「性格:優しい」

朝食を食べた後、カフェを出て。


元開拓者ギルドの受付嬢であるファシアさんは、「鑑定士」というスキル持ちであることを俺に明かした。


思慮深げな深緑色の瞳は、俺の前で、燃えるような赤に変わっている。



「今日の朝、私が先に目をさましたとき。申し訳ないですけれど、マルサスさんのステータスをこの目で確かめさせていただいたのです」


「あぁ、そうだったんですか」


「ええ。昨晩、御迷惑をおかけした記憶があって、おそらく介抱してくださったのだろうなとは分かっていたんですけれども。


一応起こす前に、どういった方なのだろうと確かめさせていただいたのです。

ご不快に思われたなら、申し訳ありません」


ファシアさんは深く頭を下げた。


「えっと、不快に思うとかはないですよ。確かに朝起きて知らない人といたら、警戒するのは当然のことでしょうし……」


「すみません、察していただいて」


ファシアさんの眉尻が下がった。


「いえ、鑑定されたこと自体はほんとうに気にならないので、大丈夫ですよ」


俺はそう言って、薬屋へ向かって歩き出した。




「あの、純粋な興味なんですけど。鑑定スキルを人に用いた場合、具体的には何を知ることができるんですか?」


歩きながら俺は、ファシアさんに質問した。


彼女の瞳は、もう元の深緑に戻っている。口元に手をやった後、彼女は言った。


「そうですね、鑑定スキルにも色々とあるかと思いますが……

私の場合は、その人の性質というのか……端的に言うと、『本性』を知ることができるみたいです。


どんな性格の持ち主で、それはどんな長所や短所につながっているのか。そこから、向いている仕事や向いていない仕事、こちらが関わる時にはどんなことに気を付けて接すればよいだろうか、なんてこともだいたい検討がつきます。


まれに鑑定しにくい人もいますけれど、信頼しても良い人物かどうかは、大抵一目ではっきりさせることができます。


マルサスさんの鑑定結果は、とても信頼できるものでした。ですから迷うことなく、お礼させていただいたのです。


逆にもし鑑定結果が……その、ちょっと厄介な方だなと思うものだったとしたら。マルサスさんを起こすことなく、そのまま立ち去るつもりでした。


介抱していただいた手前、何も残さずに姿を消すのはよくないことですけれど……でも相手の方によっては、面倒なことにならないとも言い切れませんから」


「そうですよね」


俺はうんうんと頷いた。


するとファシアさんが、不思議そうにこちらを見た。


「……え、どうかしましたか?」


「いえ。すごくすんなり受け入れてくださるなと思って。

スキルで見させていただいたから分かってはいたのですが、本当にお優しい方なので、ちょっとびっくりしちゃいました」


「あ、俺を鑑定して分かった性質って、『優しい』だったんですか?」


「あっ、えっ、えっと…………はい」


なぜかファシアさんが、恥ずかしそうに耳を赤くする。


『いや、別に俺は恥ずかしいと思わないからいいんだけど、この場合恥ずかしがるとしたら、面と向かって性格について知らされた俺の方なんじゃ……?』



そんなことを思いつつ、薬屋に到着。


『やっぱあのカフェ、すごく近いな。


パンもコーヒーも美味しかったし、何より店内の雰囲気がすごく良かった。

これは通っちゃうかもなぁー』



「じゃあ、中で詳しい契約について、話し合わせてもらっていいですか?」


「はい、ぜひよろしくお願いします」


ギルドの元職員さんらしい品のあるお辞儀を、ファシアさんは見せてくれる。



薬屋の契約三人目は、元開拓者ギルドの受付嬢で、「鑑定士」スキルを持つファシアさんに決定した。

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