伝えることの怖さ

隼人はやとさんはどうしてここに?」

「えっと、遅い時間だから送っていこうかなって…後はそのここ出る時に元気なさそうだったから」

 自分で言っていて恥ずかしくなったのか目を逸らしながら私に話した。

 こうなった原因は隼人さんなんだけど、とは私は言わなかった。

「慌てて追いかけて行ったら危ない感じになっててびっくりした」

「驚いたのはこっちですよ、おい!ってすっごい低い声で言って登場してきたんですから」

「かっこよかった?」

「はい」

 私は笑顔で素直に気持ちを伝えた。

 これだけは事実なんだから繕った笑顔で言う必要はない。


 隼人さんは何故か目を見開いて顔を赤くした。

 少女漫画とかそういう風な感じのでよく見るような表情に私は、怖くなってしまった。

 

 それが恋愛漫画の王道展開ハッピーエンドへ確定の道だ。

 ここは漫画の世界ではない、私は現実を生きる人間だ。

 今更かもしれないあれだけ好きだと付き合って欲しいと言っていたのに怖くなってしまった。

 私はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。


「じゃあ、また店来いよ。無理しない範囲でだからな?」

「わかってますよ、私一応受験生なんですから」

 何も話さずに私は無事家に着いた。

 私はお礼を言って隼人さんが見えなくなるまで家に入らずただ彼の背中を見ていた。

 その後は普通にご飯を食べてお風呂に入って勉強を少しだけしてベッドの上でぼーっとしていた。


 それを境に私は彼のお店に行く頻度は減って行った。

 毎日何があっても通っていたのに気がつけば一週間に一回行っているかどうかというレベルになった。

 本番が近くなっているからというちょうどいい理由を見つけた私は、それを利用してしまうようになった。

 隼人さんは「頑張れ」って応援してくれている。

 LINEでも「根つめすぎるなよ」って送ってくれる。

 その度に私は隼人さんに会いたくなる。

 お店に行こうとすると途中で足が動いてくれないから家に帰るまでがいつも通りになってきた。


 私の様子がおかしい事を親友のなつめが気づいていないはずがなかった。

「最近どうしたの顔超がつくほどの不細工になってるけど?」

「すごくチクチク言葉」

「チクチク言葉って懐かしすぎるわ…で、何があったか話せ」

 棗はムスッとした顔をして私を見ている。

 彼女なりに私のことを心配してくれているのだということはすぐに分かった。

 私は観念して素直に話すことを選んだ。

「隼人さんがねもしかしたら自惚れとか幻覚かもしれないけど、私に好意を持っているのかもしれないっていう話だよ」

「それは結構自惚れてる」

「かもね…それでさ私嬉しい筈なんだよ?だって好きな人と両思いかもしれないんだよ?…でも怖くなったの、馬鹿な話だよね好きなのに関係が変わるのが怖くなるって」

 棗は何も言わずにただ私を見て大きなため息をついた。


「馬鹿だなぁ」

「私も思ってるよ、あんなにしつこく好きだって言ってたのに」

「関係が変わるのが怖いのは当たり前なんだよ、いつも通りがそうじゃなくなるそれを怖いと思わない奴はいないよ」

 ピシッと指をさして棗は言い切った。

 私はその言葉に少しだけ救われたような気がした。

 怖いって思って良いんだそれが当たり前で良いんだって。

「棗…すごいね、人生何周目?」

「一周目だよ私前世とかそういうの信じないタイプだし」

「ありがと、なんだかうじうじしてるの馬鹿らしくなってきちゃった!受験終わったらちゃんと隼人さんとの関係終わらせてくる」

「ポジティブに…あーでもそっかアンタって受験もし志望校受かったら、県外か」

 第一志望のところが受かれば私は春から違う場所で新しい生活が始まる。

 だからもう自分から帰ってこない限りはここにいないのだ。














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