第47話

 鞄を斜めがけをし、ファイル見たいのを手にしている。


 だがコウと由貴は驚かない。なぜなら


「あれ、コウちゃんと由貴くん」

「美守くん、どうしてここに」


 二人はこの少年、美守を知っているのだ。そして美守も二人同様霊視能力を持っているのはなんとなく気づいていた。


 それは美守の誕生日パーティーの際、誕生日ケーキの上に消えない蝋燭の火。確かに何度も美守が吹き消しても消えず。ほかのすうほんの蝋燭の火は消えているのにそれだけは消えない。

 コウたちは意識をしてケーキをよく見ると……なんと蝋燭の火と同じくらいの大きさの人魂が浮いていたのだ。


 みえない人たちにとってはなぜ日が消えないのだろう、と不思議に思っていたがみえるコウと由貴はその人魂に睨みつけるが目の前にいた美守もその人魂をずっと見ていたのだ。

 そしてその人魂と周りに聞こえない小さな声で話をしていたのだ。


 すると次第に人魂が大きくなり破裂しそうだとコウが後ろから周りに気づかれないように人魂を成仏させた。コウと由貴が意識しないとみえないものだから低レベルの霊の人魂であったがそれと対話している美守はみえる人間だと察した。

 しかし仕事の忙しさと美守も学校と剣道で忙しく話はできなかったのだ。


「もしかして……」

 由貴は冷や汗をかく。



「……由貴、美守の後ろに何かいる」

「ああ。なるほど、この気はこれだったのか」

 すると美守が後退りする。美守の目は赤く光る。もう何かが身体も意識も乗っ取られていてうまくコントロールが効かないようだ。


「美守っ、見学終わったなら帰りなさいと言ったろ。すいません、今日は小学校の宿題で父親の職場見学だったようなんですよ」

 槻山が立つ。

「槻山さん、今美守くんに近づかないで」

「えっ……」


 由貴はコウの横でカメラを構えている。もうこのような事態は慣れっこである。

 美守の体が震えている。彼の後ろで大きな黒いものが渦巻いている。


「そうか、美守くんが霊能力持ってることをいいことに学校の幽霊達がついてきたんだな。一年前の市役所見学の時に花子さん、今回は……」

「違う、僕が連れてきたんだ」

「なんで?!」


 美守は身体を乗っ取られながらもなんとか意識を取り戻して声を出した。しかし普通の声ではない。黒い渦がさらに膨張する。



 コウはその黒い渦の中から口が異様に裂けた女が見えた。


 それは口裂け女、もちろんこれもトイレの花子さん同様、何者かの幽霊が口裂け女に転生したもののようである。

「美守くん!」

 明らかに美守が連れてきたにしては大人しくない、かなりの怨念が渦巻いているようである。意識しなくてもみえるほどの霊。このままでは市役所ごと吹き飛んでしまう威力だ。


「なんで連れてきたかしらんが、今回は利用されているだけだぞ! って美守……もう無理か?!」

『わたしーきれいー?!』

 美守の口から典型的な口裂け女のセリフが出る。


『わーたーしーきーれーい!?』


「美守! どうしたんだっ! コウさん……これはっ!」

 槻山は美守の元に行こうとするがコウは部屋の奥に押し込めた。

「槻山さん、だから奥に隠れてください!!!」

 部屋の中は由貴、コウ、そして口裂け女に乗っ取られた美守の三人。


「退治するぞ……市役所は吹き飛ばさんぞ! 誰も怪我させんぞ! 口裂け女、いやお前は口裂け女のフランチャイズみたいなもんやな!」

 そう言われて黒の渦はビクッとうねった。

『なにをいう! 私は口裂け女、正真正銘の口裂け女!』


「るっさぃ! 本家のモノマネしただけの女じゃないか」


『モノマネじゃない、モノマネじゃ……』

 と声を出したのを最後に美守の体から抜け出した黒い渦。美守がずさっと倒れたところでコウが体を抱きかかえる。槻山も諦めずに行こうとしたが、また止められた。


「美守はどうしたんですかっ!」

「今は近づくな! 何度も言ってるのに往生が悪いな! 危険だぞ」


 騒ぎを聞きつけた他の役所職員たちが入ってくるが由貴が大きな体を生かして部屋に入らせないようにした。


 黒いもやはうずまく。

「由貴、あっちの窓を開けろ!!!!!」

「ラジャー!」


 由貴は個室の窓を勢いよく開けた。そしてコウが手を構え何度も組み替え呪文を唱える。


 ウゴゴゴオオオオオオ


 と、黒い渦は声を出す。


「とっととうせろ!!!!!」



 ぐああああああああああああああ




 ぐぅううううんんんんん!!!!




 と渦巻いた黒いものは窓から出ていった。槻山がまた部屋に入り美守を抱き抱えた。

「美守、大丈夫かっ!」

 呼びかけるが応えない。


「大丈夫、気を失っているだけです」

 とコウが言う通り、美守はスースーと寝息を立てた。


「よかった……美守! 二人とも、何が起きたかわからないけどありがとうございます!」

 槻山が深々と頭を下げる。


「槻山さん、つかぬことをお伺いしますが……美守くんはその、霊がみえたりしますか?」

「へ?」

 槻山はキョトン、としていたが何かを思い出して

「……妻、前の妻……美帆子は子供の頃霊能力を持ってたとかなかったとか。記憶はないが代々子供の頃は彼女の血筋は霊能力者だとか……まぁ、酔ってた時にだいぶ前に聞いたことですから。どう……」

 と笑いながら言う。だが美守はぎゅっと抱きしめる。


「色々あって離婚して……離れて過ごしていても本当に大事な我が子。霊がみえるとかそんな……これから将来どうなるんでしょうか。辛いことしか待ってないのか……またこれからもこんなことに巻き込まれたりもしたら……」

 コウがそう不安になる槻山の額に人差し指を当てた。


「大丈夫です。この能力上手く使いこなせばなんとかなる……俺らが教えてなんとかするから心配するな」

「え?」

 と槻山がコウの目を見た瞬間、コウの人差し指が光ってその場は一瞬何も見えなくなった。


 が、再び槻山が目を覚ますと

「あれ? 美守がなんでここに?」

 腕の中になぜ美守がいるかわからないようだ。


 騒然としていた市役所もそのまま、いつも通り。

「なにがあったんだ? ……一旦家に帰してあげようか」


 槻山もだが周りの人たちも一体何があったのか、わからない。


 そしてその場にはコウと由貴はおらず、市役所から人に紛れて出ていった。


「……コウ、周りの記憶を消すだなんて。手荒なことするな、相変わらず」

「そうか? にしても本当に変なのばかり最近出るなぁ。今日も塩風呂たっぷり浸かりたい」

「おう。てか今回の件は市役所に口裂け女現る……でいいか?」

「あんなでしゃばりな口裂け女ネットで流したらあいつの思う壺だからボツ!」

「えーっ、ボツ?! あんなに疲れたのに……」

 由貴はガッカリした。コウは由貴の背中を叩いて慰めた。


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