忌々しい記憶
実を言うと、僕は英国諜報機関MI6の
ともかく、僕は昔イタリアで、あちらのマフィアの麻薬ルートを聞き出すために、マフィアのボスの親戚の男好きの男の金持ち(薄らハゲのデブ野郎)を堕とす任務についていたことがある。
適当にあしらってやったから実害はなかったけれども、そいつはずっとベットでどうこうしようという話ばかりしていた。聞いているだけで僕は死ぬほど胸が悪くなった。何度任務をすっぽかして殺してやろうと思ったか分からない。でも残り少ない愛国心をかき集めて耐え抜いた。辛かったな。
そいつはもう死んでいるけれど(殺したのは残念なことに僕ではない。僕に
マフィン君はもちろん、そいつと比べようもないほど良い子だし、どうかすると子犬のように可愛いけれども、駄目だ。駄目なんだ。可哀想だけども!
しかし、傷つけたくないからって曖昧に逃げるわけにも行かないのだろう。そんなことしたらマフィン君は次の恋に出逢えなくなってしまう。
僕はらしくもなく、十分くらい脳内で右往左往した。そして結局正直に伝えることにした。
「ごめんね、マフィン君。僕には……男同士の恋愛は出来ないんだ」と。
「そうですか」と答えたマフィン君はもう、見るからにガッカリして肩を落としていた。心なしか瞳も潤んでいるように見える。ああもう、ごめんね。
「いえ、ロビンさん、気にしないでください。良いんです」マフィン君は自嘲気味な微笑みを浮かべて言った。
「僕の勝手な気持ちを押し付けたりしてすみませんでした」
「大丈夫だよ。君こそ気にせずに」と僕は答えた。
「友達としてなら、これからも付き合えるからね」
「友達として、ですか」マフィン君はボソリと呟いた。
「それなら教えて頂きたいです。ロビンさんの理想とするご友人はどんな感じの方なんですか?」
「どんな感じって」僕は首を傾げた。
まさかこんな質問をされるとは思わなかった。僕の理想とする友人像? 難しいな。今まで考えたこともなかった。
「えっとね、君みたいな優しい子なら、誰でも良いよ」
「僕は真剣に聞いているんですよ、ロビンさん」
マフィン君は額に薄っすらと青筋まで浮かべている。どうしてそんなに怒るんだろう。
まあでも、出来合いの言葉を並べるだけじゃ、返って失礼だったか……。
僕はしばらく考えて、三つの条件を挙げた。
一、趣味や性格が大体同じであること。
二、いざという時に背中を庇い合えるような仲であること。
三、常に切磋琢磨出来る仲であること。
「なるほど、ロビンさんらしいですね」そう言ってマフィン君はうつむいた。
「いや、そんなに気にしないでね」僕はちょっと焦った。
「相性が良いに越したことはないけれど、人間としての価値を高め合うことが出来るなら、意見や考え方が違ってたって別に良いと思うんだ。深い所で理解が出来ていれば。逆にね、トラブルのない友情なんて本物じゃないと思うよ。だからさ、君も気に病まないで。君はそのままでも充分……」
「ふふふふふふ」急にマフィン君は肩を震わせて神経質に笑い出した。
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