第3話 15年ぶりの出会い

 俺はよく仕事人間だと言われる。

でも仕方無いじゃないか?

生きていく為。

食っていく為だ。

俺は今日もリストラの候補から少しでも遠い場所を求めて必死に仕事をしている。


 今日は新卒の女性が採用試験を受けに来るという事で俺も面接に立ち合う様に言われた。

俺、本当は人をみる目なんて全く無い。

でも今はそんな事言っていられない。

いかにも人間の本質が解る様な顔をして俺は面接会場に座っていた。

本当に居心地悪い場所だ。


 「ハイ次の方、入って下さい」


 入って来たのは小柄な女優さんみたいな女性だった。

 「伊藤香澄と申します。宜しくお願いします。」


 なんだか初めて会った気がしないがそんな事気にしていたら先に進まないので俺は淡々と質問をしていった。

そんなやりとりが暫く続いていたが、そのうち彼女は俺の顔をまじまじと見出した。


「あの〜? 池田正人さんですよね?」


「そうですが・・・ 何か?」


「アッ、やっぱり正人お兄ちゃんだ。」

会場の人間が一斉に俺の顔を見た。

だが、俺には『お兄ちゃん』と呼ばれる様な妹や従兄弟など居ない。

居ないハズだ。

俺はもう一度確かめる様に彼女の顔を見た。

どう記憶を遡っても彼女の顔が出て来なかった。


「アッ、分から無いですよね?これに見覚えないですか?」

彼女はスカートを膝上までまくり上げた。

会場は『いったい何をするんだ?』という雰囲気でどよめいた。

だか、彼女はそんな空気など無視して太腿位までスカートをまくった。

俺は見て良いものか一瞬戸惑った。

チラッと彼女を見たら膝から太腿にかけて大きな傷跡があり、なんだか痛々しかった。


「コレ、お兄ちゃんに助けてもらった時に出来た傷跡です。この時、出血が酷くてお兄ちゃんから血も分けてもらったって聴きました。覚えてませんか?」


俺の記憶を高校の頃まで遡った時、軽井沢の別荘地でおこった出来事を思い出した。

あの時一緒に居た少女は確かカスミちゃんて呼ばれていた。

あの小さかった女の子が今目の前に居る女性なのか?

俺は彼女を見て懐かしく感じた理由がなんとなく分かった。

「別に血のつながりが有る訳じゃないんだからお兄ちゃんは無いでしょう?」


香澄ちゃんはいたずらっぽく微笑んでいた。

「えッ? お兄ちゃんの血を輸血してもらったんだから私の身体にはお兄ちゃんの血も流れているんだよ」


「だからってお兄ちゃんは無いだろう? あのカスミちゃんが元気に成長している姿を見れたのは嬉しいけどね」


隣の面接管として座ってる上司に「今は面接中なので私語は慎んでください」と睨まれた。

俺は採用試験の面接管としてココに居るんだった。

そして彼女は採用試験の面接中である事を思いだした。

今の失態はたぶん俺にとっても彼女にとっても良い結果には成らないだろう。

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