし面白いから良いと思うけど。
「……」
「ほらカラメルが困ったじゃん」
「私に言われても」
「あの、さ。2人はいつの間に仲良くなったの?」
俺と東雲さんは少し目を合わせて、きたか、とアイコンタクトする。
「昨日、たまたま正門で会ってからかな」
東雲さんが言う事は間違っていない。けど俺たちは、仲良くなったというよりも先に瑞希と同じように“同志”みたいな感じだな、と思った。
「斗真さ、それ言ってくれてもよかったんじゃない?」
そうカラメルに言われて、俺がそうだな、と謝ろうとすると
「いやいや。別にそこまでの事じゃないっしょ」
東雲さんが軽い口調でこう言った。幸い、周りも騒がしいためバレてはいない。
「東雲さん、どういうこと?」
「そりゃあ、まぁ異性の関係だし多少の説明はしないといけないと思うけどさ、そんな女関係のこといちいち言ってたらキリなくない?」
これはやばい、と鈍感な俺でもすぐに分かった。
「でも不安じゃん? 知らないと思うけど斗真はモテるんだよ?」
「はいはい、彼氏自慢良いから。それに知ってるよ。安佐川君、良い男じゃん」
えっ、そう思ってたのかと驚く。いや、そんな事より止めないといけないんだけどこの状況でなかなか割り込めない。
「東雲さんに斗真の何がわかるの?」
「私をアホだって思ってる? 安佐川君の良い所、言っていこうか?」
「っ、やめてよ」
やばい、このままだと恐れた事態が起きる。いや? 東雲さんはわざと起こそうとしているのか? 俺たちの今後のために。
「別に人の彼氏をどうこう言うわけじゃないよ。ちょっと愛が重いんじゃない? って言いたいだけ」
「それの何が悪いの?」
「唐沢さん、安佐川君の邪魔までしたら駄目だよ。友達にも嫉妬の目向けてたでしょ? このままだと、いつ束縛し始めるかわからないよ?」
カラメルは、確かにここ最近エスカレートしていた。真緒や瑞希とかと話す時も不満そうにしていて怒っていたし、休みの日は毎日遊ぼうと言い始めたり。
もちろん、それだけ愛してくれるのは嬉しかったんだけど……正直、少し窮屈に感じていた。
「ねっ、斗真! 斗真はどう思う!?」
カラメルは焦って俺に答えを求めてくる。理想を押し付けるように。
「もちろんカラメルの事は大好きだ」
「でしょ!?」
「でも見直してほしいのも事実だ。束縛しすぎて、自分の時間が全部なくなるのとかとは嫌かな」
俺はどちらかと言うと自分の時間も欲しいタイプ、カラメルはずっといたいタイプだ。
「えっ」
「あのさ、唐沢さん。愛が重いのは別に悪いことじゃないけどさ、それって逆に信用してないことなんだよ。そんなに彼氏が浮気すると思ってる? それに分かり合おうとしないのはさ、罪だよ」
東雲さんだからこそ、言えるセリフだなと思った。東雲さんは束縛されて、凄い辛い思いをした。それが許せないんだろう。
信用してないことになる、っていうのはなるほどと思った。言ってみれば、彼氏が浮気すると思っていることとも言える。それに分かり合おうとしてないのは、好きじゃないからだと。東雲さんはそう言いたいんだろう。
「違う! 私はただ!」
そのカラメルの様子を見て、俺は決断する。
「なぁ、一旦俺たちさ、別れて考えてみよう」
俺の高校生活は、まだまだ波乱と上手く行かないことだらけだ、
だけどこうして、人間はまた成長していくんだろう。きっと……いや必ず。そうじゃないと人生やっていられない。
人生は理不尽で面倒くさい――
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