第49話

「なんで黙ってたんだよ」

「……私もその先代も子供のうちに能力は消えるの。私は6歳くらいまでずっとみえていた。霊能力者を使っていた記録は代々大人たちが記すことになっていて……それで残ってはいたの。そして予告もなくいきなり能力は無くなって……同時にそれに絡んだ記憶も残ってない。これまた先代も同じ」

「なんて恐ろしい。でも俺らはどっちかというと……」


 美帆子はコウと由貴たちが事故で命と共に霊視能力を勝手につけられたことは知っている。

「……未だに美守が能力が消えない。もう小学生中学年……急に能力が消えたら今までのことが……消えてしまう」

 美帆子の声は震えている。


「まさか俺らを雇ったのも……」

「貴方達が天狗様と繋がっているからよ。コウと出会った時に天狗様と倉田さんを紹介してくれたけど……これはもしかしたらなんとかなるかと……ごめんなさい、浅はかな理由で」


 コウは美帆子の背中をさする。彼女は泣いていた。

「……やたらと天狗様と倉田さんにも仲良くしてるのも、探偵なのに心霊事件も扱うのも理由があったのか」

「ごめんなさい、黙ってて」



 すると

「……ぼく、どうしたの」

 美守が目覚ましたのだ。美帆子は驚き、涙を拭った。まだ横になってなさいと言うが美守は体を起こした。


「……どうしてここに横になっているの? 僕」

「記憶にないのか?」


 彼は


「お母さん、……コウくんと由貴くんとお話ししたい」


 と言うと美帆子はコウを見た。コウは頷く。


「コウくん、由貴くん、頼んだわ」


 美帆子は心配な顔をしながらも部屋を出た。


「大丈夫か、まだ横になってろ。もう少し回復して一眠りしてほうがいい」


 とコウに言われても美守は首を横に振る。


「ていうか記憶は残ってる。僕が取り憑かれた直前まで……その時二人の後ろ姿見つけたけどその後は口裂け女に体全部乗っ取られちゃって。あ、今は寝てるよりかは座ってた方がいい」


 とゆっくりと再び体を起こした。

「……いくつか聞くが無理だったら答えなくていい。由貴は手を握ってやってくれ」


 由貴は頷いて美守の手を握ると彼の手はとてと冷たかった。


 コウは指を鳴らし、とある幽霊を呼び出した。それはあの仕立て屋で見た霊。

『こんにちは、どうしたんだい?』

 美守にとっては血はつながらないが、親族でもある。


「美守くん、いまこのおじさんは見えるか」

「うん、見えるよ」

「わかった。おじさん、ありがとう」


『え、それだけ?』

 と言いかけたところでコウに消される。



「なるほど、まだみえる。一年前に市役所に花子さんを連れてきた自覚は」

「……はい。学校のトイレで啜り泣く声がすると噂が出てて。僕が一人乗り込んだら汚いトイレで辛そうにしていた花子さんがいたから……ちょうどその日は市役所見学だったから着いてきてもらったんだ」

「そうやってやったことは他には?」

「何回か。コウくんはできる?」

「んー、さっきみたいに呼び寄せることはできるが、連れて行くか……それはしたことがなかった。勝手についてくるのはいるけども。霊の移住能力は美守くんの特権かもな」


 美守はうつむいた。


「いけないことしちゃったかな」


 実際はそうなのだがコウは首を横に振った。


「花子さんは汚いところから出られたからよかったと言ってた。まぁ……奥のトイレだったけどもさ。今回のあの口裂け女みたいなやつは君のことを悪用してた、だから悪くないから」

「……あの口裂け女さんも助けてくれって叫んでた……だから助けてあげたんだ」

 コウはそれを聞いて由貴を見た。


「そうか、あれは救いを求めていた人間が死んで恨みに恨んで口裂け女に化けてもっと悪霊化したのか」

「かもしれんな……厄介なことだ。にしてもあの力はすごい強力だった……俺らが退治せずあのまま市役所にいたらたいへんなことに……」

「まぁ取り壊されるからそのまま置いといてもよかったんじゃない?」

「ばか、人巻き込んでたぞ……死傷者も出ただろうに」


 二人はいつもの調子で話していると、美守が言った。


「ねぇ、僕を運んできたのは二人?」

「槻山さんがここまで運んでくれたんだ。まだ仕事あるのに、いいお父さんじゃないか」


 と由貴が言う。由貴もコウも父親がいない分、実質二人の父親がいる美守が羨ましいようだ。


「お父さんが……」

「君にとってはマスターも槻山さんもお父さんなんだね。二人もお父さんがいる……たくさん多くの人に愛されている」

「だよね、ふふふ」


 美守がようやく笑った。


「自分で愛されてる、そう分かるのはいいことだね」

「へへっ。そういう由貴くんも」

「うん、わかってる……僕は引きつける霊力があるからね」


 気づくと部屋の中にいくつか霊が入ってた。


「僕もあるみたいなんだ。だからより一層引きつけちゃったかな。あ、コウくん。除霊しますか?」

 コウは部屋に入ってきた霊たちを見渡す。


「まぁ悪さしそうにはないけどな、まず美守くんの体調回復のためにも……」

 と手を構えて呪文を一言唱えた。


「コウくんが来た時からね、あーこの人もみえる人なんだ……と思ったけどそれ言えなくてさ。お母さんも言えばよかったのに。てかさっきの話も聞いてたよ」

「えっ」

「てかね、僕……倉田さんや天狗様とも会ったことある」

「えええっ」

 コウと由貴は前のめりになった。


「黙っておいてね、て2人には言ったの。もちろんお母さんにも」

「んでんで?」

「おかあさんや先代の人たちは決して勝手な能力が消えたわけじゃない、能力を捨てると決めたからだって」

 という衝撃なことを聞きコウと由貴は驚いた。


「何度か天狗様とかに能力はいらないか? って聞かれたけど僕は幽霊さんにお世話になったし、それでここまでやってきて今更能力失ってなおさら記憶も無くすなんて嫌だから……」

「しっかりしてるなぁ、美守のなかにおっさんでも入ってるか?」

「へへへ」

 と屈託のない顔で笑う美守。生まれた時から能力を持っていたものと、途中から能力を持ったもの同士である。


「僕もこの能力と共に生きていくよ。……実の所悩んだ時あったけど2人を見てたらそんな生き方もありかなーって」

「美守くん……」

「2人がここにきてくれたからだよ、ありがとう」

「ありがとう……だなんて」

 コウは少し照れ臭そうになったが横で美守の手を握っていた由貴はオウオウと泣いている。


 少し前までは与えられたこの能力に苦悩していた彼だった。だがこうして人から感謝までされて胸が熱くなるようだ。

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