【第一部】第四章 挑まれた決闘

――訓練場――


 それは唐突とうとつにやってきた。


 カールも交えまじえ、アレンがエリスとの魔法訓練を和気藹々わきあいあいと行っていたところ――



「エリス。そんなところで遊んでないで、僕と一緒に訓練しないかい? 僕が手取り足取り教えてあげるよ」


 学年首席で金髪イケメン。さらには貴族の長男であり家柄も確か。そんな外聞がいぶんすきのないミハエルとその取り巻き数人がこちらにやってきた。


「……遊んでないし、貴方あなたから教わりたいことなんて何もないから」


 エリスの反応はそっけない。


「ああ! それは申し訳なかったね。僕には君達が遊んでるようにしか見えなかったからさ」


 ちらりとアレンを見ながらミハエルはさらにあおってくる。美少女のエリスを自分の取り巻きに加えたいのだろうが、このところ、その挑発の頻度ひんどもやり口もエスカレートしてきている。


「ちょっと! ミハエルがわざわざ誘ってくれてるのにその態度ナニ!? マジありえないんだけど!!」


 取り巻きの女の一人がエリスにからみだす。


「いい加減にしろよ。こんなのまともな誘い方じゃねぇよ。ただの挑発だろうが。毎度毎度しつけぇんだよ!」


 カールがキレかけている。度重なる挑発に普段温厚おんこうなカールも堪忍袋の緒かんにんぶくろのおが切れたようだ。


「ああ! すまないね。君もいたんだ? 気が付かなかったよ」


 ミハエルのさらなる挑発にカールが表情を消す。アレンにはわかった。これは既にキレている。


 アレンは急いでカールとミハエルの間に入った。



「悪いんだけどさ。エリスは俺らと訓練してるから他を当たってくれないか? エリスも困ってる」


 ミハエルは待ってましたとばかりにカールからアレンに矛先ほこさきを変えた。ニヤリと口元を歪めゆがめながら――


「アレン、だったっけ? 君らごときのは訓練とは言えないんだ。ただのお遊びだ、自重じちょうしたまえよ」


 想定通りの皮肉が返ってくる。アレンが何か反論しようと口を開きかけるが――


「ああ、そうか。“拾われ子”の君じゃ、教養きょうようとは無縁か。無理を言ってすまなかったね」


 ミハエルがそう言うと、取り巻き達が示し合わせたように下卑たげびた笑い声を上げた。


 いつの間に自分の個人情報を調べたのか。不測ふそくだったこともあり、アレンは咄嗟とっさに返す言葉が出てこない。


――そんな時だった。



「……っ、あんまり調子にのってんじゃないわよ! 今の言葉! 取り消しなさい!!」


 それは、それまで不気味なまでに沈黙を守っていたエリスだった。今までにない剣幕けんまくでキレている。


 これには流石さすがのミハエルもたじろいだようだが、そこは腐っても口達者くちだっしゃの貴族。すぐに立て直し反撃はんげきに出た。


「本当のことだろう? 能力的にも内面的にも彼は君に相応ふさわしくない」


 そして激昂げっこうしているエリスは、普段ならスルーするような、ミハエルのあからさまな挑発に乗ってしまう。


「あんたなんかより! アレンの方がずっと強いし、内面だってすぐれてるわよ!!」


 エリスがそう言うと、『待ってました!』とばかりに、ミハエルがわらった。


「――っはは! 僕より強いし優れてるだって? なら見せてもらおうじゃないか!」


 そして唐突に、腰にいている剣を鞘から抜き取りアレンに突きつける。そして、この場にいる皆に伝わるよう、大声で宣言した。



「この私、ミハエル・E・テイラーは、今ここにアレンに“決闘”を申し込む!!」


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