(幕間)

奈落の母胎

 どれくらい時が流れたのか──。

 それとも、実際には、まだそれほどたっていないのかもしれない。

 寝ているとも起きているともわからない曖昧模糊とした世界にたゆたいながら、イルマラートはかろうじて自我を保っていた。

 この闇には、最初に思っていたほどの敵意はなかった。絡みつく蔓は、ただ逃がさないようにしているだけで、必要以上に締めつけてくることはない。こちらに逃げる意志がなければ、向きを変えることもできるし、手足を伸ばすこともできる。

 自由に動けないこと以外に、肉体的な苦痛はなかった。流れこんでくる力が、彼の体を生かし続け、さらなる変容を促し続ける。

 これは、檻であると同時に揺りかご──いや、母胎だった。

 勇者の命をいだき、新たに誕生するそのときまで、守り育む子宮。

 はたして生まれてくるのは、終末をもたらす魔王なのか、それとも──。

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