第25話 天狗と九尾の過去の回帰①

僕は他人が嫌いだ。

僕をみんないじめるからだ。あやかしも人間もみんな僕をいじめる。

僕はまだまともに妖力を扱えない事をあやかしたちはからかい、人間は弱い僕を見て他のあやかしへの鬱憤を晴らすように僕を虐げる。


「いつか復讐してやるんだ……」


「また独り言言ってんのか?」


「…来るな!」


「来るなってお前…そんな事言うなよ〜俺ら友達だろ?」


そんな飄々とした声で僕の元へ現れたのは天狗の子供だ。こいつは僕をいじめないばかりか、何故か僕を友達と呼ぶ。


「僕はお前なんか友達だと思った事ない。いいからあっち行け!」


「あっち行けって言ってもなぁ……もうすぐあいつが来るじゃん?お前もその為にここに来たんじゃねぇの?」


「だとしても僕は馴れ合うつもりなんてない。あいつだってそうだ。いつかあいつを──」


「お、俺がなんだ?このガキ狐がよ」


突然僕の後ろから声が聞こえて、僕は後ろを振り向いて警戒する。


「お、きた変な人間。さっさと妖術の使い方教えろよ〜」


天狗はその人間に手を振りながらケラケラと笑いながら言う。


「まずはおはようございますだバカガキ天狗。いつになったら礼儀って言葉がわかるんだお前は」

「あと人間って言うな、俺の名前は総一郎だ。総ちゃん師匠と呼べ」


「はーい、総一郎〜」


「呼び捨てかよ…まぁいいや」


そこの2人が会話をしている間に僕は静かに手の中に妖力を溜め込んでいた。そして溜め込んだ妖力を自分の妖術に変化させ火へと形を変える。


「人間めこれでも食らえ!!」


僕は火の玉を眠そうに鼻をほじっている人間に向けて思い切り投げる。たが、その火の玉を口から吐いた息でかき消して欠伸をする。


「なっ…!」


僕が驚いた顔をしていると、あいつはニヤニヤとした顔でこちら見る。


「お前は本っ当に妖術を使うの下手だな〜。妖力の量はかなりのもの持ってるのに、それの使い方がまるでなってねぇわ〜」

「お前ごときの妖術なんて寝てても効かねぇわ〜」


そう言ってあいつは僕をバカにしたように笑う。


「ま、俺に一撃でも入れたかったらもっと修行を積むんだな。じゃあ今日もやるか〜」


その男は大きく伸びをして僕らの前に立つ。


「俺が死んだらお前らの修行は終了な」


そう言ってニヤッと笑った。

この男は僕達あやかしに妖術の使い方を教えてくれてる謎の人間。そして、人間のくせに何故か妖術が使える不思議な人間だ。

天狗と狐と人間。この奇妙な組み合わせが出来上がったのは半年前に遡る。


─────────────────────


「はぁ…はぁ…」


僕は息を切らしながら走っていた。後ろからは怒号が聞こえてくる。


「待て!化け物め!ぶっ殺してやる!」


「あいつめっちゃ弱いぞ!これなら俺たちでも……」


「よくも村の奴らを…!日頃の恨みだ!!」


違う、違う。僕じゃない。僕はだれも殺してなんていない。殺したのは他のあやかしで僕はそこに引きずられてきただけだ。

周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。僕をあの人間たちの前まで連れていって逃げ惑っている姿を見て楽しんでいるらしい。


「僕は…僕は何もやってない!!僕じゃ…僕じゃない!」


妖術で逃げようと試すが、走り回っている状態では上手く使えない。使おうとすると途中で消えてしまう。


「なんで…なんで僕はこんなにも…!」

「あっ…!」


僕は悔しそうな声を出した後に、あやかし達に足を掛けられてその場に転んでしまう。


「間抜けなあやかしだ。何も無い所でこけやがった」


「僕じゃない…僕は何もしてない…!」


「あやかしの言葉なんて誰が信じられるか!!」


「……っ!」


僕は人間に殴られて吹き飛んでしまう。

殴られた場所が熱い。コケてできた傷からは血が流れる。口が切れてしまったのか血の味がする。


「おいこのあやかし震えてるぞ!!」


「これは傑作だ!いいか?これが俺たち人間様の怒りだ!!」


そう言ってうずくまっていた次々に僕を蹴り始める。僕は最早抵抗することを辞めてその場にうずくまる。

なぜ僕がこんな惨めな思いをしなければならないんだ。それは分かっている、理由は単純で僕が弱いからだ。

弱い者は淘汰される。弱い者に価値は無い。

いつか僕が強くなったら…

僕が妖術を自由に使えるようになったら……


(絶対に殺してやる……)


突然当たりが明るく光ったかと思うと、破裂音のような物が辺りになり響く。


「な、なんだ?!」


「こんな雲ひとつない夜になんで雷が…」


「きっと化け物だ!に、逃げるぞ!」


人間たちはその爆音に驚いてどこかへと走っていく。


「助かった…のかな…?」


そう思って顔をあげると、遠くから2つの人影が現れる。僕は警戒するようにそちらを見ていると、ド派手な甚平のような格好した眠そうな顔をしている人間と僕と背丈が変わらない天狗の子供がこちらへと歩いてくる。


「おーい、生きてっか〜」


「うっわ〜ボロボロじゃん。ていうか、睨んでるよ。ほら〜やっぱあんたが怖いんだよ」


「あ?!こんなにも優しそうなこの俺が怖いわけないだろうが!大体助けたの俺なんだから、感謝の言葉をいうべきだろ??」


「そーゆー事言うのがダメなんじゃね??な〜狐、大丈夫か?」


「……来るな!!!!」


僕はその気の抜けた会話するふたりを睨みつける。


「なんだお前らは!なんで人間とあやかしが2人でいるんだ!何が目的だ!僕をどうするつもりだ!」


僕のその言葉に2人は驚いた顔をしていた。そして天狗の方は少し怒ったような顔をして俯く。

人間の方はその頭の上に手を置いて、乱暴に撫でる。


「んな顔すんな、あんな目にあってたんだ。この反応が正解だろ」


そう言ってこちらへと向かってくる。僕は警戒を緩めずに、もし何かされた時にいつでも妖術を放てるように準備する。

その男はただこちらへと近づいてきて、僕の前に座り込む。


「妖術の本質は《火》か。妖力量は申し分ないな。なんなら、量だけなら馬鹿みたいな多さだ」

「だが、その分器が育って無さすぎる。そんなにデケェ妖力を持ってるのに、それを自由に扱うにはまだまだ体が未熟過ぎるわ。そりゃあ満足に妖術使えねぇわな」


「ちゃんと飯食ってんのか?」そんなこと言いながら僕をジロジロと観察するように見る。

僕はなにかされると思っていたものだから拍子抜けだった。相手の意図が分からず戸惑った顔をしてしまった。


「お、なんかされると思ったか?大丈夫大丈夫、なんもしねぇよ。」

「お前強くなりたいか?もし強くなりたいなら着いてこいよ、鍛えてやる」


「は…?」


僕は何を言ってるのか分からずに間抜けなの声を出してしまった。


「弱いと見える世界がちっせぇまんまだせ?お前は絶対強くなれる。この俺が言うんだから間違いねぇ」

「とりあえず、もし強くなったら何がしたい?」


「もし強くなったら」その言葉に僕は少しも考える時間はかからなかった。


「僕を虐めてた奴らに復讐してやりたい。全員殺してやりたい」


後ろの天狗が呆れた顔してため息をついていたが、目の前の男は大笑いをした。


「いいねぇ、それぐらいの気概がなきゃな〜」

「ま、最初の意気込みなんてなんでもいい。強くなれば気持ちは変わるかもしんねぇしな〜」

「着いてこい。鍛えてやんよ」


その言葉に反発するように天狗が声をあげる。


「こんな危ないヤツ育てんの?!え〜マジで言ってる?」

「ていうか、俺の事強くしてくれるんじゃなかったのかよ!!」


「アホか、ガキのあやかしが一人増えたぐらいで変わんねぇよ」


その男はそう言って立ち上がり拳を掲げて声を上げる。


「修行内容は至って簡単!妖術使おうが、武器使おうがなんだっていい!俺の事殺せたら修行終了〜!」


そんな突拍子の無いことを言ってきた。僕はそんな男を鼻で笑ってやった。


「バカめ!さっきは追いかけ回されていたのと複数いたから出来なかったけど、人間1人殺す事なんて簡単に決まってるだろ!!」


僕はそう言って先程まで作っていた3つの火の玉をその男に向かって一気に飛ばした。

だが、その火の玉は男に到達する前に腕を振る風圧でかき消された。


「なっ……!」


人間が妖術を生身で消したことに驚きを隠せないままでいると、その人間はいつの間にか距離を詰めて、黄色く光る剣のようなものを僕の首元に突き立てる。


「妖力は常に体に張り巡らせとけ?24時間、365日常にだ。それを身体強化に当てたり、こうやって飛んでくる弱い妖術系を防いでくれる。これができなきゃ戦闘において第1歩にすらたどり着けない」

「今日はお前怪我してるからここで止めといてやるけど、次は当てる。次やる時までに妖力での身体強化できてないとお前死ぬぞ?」


そう言って、その光の剣を手から消してニヤッと笑う。

人間とは思えない動きとそしてまさか人間に妖術が使えるなんて考えもしなかった僕は驚きの顔をしたまま思わず口から疑問をこぼした。


「お前は…一体なんなんだ…」


その男は伸びをしながら答えた。


「俺の名前は総一郎。《雷》の妖術を使う人間で、今日からお前の師匠だ。総ちゃん師匠と呼べわかったか?ほら行くぞ」


総一郎と名乗ったその男は胡散臭い笑顔と共に僕の手を引いた。

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