それゆけ！地球防衛部！〜怪しげな部活に入ったら地球外敵性侵略者まで探すことなったんだけど、そろそろギブアップしたい〜

ようこそ、地球防衛部へ

地球を愛する心

　春――。

　麗らかな陽射しの中、満開の桜並木は風に揺れる。桃色の花弁が風に舞い、空に彩を添え、新たな季節の到来を祝うかのようだった。

　着慣れないブレザーに見を包んだ新入生は、期待と不安を抱えながらも新しい校舎を見上げながらこれからの学園生活に思いを馳せる。

　そして、それは山田宗介も同じであった。

「……ここが、僕が通う学校……」

（栞姉から勉強を教わったおかげで何とか合格できたけども、問題はここから……）

　宗介は、強く拳を固める。

（なんとか……青春を謳歌したい！）

　切実である。

　灰色の中学生時代を過ごした彼にとって、それは切実な願望であった。

　……だがしかし、現実は甘くはない。クラスで各々自己紹介をしたものの、登校初日から親しい友人など出来るはずもなく。

　結果、お互い距離感を図り合うだけに留まり、孤独な放課後を迎えるのだった。

（……ま、こんなもんだよね。高校生活初日からビッグイベントなんてあるわけもないし……）

「…………」

（気にしてないけどねぇ！！）

　めちゃくちゃ気にしていた宗介である。

　なぜ宗介がたった一人で廊下を歩いているかと言うと……帰ろうとした矢先、担任の先生に見つかり雑用を押し付けられてしまったからであった。

「っていうか、先生も先生で新入生に荷物運ばせないで欲しいよ。備品室がどこにあるかなんて知らないんだからさ……」

　っと、その時だった。

　廊下を歩いていた宗介は、窓際に立つ一人の少女を見つける。

「…………」

　栗色の肩ほどまでの髪は、短いながらも艶やかで優しく揺れる。身長は小さいものの、その可憐な表情は、春風に舞う桜の花びらがやけに似合っていた。

（うわぁ……すっごいかわいい人だな……。校章は、２年生？　あんな人と仲良くなれたら、最高の高校生活になるんだろうなぁ……）

　ふと、宗介は自分の姿を鑑みる。

（……まあ、その他大勢の中に埋もれてしまって二度と出てこないような一瞬の背景的男子な僕には一生縁のない人なんだろうけどね……）

　酷く卑屈になっていた宗介であった。

　すると……。

「……ん？」

　少女は宗介の方を振り向いた。

（あ、やばっ。目が合っちゃった）

「……その校章、新入生？」

「え！？　あ、はい！　１年です！」

「そっか……。入学、おめでとう」

「は、はい！　ありがとうございます！」

（うおおおおおおおおおおおお！！　こんな美少女と会話できたぁ！！　例え今日死んでも一片の悔い無し！！）

　宗介の人生難易度レベルは低かった。

　有頂天になる宗介だったが、ふと気になることが。

（……でも、なんだか元気ないな。どうしたんだろ……）

「あ、呼び止めちゃったね。ごめん。どこか行くところだったの？」

「はい……。ちょっと、備品室に用事が……」

「…………え？」

「ん？　あ、あの、備品室へ行こうかと……」

「…………」

（なんだろ……急に黙っちゃったけど……）

　何事かと困惑する宗介。

　そして彼の目の前の少女は、少しずつ表情を柔らかくし始めた。

「……ほ、本当に？　本当に備品室に行くつもりだったの！？」

「ええ、まあ……」

「……や、やったぁぁぁあああ！！」

「！！？？」

　急に飛び跳ねて喜び始める少女に、宗介はただただ困惑する。

「こっちだよ！　付いて来て！」

「えええ！？　ちょ、ちょっと待って……！」

　少女はそのまま走り始める。わけがわからない宗介だったが、備品室まで案内してくれるのだろうと思い、とりあえず付いて行くことに。

　やがてその部屋の前へとたどり着いた２人。

　表札は確かに『資料室』となっていた。だがその扉には大きな紙がベタリとビニールテープで貼られ、見るからに手書きといった感じで、とある言葉が書かれていた。

　宗介は、その言葉を口に出した。

「――……『地球防衛部』？」

「ふっふーん。ささっ、入って入って」

「は、はぁ……」

　上機嫌な少女に促されるまま、中に入る宗介。

　室内はごく普通の部屋だった。部屋の至るところに備品が並べられ、或いは積まれ、中央には無理やり置かれたであろう長机が２つ。

　奥の窓からは夕日が射し込み、光の斜線の中では小さな埃が踊るように浮かんでいた。

　宗介が持っていた荷物を部屋の隅に置いたところで、少女はどこか誇らしげに腕を組んだ。

「それにしても驚きね！　新入生なのに私達のことを知っていたなんて！　一時はどうなるかと思ったけど、これで全て丸く収まって万事オッケー万々歳ね！」

「ちょ、ちょっと待ってください！」

「うん？　何かな新隊員くん？」

「いえ、新入生です」

「謙遜しなくていいのだよ新隊員くん！」

「新入生です」

「ハッハッハッ！　新隊員くんは照れ屋さんだね！」

「同じ言語で話しているはずなのに全くコミュニケーションが取れないって軽くショックですよね」

　話が全く通じないことに果てしない不安を感じた宗介は、おそるおそる聞いてみることにした。

「あ、あの……ここって……」

「ここ？　もちろん備品し……最前線基地だよ！」

「今備品室って言いかけてましたよね。途中で言い直しましたよね」

「細かいことを気にしていたら地球の平和は守れないよ！　新隊員くん！」

　そして少女は、胸に手を当てた。

「……そう、ここは、地球の平和を守る最前線基地……」

　カッと目を見開いた彼女は、右手を宗介に差し出した。

「ようこそ、『地球防衛部』へ！　私達は待っていたんだよ！　キミの中の、地球を愛する心を！」

「地球を……愛する心……」

「これからよろしくね！　新隊員くん！」

「…………」

　黄昏の光に包まれる室内で、少年と少女は向かい合う。

　これが、山田宗介と桐島ひなたの出会いであった。

　そして宗介は、満面の笑みをひなたに返した。

（……うん、これ、絶対に関わっちゃいけないやつだ）

　満面の笑みのまま、全身の震えが止まらない宗介であった。