幸せ……圧倒的、幸せ!

 じゅうじゅうと焼ける焼肉。

 この音がたまらん……!


「良い感じに焼けてきたぞ」

「美味しそうだね、お兄ちゃん」


 さっそく箸で焼けた肉を挟む。

 それを秘伝のタレに付けて――そのまま口へ運ぶ。……んめぇ。タレと肉の味が上手く絡み合って極上の味を演出している。


 幸せ……圧倒的、幸せ!


「ん~、カルビは最高だな」

「うんうん。いくつもいけちゃうよぉ。あ、そうだ、お兄ちゃん」

「ん、どうした」


「はい、あ~ん♪」


 俺の口元に焼肉を運んでくれる夢香。まさか、食べさせてくれるとは……!


「は、恥ずかしいな」

「大丈夫だよ、誰も見てないし」

「そりゃそうだが……まあいいか」


 はむっと夢香の差し出した焼肉を口にした。よく噛みしめると……うまッ。食べさせてもらうと、また一味違うな。


 というか、幸せ過ぎだろ俺。

 こんな幸せでいいのか!?


「どうかな、お兄ちゃん」


 照れくさそうに聞いてくる。

 そ、そんな頬を赤らめて感想を求められてもな。


「う、美味かったよ……」

「良かった」


 ニコッと笑う夢香の笑顔に、俺は見惚れてしまっていた。て、天使かな……。



 * * *



 気づけば就寝時間を迎えていた。

 スマホでネットを見てゴロゴロしていると、あっと言う間だな。


 眠くなってきたので、俺はそのまままぶたを閉じた。この瞬間がたまらん。気持ち良く寝られる瞬間だ。


 不思議と夢香の妨害もなく、俺は幸せに眠れた。



 ――翌日。



 月曜日の朝を迎えた。

 布団を取ると、そこには夢香が――って、夢香ァ!?



 驚いて飛び上がる俺。

 まさか布団の中に夢香がいるだなんて思わないだろ!!


 そうか、昨晩はなんか大人しいかと思ったら……俺のベッドに忍び込んできていたのか。……くぅ、こんなキャミソールの薄着でさぁ……。


 胸元すごく見えてます……。


 それに、スポーツ系のショートパンツ。

 神器セットで俺を誘惑しやがってっ。


 このままでは理性がぶっ飛びそうなので、俺は朝食を作りに台所へ避難した。



 * * *



「――――っ」

「どうしたの、お兄ちゃん」



 玄関を出ても熱は冷めなかった。

 夢香のあの大胆すぎる薄着姿を見てからというもの、俺は風邪ぽかった。



「いや、なんでもない」

「そう~? じゃ、行こっか」

「そ、そうだな」



 アパートを出て、学校を目指した。

 いつも通りの、いつもの登校。

 なにも変わらない毎日、日常が始まった。



 ――そう思っていたんだがな。



「お兄ちゃん、なんか足元やばくない?」

「…………うっ」



 頭がクラクラして、俺は意識が朦朧もうろうした。……何かがおかしい。なんか体が重いっていうか、思い通りに動かない。


 気づけば俺はぶっ倒れていた。



「お兄ちゃん!? 嘘でしょ……お兄ちゃんってば!」



 …………やべ。

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