第21話 ヒーロー(?)参上!

 と、その俺の前に誰かの背中が立ちはだかった。

「うちの部員に何をしている」

「友田部長!」

 天の助けだ。

「俺たちは今後の大事な話をしている途中だ。関係ないやつは引っ込んでいろ」

 そう言う小田先輩は、目に見えるほど動揺している。

「そうなのか、蒔島」

 対する友田部長は、いつもと同じクールで頼りがいのありそうな落ち着いた様子だ。俺が女の子なら、思わず惚れていたかもしれない。

「いいえっ!そのお話はお断りさせていただきます!」

 小田先輩は悔しげに顔をゆがめ、こちらを一睨みして去って行った。

「はあ。助かりました。ありがとうございました」

 俺は心から礼を言った。

 友田部長は振り返ると、やや迷うようにしてから言う。

「その、家の事情を少し漏れ聞いた。将来を公私ともに支える右腕を決めるんだって?」

 俺は死んだような目をしたと思う。

「はあ。そんなことがなぜ漏れたんでしょうかねえ」

「まあ、元からここにいた人なら知っていたんだろう。古くからのしきたりなんだろう?」

「そんな時代に合わないしきたりは、やめるべきだと思いませんか」

 友田部長は気の毒そうな顔つきになり、

「その、まあ、がんばれ」

といった。

 何を頑張れとおっしゃるんでしょうか、部長。

 その流れで、一緒に帰ることになった。

「ダミーというのをわかった人をとりあえず選ぶとかはできないのか」

「釣書の人は祖父が選んだ人だけあって、ガチです。たぶん。

 そうなると、曾祖父の死んだときは念弟も殉死したらしいですし、祖父の念弟は生きているけど生涯独身で、とてもフリをのんでくれるとは思えません」

「探すと言っても、ああいう風に自動的について来るであろう権力とかが目的なやつもいるしな」

「はあ」

「その上写真が出回っていて、今更ながら下心を抱いたやつが出てきた」

 言って、友田部長は回ってきたという写真をスマホで見せてくれた。

 バイオリンを弾いているところを撮ったものだが、かなり遠い。しかしスワイプという便利だがこの場合は忌々しい機能を使うと、俺の顔がよく見えた。

 確かに、「誰だ、これ」という風貌だ。

「こんな顔と頭してたのか」

「なかなかの美人だぞ。平凡な顔の方が化粧をしたら映えるとかいうのは聞いたことがあるが、本当だな」

「確かに俺はモブの中のモブ。華がないと決定的に言われた顔ですからね」

「これで華がないとは言われないとは思うけど」

 俺たちはそろって溜息をついた。


 一緒に歩きながら話す。

「しきたりなあ。昔なら必要なものだったんだろうがなあ」

「そうなんですよ。今は職業も色々だし、それが決まるのは15よりももっと先。それに男限定にしなくても」

 ここぞとばかりに愚痴を言う。

 勇実は他人で唯一色々知っているが、一緒に悩むだけで相談にならない。春弥が反対のことを言えば、どちらも親しいのでどちらの肩も持ちにくいらしく、決定的な味方にはならないのだ。

「まあ、今日みたいなこともあれば──いや、それがあるから、あわよくば念弟になってというやつが出るとも言えるのか」

 ううむと唸る。

「やっぱり、全部わかって協力してくれる相手を作るのがいいのかもしれないな」

 友田部長が考えながら言う。

「フリをするというのをわかって協力してくれる人か。将来は適当なところでまた上手いことおしまいにできるならそれでいいんですけどね」

 不安もある。

「無理そうなのか」

「父も祖父も曾祖父も、途中で交代したりはしなかったですから。戦で死んだ場合のみらしいです」

 友田部長は引きつったような笑みを浮かべた。

「いいところ戦時中まではそういうこともあったんだろうな。

 いやあ、名家の跡継ぎも大変だな」

「それですよ」

 俺は言いつのった。

「弟の春弥なら問題ないから春弥が継げばいいと思うんですよ。弟といっても双子なんだから似たようなものだし」

「乱暴な言い方だが、一理あるな。よその長男次男というのとは、また違うか」

「でしょう。なのにあのクソじじい」

「プッ。悪い。蒔島はいつも丁寧で冷静だと思ってたから。くそじじいとか言うんだな」

 なおもツボにはまったように笑う友田部長に、笑いかける。

「友田部長だって、いつもはクールでかっこよくて隙がないけど、笑うんですね」

「当たり前だろう。笑わないわけがない」

「そりゃそうか」

 それで俺たちはまたも笑い出した。



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