格上のカニ

えーと、はいぃ。カニ肉をひとしきり食べ終えて、カワラガニ狩りを再開しようと思ってたんですけど。




 無理になりました。えぇ。


 理由は私の目の前にいるカニさんにでも聞いてください。今私に聞かないで、お願いだから。お願いだから私のこの脚を止めさせないで!!!解説なら貼っとくから!!!






[オウケガニ]ランクE

《カニの巣を束ねるカニの王。その肉は非常に美味であり、高級食材に指定されているため高値で取引できる。淡水、海水問わず水さえあれば生存することができ、家来のカニにも同じ力を付与する。》




 ええ、まあ。はい。親玉が来ました。多分蟹味噌の臭いかなんかで釣られて来たんでしょうね。


 にしてはサイズもでかいでかい。私なんて足元にも及ばない、あの漁師さんとかが片手で持ち上げて「これ、すっごくでかいでしょ!」みたいにアピールされてる(受け身)カニそのものなんだ。






─────


[種族]〈オウケガニ〉

[ランク]E

[Lv] 21/45

[体力]102/102

[魔力]33/33

[物攻] 38

[物防] 75

[魔攻] 29

[魔防] 40

[素早] 20


《スキル》

[鋏攻撃.Lv8][バブル.Lv6][砂嵐.Lv3][ウォータ.Lv3]

[ハイドラ.Lv2][ローリングダンス.Lv1][破壊爪.Lv1]


《耐性.特性スキル》

[寄生虫耐性.LvMAX][甲羅.Lv-][愚鈍.Lv-]

[毒耐性.Lv4][王の宿命.Lv-][衝撃耐性.Lv3]


《称号》

[逃亡のプロ][蟹の王][最終進化]


─────




 つ、つえぇー。素早さを除く全ステータスが私を大きく上回っているし、体力は3桁台に突入している。無理だこんなの、格下のカワラガニ一匹でさえあれだけ苦戦したってのに、まさかこんなのが来るなんて。




[王の宿命]

《王は自分の上に人を作らない。王に仕えるモノはその場で進化の機会を奪われる。家臣達が自然にそれに気付くことは殆どない。また、寛大な王であれば進化の機会が与えられることもある。》




 うわ、ガチの王やんけこいつ。自分より上を巣の中から作らないというデメリットのようなメリットがある。多分周辺に暮らすカニ系統の魔物でオウケガニ以上の魔物はいない、逆に言うとこいつが一番強いってことだ。







 うん....無理でしょ♡でかくてかたくてめっちゃ強いヤツ(意味浅)に私がどう勝てというんだ。



 それもスキルも多くステータスも圧倒的格差があって万にひとつあらゆる点において劣っている私がどうやって?




 こんなの命がいくつあっても足りんわ!!撤退撤退!!




『キシャボコボコボコボコッ!!』




 オウケガニが気色悪い鳴き声を上げ、後ろでブクブクとなにかを泡立てる。見ない見ない。見てはいけない。


 これは夢だ夢なんだ、オウケガニ様なんて偉大な魔物がこんなネズミ一匹気にかけるかってんだ。




.....チラ。




『ブクククククククク』




 はいぃ。なんか文字通り泡吹いてました~ってこれバブルやんけえええええ!!クソがぁぁぁぁっ!!!カワラガニ以上の圧倒的な密度と巨大な範囲と勢いが迫ってくる。これもはや濁流やん。




 ととと、とりあえず回避しないとヤバい。ここで脚が奪われたら死ぬ!


 全身をぐりんと大きく捻って泡の軌道から逸れることで、なんっっっとか回避しきった。効果音にするなら、ぎゅるんとか多分言ってるわ。そんくらい捻ったわ。




 直接的に体力を削ってくるスキルじゃなくても、一瞬気ぃ取られたらそれで死にかねない。掠っただけで多分体力ゼロまで削られるんじゃないかな。






ガツッ!!ひいっ!!


ガツッ!!ひゃわあ!!?




 オウケガニの鋏が私目掛けて振り下ろされ、地面の小石とぶつかる。素早さは唯一こちらが勝っているけど、リーチの長さというほど素早さに差がないからヤツの攻撃圏から中々抜けられない。




『チイィ!!』




縦、縦、横、横。右、下、右、右、左。




 このまま背ぇ向けてても仕方ねえ。この鋏振ってる間だけは相手を向き、紙一重で見切って回避しまくる。こちとらマザーの道連れに憤怒状態のアオアミヘビを相手にしてるんじゃ。愚鈍なカニの攻撃ごとき、全部回避してやらあ!




 所詮カニなんてね、鋏は2本なんですよ。ステータスにはビビったけど全身凶器な訳じゃない。戦って勝つことを放棄すればある程度は冷静に立ち回ることができる。




 ハイジャンプは隙が多すぎて使えねえ。空中にいる時間は無防備な時間、その僅かな隙ですら今の私にとっては致命的なのだ。




『カシャン!!』





 オウケガニが聞きなれない鳴き声をあげると同時に跳躍し、ひっくり返る。




 そう、跳躍。オウケガニが少しだけ地面から脚を離してひっくり返り、甲羅の背を地につけて脚を開き、ブレイクダンスのごとく回転を始めたのである。


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