【第一部】第二十二章 ソワソワ

 今朝方、学校の教室にて、アレンは自分の席の机の中にハートマークのシールで封のされた封筒が入っているのを見つけた。


 一限目の講義が終了し、トイレの個室で中の手紙を確認した。手紙には、こう書かれていた。


『貴方にお話ししたいことがあります。

 放課後、一号棟校舎裏の木の下でお待ちしております。

 お一人で来てください。――クレア』



 午前の講義は、全然集中できなかった。後方から、スゴい視線を感じる。


 稲姫はアレンの膝の上でいつものようにスヤスヤと眠っている。アレンはなるべく、意識的に自然にふるまった。


【昼食時】

 

 エリスやカール、稲姫といつものように昼食を取る。今朝方、カールやエリスにはこの封筒がバレてしまい、少し気まずいが、アレンは何事もなかったかのように意識してふるまう。


「それでさ、近所のパン屋の新商品がうまくて、稲姫も大喜びでさ――」

「あ~! あれ、おいしいよね~!」

「そうなんか、俺も食ってみてぇなぁ」


 エリスやカールもいつものように話題にのってくれる。――表面上は。


 だが、やはりどこか違う。


 どことなくぎこちないながらも、誰も封筒の件を掘り起こさず、何事もなく時間が過ぎて行った。


【午後の講義】


 午前と同様、後方からの視線を強く感じるが、だからと言って、どうしようもない。それよりも頭の中はクレアに対し、どう返事をしようかということでいっぱいだった。


 もう告白されること前提で考えてしまっている。でも、これは仕方が無いだろう。学校でも有名な逢い引きスポットに放課後呼び出されているのだから。

 

 健全な青少年としては、自然な反応だと思う。アレン目線でだが、クレアは美少女の部類に入るだろう。


 よく話すようになったのは稲姫が現れてからだが、アレンにとってクレアは、気兼ねなく話せる数少ない女子だ。一緒にいて癒されることも多い。



――しかし、そんなことを考えている時でも、アレンの頭の中には、とある少女達の顔が浮かんでいた。


【そして放課後】


 アレンはクレアに呼び出された一号棟校舎裏にイソイソと向かう。――と、その前に。


 トイレの鏡で髪をセットする。


(こ、これはマナーみたいなものだな、うん! あまり挙動不審にならないよう、落ち着いて、落ち着いて――)


 校舎裏に向かうと、約束の木の下には既にクレアが待っていた。アレンは腕に抱えていた稲姫を少し離れたところにおろし、一人でクレアのもとに向かった。


「ごめん、待たせたか? それで、話ってなんだ?」


 声は震えなかっただろうか。なるべく平静を装い、クレアに声をかける。


「ううん、私も今来たとこ――」


 クレアがそう答えると同時――



 アレンは、仮面をつけた怪しい奴らに囲まれていた。

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