1-2.J

1-2.J


バンはゲートを抜け、市街地を走ってゆく。


『ま・さ・に・バ○オ、ハ○ード! アヒャヒャ』

横縞セーターの女が笑った。

「黙って座ってなさい」

赤毛の女は目もくれない。

『だって、つまんないんだもん』

「地図でナビゲートして、フラニー」

赤毛の女はチラと助手席の女を見る。

横縞セーターの女、フラニーはニヤニヤしたまま。

おふざけが好きで、何を考えてるのかよく分からない性格をしている。


「目的地はそろそろのはず」

『アイサー、ちょっと待って』

フラニーは地図を睨みつけてから、

『モールとはまたお約束だねぇ、ルチア』

フラニーは意味ありげに言う。

赤毛の女、ルチアは無言。


そのまま走り続けて、目的地に着いた。

郊外に位置する大型のショッピングモールだ。

車で乗り付けて、大量に物資を購入して帰る。

ルチアとフラニーも思う存分買い物をして帰りたいところだが、しかし、彼女らの目的は買い物ではない。

『早速、おでましだぞ』

フラニーは右手の人差し指のナイフで外を指さす。


唸り声。

ペタッ、ペタッ、という足音。

引きずる用な音も混じっている。

血まみれの顔。

苦痛に歪んだ表情。


モールの敷地に群れていたのは、そのような人々であった。

デッドピープルだ。


ひゅう。

フラニーは口笛を吹く。

『銃で撃ち抜く? それともバンで突撃する?』

「「J」を出す」

『最初からクライマックスゥ』

フラニーは冗談っぽい口調。

ルチアは車をターン、後方をモールへ向けた。


バン!


後ろのハッチが開き、


ゴトン


中から何かがずり落ちた。


樫の棺。

幾条もの鎖が巻き付けられている。


「我が主神の許しを得て、不死の魂を解き放たん」

ルチアが何事か唱えると、


ビシッ

ビシッ


鎖がはじけ飛んだ。


ボン!


棺の蓋が跳ね上がる。

蓋は遠くのアルファルトに落ちた。


棺の中から、のそのそと何かが這い出でてきた。


ブラウンの髪をツインにした女。

胸は平坦である。

手にはマチェット。

ボロボロのジーンズにTシャツ、同じくボロボロのジャケット。

顔にはホッケーのマスクを被っている。

コードネーム「J」。

アメジストレイクの不死者。死なない化け物。


『いいぞ、やれー』

フラニーが呑気に窓から見物気分ではやし立てる。

『……』

Jは、しばしボーッとしていたが、急にバンを振り返る。

ルチアは親指を立てて逆さまに指さした。


やれ!


という合図だ。


『……』

Jは再度敷地内の群れを見る。


不思議そうに首を傾げる。


「ガァッ」

群れの一体が飛びかかってきた。


両手で組み付いて噛み付こうとする。

次々に組み付いて来る。

多勢に無勢というヤツだ。


ブンッ


しかし、Jが身を振ると、そいつらは吹き飛んだ。

宙を飛び、キリキリ舞って、地面に激突。


首の骨が折れたヤツもいたようで、動かなくなる。


ブンッ


マチェットが唸りを上げ、歩く死体の首を刎ね飛ばした。


『ジェニファー、ちんたらしてると終わらないよ』

フラニーが煽る。

『うるさい、フラニー』

Jことジェニファーはイラついたようだった。

『こうすりゃいいんだろ!』

今、首を刎ねた死体の胴体にマチェットを突き立てる。

そのまま、体ごとを持ち上げて、他のヤツらへぶち当てる。

『うぉおッッ』

力任せに死体をぶん回し、歩く死体どもをぶっ倒してゆく。

ジェニファーの後に道ができた。

「よし、活路が開けたな」

ルチアはバンを進めて後を追う。

『活路ねぇ…』

フラニーはつぶやいた。

切り開いたその道は死地にしか見えない。

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