第14話 再戦 満月の夜に
〜同時刻 神社〜
全身が逆立つようなとてつもない大きな妖力に翔は思わず驚いた。
「なんだ…このバカでかい妖力は──」
そこまで考えて、翔は思い出した。
「これ、凛のだ。」
この結界の中であまり大きく感じなかったが、微かにだけ凛の妖力を感じ取っていたから分かる。これは凛の妖力だ。
だが、同時にこれは凛が結界の外に出たという意味だった。なんで?どうして?そんな疑問ばかりが翔の頭を回る。
「ま、まず早く風呂から上がんねぇと!!」
翔は急いで風呂から上がり服を着る、そしてシュビィを呼んだ。
「おい、シュビィ!どこだ!」
「ここよ、翔ちゃん。」
そう言ってシュビィは翔の影から姿を現す。
「…お前なんで影の中にいんの?」
「膨大な魔力を感知したから翔ちゃんの元にすぐ向かったのよ。ほら、もしもの時に危ないでしょ?決してどさくさに紛れて覗いていたわけじゃないわ。」
「……まぁいいや、そんな事より凛が外に出てる。妖力自体がデカすぎてどこにいるのかわかんないけど、とりあえず神社の外にいることだけはわかる。」
「でかいでかいと聞いていたけど、これほどまでにでかいのね……キツネちゃんと変わんないじゃないの。」
「あの小娘が1人で外に出ることは考えにくいわ。そうなると連れ出されたというか、攫われたという方が正しいのかしら。」
シュビィはそう言いながら少し冷や汗を流す。
「早く助けに行かねぇと!シュビィ、俺の中入れ!!」
「ええ、わかったわ。」
翔の呼び声に反応してシュビィは翔の体へとリンクしていく。
「あぁ…♡この翔ちゃんとひとつになる感覚…♡最っ高…♡」
「意味わかんねぇこと言ってねぇで、さっさと行くぞ!」
翔はシュビィとのリンクが完了した瞬間に血を躍動させ、足に集約させた。
そのまま大きく踏み込み跳躍して、腕を噛み血を流す。
「より強く感じる方にとりあえず向かうぞ!」
流した血から腕に大きな翼を作り、片腕をあげたまま空を飛ぶ。
その方法そしてそのスピードにシュビィは驚愕する。
(早すぎるわ。これがほんとに借り物で、しかも人間の所業なの?)
(微かだけど、魔力の質も以前とは別に変化していっている……)
『全てがイレギュラーやっぱり最高ね。』
「あ?!なんか言ったか?!」
翔は空を飛びながら、シュビィに話しかける。
『いいえ、何も?そんなことより早く行きましょう。あの子がいないと何かと暇だし。』
「素直に心配って言えよ……まぁいいや…」
翔はそう言いながら、少し覚悟を決めたような顔をしてあの約束を思い出す。
「約束したんだよ……傷1つ付けないってよ!!」
赤黒い歪な翼を片手に宿し、翔は満月の夜を駆ける。
─────────────────────
「この辺が1番強いんだけどな……」
翔は一番妖力を感じる場所へと降り立った。
だが、周りには誰もおらず暗闇の中に木々が生えているだけだった。
『…?!翔ちゃん!後ろよ!』
シュビィの声に反応し、腕から流し続けている血を剣の形に変化させ後ろからの特攻に反応する。
「コイツは、人狼…?」
「オウノ、ジャマ、サセナイ」
その言葉を皮切りに、数十体の人狼が姿を現し、翔へと襲いかかる。
「なんでこいつら統率取れてんだよ!」
翔は空へと1度飛んだが、別の人狼が上から爪で飛びかかってきた。その人狼の攻撃を避け、木の中の影へと飛び込む。
瞬時に影に消えた翔を見失ったのか、すこし周りを見渡し、そのまま全ての人狼の気配が闇夜に消え失せた。
「おいおい、あんな近くにこんな居たのに一切気づかなかったぞ。」
『厄介ね、恐らく気配消す能力を持ってる。』
「そしてこの数か……」
『どうする?翔ちゃん。』
翔は震えていた。過去に殺されかけた経験で恐怖で震えているのかもしれないそう思ったシュビィは励まそうとした時──
「はは、いいねぇ……」
翔笑った、まるでチャンスが舞い込んできたかのように。
「あれから俺がどこまで強くなったのか。」
「リベンジマッチと行こうぜ!」
その言葉と共に翔は影から飛び出す。その瞬間に人狼達は反応し、四方八方から襲いかかる。
『ちょっ、翔ちゃん?!この数がどこから現れるかわかんないのに、一体どうする──』
翔は剣にしていた血を周りに撒き散らし、そのまま地面に血を流した手を付く。
「《血統 血染め針》」
そう唱えた瞬間撒き散らした血が、針のような形となり辺りに飛び続ける。
避けたものもいれば、よけれずにまともに喰らった人狼が数体いた。
人狼は一瞬警戒したが、ただのかすり傷程度だった事を確認しもう一度襲いかかろうとした瞬間──
「《血統 躍動の赫》」
その言葉と同時に、針を食らった人狼はまるで内側から破裂したかのように、身体から血を吹き出し倒れる。
「?!」
人狼たちは驚愕の目を向け、そして警戒を強めたのかこちらを伺いながらまたもや気配を消す。
「よし!上手くできた!」
翔はさも当然かのように、ガッツポーズをする。
1番驚いたのはシュビィだ。
『ちょ、ちょっと!今の何?!』
「ん?あぁ、俺は自分の血を使えるなら、相手の体内に自分の血、しかも妖力も混ぜた血を混ぜこめば相手の血もある程度操作できないかなって思ってやってみた。」
「結果は上手くいったみたいだったけど、もっと思いっきり破裂させるつもりだったのに……これは自分よりも妖力が低くないと多分使えねぇな……」
シュビィはこの翔の戦闘センスと発想力にもはや恐怖を覚えた。
(これは私もよく使う手法……それをたった2日程度の理解度で再現したというの……?)
(ああ、翔ちゃん♡どこまでも貴方は私を惚れさせるのね…♡)
「コイツ、ツヨイ。」
「モット、ナカマ、ヒツヨウ。」
「オウニモ、ホウコク。」
人狼はそう言って辺りから完全に姿を消した。
「微かだけど、血を付着させた人狼がいる。そいつを辿っていけばきっと凛に…!」
そう思って飛ぼうとした瞬間、ほかよりも少し大きい人狼が翔に襲いかかった。
翔はそれを間一髪避けたものの、後ろへと吹っ飛ぶ。
「いってぇ……、邪魔すんな!」
翔はそう言って、翔は1度影に潜り込み後ろから切りかかる。
だが人狼は即座に反応しその剣を爪で掴み、その体制のまま蹴りを入れる。
翔はまともに食らう寸前に血の剣の凝固を解いて、流れた血を薄い膜のように蹴りの前に入り込ませ、ダメージを軽減しながら後ろに飛ぶ。
『翔ちゃん、気をつけて。こいつはさっきのやつらと比べてはるかに戦い慣れてる。』
「分かってるよ。お前がアイツらが言っていた王って野郎か?」
「チガウ。オレハ、タダノジンロウニ、スギナイ。」
「アイツラハ、マダ、オサナイ。」
「ソシテ、オウハ、オレヨリ、ハルカニツヨイ!」
人狼は鋭い眼光を一切外すことなく、こちらを見ながらもう一度襲いかかってくる。
爪での攻撃に、多彩な打撃。翔に血での武器生成の時間を与えずに絶え間なく攻撃を続ける。
自分が攻撃を喰らいそうになったら、後ろに飛び気配を消してまた、背後から襲いかかる。
翔は血の躍動と、妖力を全身にまわして身体能力を向上させ、かろうじて避けてはいるが、防戦一方だ。
「ちっ、ラチがあかねぇ…」
そう言った翔は人狼からの爪の攻撃をノーモーションで避けることなく食らった。
「ぐっ……いってぇ…」
人狼は勝機を見出したのか、ニヤリと笑いながらさらなる攻撃を仕掛けようとしたが、何故か身体がピタッと動かくなった。
見れば、全身に赤黒い糸のようなものが巻き付き、身動きが取れない。
「《血統 蜘蛛の血》」
そう言った翔は腹から胸の辺りににかけて、ながしている血を能力で止めて人狼の首元に血で作った鎌を背後から添える。
「コ、コレハ……」
「わざとお前に俺の身体を裂かせて、血を吹き出させたんだよ。んで、吹き出した血でお前を拘束したって訳。」
「クソいてぇけどな」と言いながら腹の部分を少しさすっていた。
「俺はお前なんかに負けてる場合じゃねぇんだ。王ってやつを倒して、凛を助けなきゃなんねぇんだよ。」
「悪ぃな。俺の勝ちだ。」
「ミ、ミゴトダ……」
「《血統 首狩り》」
そう言って翔は人狼の首を鎌で切り落とした。
あたりには翔の血と人狼の血が飛び散っている。
「よし、凛のとこに行かねぇと……」
そう言った翔だが、少し足元がおぼつかない。
『翔ちゃん、血を流し過ぎよ!これ以上はもう……』
「馬鹿言うな!!俺がなんのために修行したと思ってんだよ!!俺が死のうがなんだっていい!!」
「今度は俺が凛を助けるんだよ……」
『翔ちゃん……』
シュビィはその翔の覚悟に、ひとつの対案をした。
『翔ちゃん、それならあそこに倒れている人狼が流した血を飲めば、少しは回復するかもしれない。けど、死体の血なんて飲むのが嫌なら私に1度身体を──』
その言葉を遮るように、翔は人狼の血を飲み始めた。次第に傷が塞がって徐々に身体に力が戻る。
「…ぷはっ。クソまずい……けど、これならまだ戦える。」
「今行くぞ、凛。」
翔は、そういって走り出した。
シュビィはそんな翔を見て静かに呟いた。
『天才…いや、狂人と呼ぶべきねこれは』
戦闘狂、そんな彼を眩い月光が照らしていた。
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