【不定期投稿になります】美少女を無視するところから俺の青春ラブコメは始まっていく

向井 夢士(むかい ゆめと)

0章 プロローグ

第1話 出会い

 人生はクソだな、とつくづく思う。理不尽で、嫌なことばっかりなくせにチャンスは一回しかない。どれだけ嫌なことがあっても、逃げ出したくなっても、許してはくれず、生きることを求められる。やり直しも、コンティニューも不可能な人生というものは本当にクソである。

 ああ、今日もだ。今日も、俺は何のために、産まれたのだろう? という問いの答えがわからない。何となく生きる日々だけが続く。









 今日も朝は本当にゴミだなと思いつつ、なんとか今日も身体を起こす。俺は、香川東学園に通う高校2年生、安佐川斗真あさがわとうま

 自称ダメクソゴミカス人間である。ビビりで、不器用で、メンタルは弱く、不細工で、アホで、人見知りで、色々お粗末で……何かと意地っ張りで、親に甘えっぱなし。けど変えられないこんな自分が本当に嫌いだ、とまた自分の嫌な所を考えて落ち込む。そんなくせに、ふと夢や希望を抱いてしまう哀れな人間、それこそが俺。つくづく人生はクソゲーだな、ほんとに。



 

 半分、脳が働いてない状態で今日も何とか準備をし、家を出る。なぜ朝早くから起きて、登校しないといけないのか。はやく、不具合を修正してほしいものだ。まぁでも、学生生活は楽しい。

 人見知りな俺だが、幸運にも友達ができ、毎日楽しく過ごせている。勉強は大嫌いだが。勉強って、何も楽しくないくせに、しないと将来困るとかなんとか。人生のクソゲーポイントの一つだな。

 俺も一応、なんとなく進学コースには入ってるが、クラス内順位は下の方だ。卒業できるくらいには勉強してるけど、国立大進学は厳しいぐらいの学力な俺は、もう人生を諦めている。勉強する気も起きないしな。既に詰んでいる。



 俺は電車通学なので、家から一番近い最寄りの平森駅から高畑駅まで乗る。自転車でも行ける距離なのだが、そこは親に甘えている。そして、高畑駅から少し歩くと、香川東学園に着く。公立だが、最近建て替えがあって校舎はきれいだ。校則とかはブラックだけどそこは黙っておこう。


 ちなみに俺らの教室は2階にある。学年と、教室がある階は一致してるから覚えやすい。香川東学園は、普通コース5クラス 進学コース3クラスのマンモス校。校則や制服などは不評だが、通いやすくて、学力もそこまで高くないので毎年倍率は高い。




 新学期も始まったばかりだが、進学コースは目指す進路や色々の都合で、あまりクラスメイトが変わらない結構特殊なコースだ。高1で、出来た友達と離れることもあまりなく、先生側としても指導しやすいのでとても良くて評判なのだそう。

 俺もなんとなく入った進学コースで、勉強はとても大変だが、数少ない友達と同じクラスでいれるので嫌々頑張っている。まぁ、俺は友達がいるから進学コースにいるだけだけで、勉強する気はないが。






 



 階段を上り、教室に入ると、俺を見るなりイケメンが近づいてきた。俺の数少ない友人の1人だ。


「おはよう、斗真。今日も眠そうだな」

 さわやか系イケメンで、頭も良くて運動神経も良く、性格も神なこの男、円谷祐樹つぶらやゆうき。陸上部で、俺とは別世界の人間だ。時々俺も、何で友達になったのかわからなくなってしまうほどの陽キャラ人間である。


「ああ、おはよう。ところで貸したラノベ読んだ?」


「おっ、読んだぞ。俺はみみ推しだったなぁ。やっぱラブコメは良いな。あ、そういや、昨日の野球は観たか?」

 祐樹は席が近くなったことで、話しかけてきてくれて、そこから仲良くなった。少しオタク気質なとこがあり、野球を観る等の趣味も同じで、意気投合して仲良くなった。まぁめぐりあわせというか、奇跡というか……


「タイゲース戦か? 岡山のホームランえぐかったなぁ」


「そうそう! 凄かったよな」


 と、2人で盛り上がっていると背中を強くバンと叩かれた。


「うぉっ‼ て、なんだカラメルか……ほんとやめろよな」

 

「やっほ~斗真! てか明日のテストいけそう?」

 こいつは、唐沢芽瑠からさわめる。愛称はカラメル。部活は生徒会。少しボーイッシュというかさばさばしてる感じで、コミュニケーション力が高く、男子からの人気も高い女子だ。祐樹繋がりで徐々に仲良くなっていった。俺一人では、女子と絶対に仲良くなれなかったので、本当に祐樹には感謝しかない。


「叩いたのはノータッチかよ」


「ごめんごめん。めっちゃ驚くから面白くって」

 カラメルは俺をからかうのが好きらしい。カラメルいわく、俺は面白い人間なのだそう。てかかわいい子に絡まれるだけでも緊張するからやめてくれ。友達になった今でも照れるんだよ、マジで。まぁ、そういう時にモテない自分が嫌になって鬱になるけど。


「ま、まぁいいけど。あと明日のテストは知らん。成績に関係ないし、適当にやる」

 と、照れる自分をごまかして何とか答える。


「お前、本当に勉強しないよな」


「斗真もちゃんと勉強しないとだめだよ?」


 友人2人に凄い視線を向けられました。でも、勉強はしないけどね。アレルギーだから、俺。




 まぁ、そんなわけで、学生生活自体は楽しい。人見知りだが、奇跡的に友達にも恵まれて傍から見れば幸せ者かもしれない。普通の学生だろう。


 けど、俺が本音や隠していることを2人にぶつけたら、果たして2人はついてくるのか? と考えてしまう。


 俺は不器用だ。世間知らずで何もできないし、親に何でも甘えている。俺は、メンタルが弱い。すぐ、ネガティブに考えたり、死恐怖症だったりする。あというなら三大欲求が強いな。まぁ、これは生物上仕方ないかもしれないところもあるかもしれないが。ブサイクなくせに何やねんというのもある。

 こんな俺の隠れた内面をさらけだしたらどうなる? きっと俺から離れるだろう。


 人間は発達しすぎた、と俺は思う。知恵を持ちすぎたあまりに、あれこれと問題が絶えない。考えることが多すぎて、人間は損をしている。ほんと、もっと気楽に生きたかったなとつくづく思う。俺たちは、日々何かを隠しながらピエロとして生きていく。本音や、秘密に悩みを隠しながら、また辛い日々を……





 


 

 新学期は始まったばかりなので、今日は楽に学校が終わった。早く下校できる日は最高でたまらない。そんな中、放課後、祐樹は陸上部に、カラメルは生徒会のいつもの部活動をしに向かった。俺も中学生の頃は部活に入ってたけど、面倒で高校では入らないと決めた。部活、ざまぁという感じだ。で、俺は放課後に何をするかというと、





「次は河原町~河原町。お出口は右側です」

 と、帰宅部の俺は今日発売のラノベを買いに市内に行くのであった! オタ活最高! 帰宅部最高! ちなみに河原町駅は、市内に遊びに行くときに一番使う駅である。アニメショップも近い。


 


 軽快なステップで電車を降り、改札口を抜け、ワクワクしながら駅を出ようとすると、高校生らしき女の子がヤンキーらしき男の集団に絡まれている様子を発見した。この時間帯は、人も多くないし、何しろヤンキーだ。皆、巻き込まれたくないから知らないふり、見ないふりをする。



 自分も絡まれないように、チラッと確認すると絡まれている女の子は香川東学園の制服を着ているように見えた。気になったのでもう少しバレないように近づいてみる。


「これ以上触ると、容赦しませんよ」

 あれ? この声、どっかで聞いたことあるような?


 と、そこで女の子と目が合い、バッチリと確認できた。


「やっべ」

 と俺は反射で逃げてしまう。絡まれていた女の子は、何しろうちの学校のマドンナであり、ヒロインであり、一番人気のお嬢様、桜葉瑞希さくらばみずきだったのである。容姿は確かに完璧だし、頭の良さは学校一。だが、ツンツンしていて人との関係を作ろうとしないことから苦手意識を持つ人も多い。

 まぁ、ともかくここは見ないふりだ。俺なんかが助けに行っても、逆に返り討ちにされるし、助けを呼んで、なんかそれで恨まれるのも嫌だし、うん。まぁ、影薄い俺の事は気づいてないだろう。俺とは違う、祐樹みたいな立派な男が助けるだろう。

 無視無視。見ないふり見ないふり。オレハナンニモシラナイ。


 


 そして、駅の階段を降りてそそくさと駅を去り、何も見なかったということで、アニメイトへ向かっていると、ドタドタドタど後ろから凄い足音が聞こえてきた。


「ちょっと待ってよ! 同じクラスの安佐川君でしょ?」

 あ、やべ。詰み。


「あ、桜葉さん。どうしたの? 偶然だね」

 と俺はとりあえずごまかす。


「なんで嘘つくの? さっき目あったよね」

 こっっっっっっわ。バレてもうてるやーん。


「いや、何のことだが僕にはさっぱり……」

 と悪あがきしても、


「なんで私のこと無視したの?」

 いや、圧! 圧がやばい! 


 とここで観念し、見たことは認めての言い訳のターンに切り替えることにした。


「いや俺なんか非力だし」


「でも行動しないと始まらないでしょ?」

 と一撃。そりゃぁ、完璧なお嬢様は言うよな、そうやって。まぁ、正論なんだけども。と、ここで腹が立って


「は? うるせぇよ。完璧のお嬢様はわかんないでしょうね」

 と、つい本音を言ってしまった。ただ、桜葉さんは


「あなた、クソ人間じゃん」

 と俺のことなんか気にしない感じで一言ぽつり。ただこれはノーダメージ。その言葉が俺に刺さると思ったか、はっはっは。



「そうだよ」

 クソ人間を自覚している奴には無傷なんだよ!


 すると、桜葉さんは言葉に詰まった。驚いたっていうよりも軽蔑のような顔だった。でもどこか悲しい表情も見えたような……


「素直に認めるのね」


「あぁ」

 だってクソ人間やしな。これでもかというぐらい条件を満たしている。証明の必要もない。自明だ。


「私にはその気持ちがわからないわ。けど少し羨ましい」


「羨ましい?」

 目が腐ってんのか、この女は。


「私も自由に、だらしなくて普通のような生活を過ごしたかった」


「というと?」

 なんか少しディスられている気もしたが、ここは黙っておこう。

 

「私は、親が厳しくて何も好きなことさえやれなかった。常に、最高や完璧、頂点、圧倒……そんな言葉ばっか言われてきて」


「そう、なのか」

 吐き気がするぐらいの毒親って印象だった。流行に乗って言えば、親ガチャ大爆死というところだ。生きていけるだけマシの最低保証。


「私も遊びたいのに」

 と桜葉さんは絶対に学校で見せないような悲しげな表情で、か弱い声でそう言った。


「なら遊べばいいじゃん。やりようはあるでしょ」

 俺もよく嘘をついて遊んだりしてたな。勉強会とかなんだか言って。

 てか、気持ちがジェットコースターぐらい乱高下しすぎじゃない? 

 まさか奥底で封印していたパンドラの箱の空ける鍵はクソ人間だったという、誰にも予想はできない衝撃の結末で。それは混沌とした人生だからこそでもあるわけで。


「そんな簡単に言わないでよ。もういいわ。今日はわからない問題があって、質問もかねて自習しに市内に来ただけだから」

 逃げようとする桜葉さん。ちなみに、桜葉さんは市内のレベルが高い塾に通っている。


「待てよ、お前は馬鹿か? 親が厳しくて、出かけたりできないのか知らないけどな。自習とかでいくらでも誤魔化しようあるだろ。行動しなきゃ始まらない、って言ったのはお前だろ?」

 と俺は引き止める。優しさが10%、ここで帰られると後々気まずくなるのが嫌で面倒くさいが90%と腐った精神にも思えるが。まぁ、とりあえず引き止めた。


「でも」

 と、反論を言おうとした桜葉さんを遮ってさらに俺は言う。


「それこそトラブルに巻き込まれたとか、学校で用事があったとか、腹が痛いとか。時には嘘も駆使してこそだろ」

 

 俺は騙すことは、度が過ぎていなければ悪いとは思わない。生き残る、というか生きていく上で絶対必要だからだ。本音ばっかりだと、上手くいかないことも損することもある。人間はずる賢い方が勝つ。これが俺の持論。

 まぁ、俺だって色々秘密隠してるしな。そういうもんだ。









「なら、ついてきて。遊びに行くから」

 桜葉さんは、俺を見つめながらこう言った。







  あれ、今思えばなんでこうなった?


 


 






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