2. 事実、そして猛攻

第11話 親友からの恋愛相談

 胡桃沢くるみざわが作ってくれたサムゲタン風お粥と看病のお陰か、風邪は長引くことなく治った。

 結果的には学校を二日間休むことになり、休み明けの月曜日から登校することが決まった。


 そして月曜日、久しぶりに学校に向かって教室に入ると、明沙陽あさひが今すぐにでも泣き出しそうな顔で近づいてくる。


京也きょうやー! 心配したんだぞー!」

「大袈裟だな……でもありがとう、明沙陽」

「京也ぁ〜〜〜!!」


 明沙陽はついに泣き始め、俺に抱きついてきた。

 本当に残念イケメンである。

 そもそもなんで泣いてるのかすら分からない。

 そしてこんなにも見られて恥ずかしいことを平気でする明沙陽でも、残念だが女子たちからは人気でモテまくっている。くそ、羨ましい。


「わ、わかった。わかったからもう離してくれ! 痛い! 痛いって!」

「ごめんごめん。久しぶりに話せたから嬉しくてつい、力入っちゃった」

「……わざとか?」

「なわけないだろ!?」

「全く……」


 まじで潰れるかと思ったわ。なんなら背骨何本か折れるところだったわ。

 解放されたところで「はぁ……」とため息をつくと、明沙陽は突然真剣な顔をしてこちらを見てきた。


「ところで復帰早々申し訳ないんだけど、ちょっといいか?」

「なんだよ」

「昼休み、今日は屋上で食べね?」

「屋上か……別にいいけど、なんで屋上なんだ?」

「京也に相談したいことがある。誰にも聞かれたくない」

「なるほど……わかった」


 なんとなく、予想はついた。

 恐らく明沙陽は、ようやく俺に話してくれるのだろう。

 今まで一度も話してくれなかった、明沙陽の好きな人について。



 昼休み、俺たちは一緒に屋上へ向かった。

 普通の高校では屋上は立ち入り禁止の場所が多い。

 それは俺が通っている高校も例外ではなく、立ち入り許可を先生に得なければ立ち入ることができない。

 そのため、屋上に入ることはほとんど不可能に近いはずだ。


「屋上には入れないし、ここで食おうぜ」


 そう言って明沙陽は屋上に繋がる扉の前で腰を下ろした。

 俺も隣に腰を下ろし、朝コンビニで買ったパンを開けて食べ始める。

 明沙陽が相談したいと言ってここに来たわけだが、俺から催促する必要はない。明沙陽のタイミングで、自分から話してくれるのを待つつもりだ。


「いやー、一回でいいから屋上行ってみたいよなー」

「わかる。立ち入り許可とかどうやったら取れるんだよ」

「あ、昼飯食べたいって言ったら許可取れたりするんじゃね?」

「さすがに無理だろ」

「だよなー」


 まずは軽く雑談しながら、昼食を食べ進める。

 そして約半分まで食べ進めたところで、明沙陽は急に俯き真剣な顔になった。


「なぁ、京也」

「ん?」

「俺の好きな人の話なんだけどさ、聞いてくれるか?」

「相談ってそのことか?」


 返ってくる答えは分かっていたが、一応聞いておいた。


「ああ」

「いいよ。聞いてやる」


 俺は胡桃沢から明沙陽のことについて恋愛相談を受けている。

 もしこれで明沙陽の好きな人が胡桃沢だったらとても喜ばしいことだが、もし違かったらどうしようかとずっと悩んでいた。

 だが俺としても約一年間ずっと気になっていたことなため、聞くに越したことはない。


「俺の好きな人、実莉みのりなんだよ。ずっと好きだったんだ。ずっと前……小さい頃から」


 やっぱり、胡桃沢だったか。

 なんとなくそうだろうと思っていたが、胡桃沢の努力が無駄ではなかったことが分かって嬉しい気持ちになる。


「胡桃沢か。幼馴染なんだろ? お前結構前に振られるのが怖いって言ってたけど、振られる確率相当低いと思うぞ?」

「なんでそう言い切れる?」

「……なんとなくだよ。話してるところ見たら、普通にお前ら仲良いし」


 口が裂けても、胡桃沢がお前のために男子として女子にされて嬉しいことを練習しているからなんて言えなかった。


「仲良いだけだ。それに俺は知ってる。実莉には好きな人がいるって」


 それがお前なんだが?


「胡桃沢に聞いたのか? 誰か好きなのか」

「聞いてない。聞けるわけがない。もし俺じゃなかったらどうすんだよ」


 本当に残念イケメンだな、こいつは。

 誰だって告白をする時は怖いに決まっている。自分のことをどう思われているかなんて、関係ない。

 そんなの気にせず、アタックし続けなきゃ相手の気持ちを動かすことなんてできない。


「逃げるなよ、ヘタレ」

「……は?」

「そんなの聞いてみなきゃいつまでも引きずることになるぞ。お前、胡桃沢が別の男に奪われてもいいのかよ」

「いいわけないだろ! だから困ってるんだ。俺、告白されることは多いけど自分から告白したことないんだよ。どうしたらいいんだ……?」


 聞いてるだけで腹が立ってくるが、とりあえず今は無視しよう。

 もう二人が繋がることは分かっている。それなら……。


「まずはデートに誘ったらどうだ? 映画とか、水族館とか、どこでもいい。二人は幼馴染なんだし、二人きりで遊びに行くことくらい普通だろ?」

「なるほど……じゃあ今度の休み、誘ってみるか」

「頑張れよ」


 これで俺と胡桃沢の関係は終わりになる。

 もう放課後に恋愛相談や練習をする必要はない。

 もう全て、今日で終わりだ…………。


「……あ、俺からも一つ聞いていい?」

「おう」

「どうして急に教えてくれたんだよ。この一年、お前ずっと教えてくれなかったのに」

「ああ……それは秘密だ」

「なんでだよ!?」

「秘密は秘密だ。絶対教えねぇよ」


 明沙陽はハッと嗤う。

 本当によくわからない。

 胡桃沢が別の男に奪われるかもしれないと思ったから? でもそれだともっと前に話してくれるはずだ。

 なんで今になって……?


「とりあえず早く飯食っちゃおうぜ。俺早速誘いに行きたいしさ」

「お、おう」


 やると決めたことは早くにも実行したいらしく、食べるスピードを上げる明沙陽。

 俺はパンが残り一つなため、どうして今になって話してくれたのかを考えながらゆっくり食べ進める。

 すると突然、俺のスマホに誰かからLIMEが送られてきた。


『ねぇ、明沙陽と何喋ってるの?』


 胡桃沢からだった。

 俺は『秘密だ』と返信すると、『ふ〜ん?』と返ってくる。

 なぜかすごく嫌な予感がするが、考えないようにしようと思い既読無視をしてスマホの電源を切った。

 この後、まさかあんな衝撃の事実を知らされるとは知らずに。

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