第2話 赤瓦の家

 潜伏地である赤瓦の家の中に入ると、内部は伝統的な沖縄の家を残しつつ、今のIHキッチンなどが搭載された家だった。


 未来と蓮は家の居間で足を延ばして休んだ。蓮はスマホを開くと、不思議な事にこちらでは電波が繋がっていた。


「良かったーこれで翼ーと連絡ができるー」


 蓮はスマホで恋人である翼に「1916年の沖縄にいる」とLINEで連絡した。


 未来もWiFiが繋がっているので、那覇空港にいる家族に連絡した。すると、2人共、帰って来た返信が「ニュースに出ている」、「本当に過去に行ったのか?」と言ったものだった。


「え・・信じてくれないんだ・・」


 蓮はLINEの返信を見てびっくりしていた。


「そりゃそうですよ。証拠が無いですから」


「だよね・・・」


 蓮が落ち込んでいると、拓也が2人のためにiPadを机の上に置いた。


「そりゃタイムスリップなんて誰も信じてくれないからな。ここにずっといるんだったら、これをあげる。このiPadには『Varse』という財団のアプリも入っている」


 未来はiPadを見て「わーい!これ欲しかったんだ!」と言ってiPadを開けたが、蓮はそんな拓也を見ても喜ばなかった。


「・・・iPadで釣るつもりですか?」


「そんなつもりは無いぞ」


「そうですか!じゃあここから出てその・・・『帝国機関』って言う防衛省の外部組織に行きます!国の組織なんで!」


蓮は立ち上がって赤瓦の家を出ようとした。


「いや、『帝国機関』は国の組織と言ってもただの国の組織じゃない。戦前からある組織みたいだが、総理大臣や防衛大臣も知らない組織だ。似たような組織に陸上自衛隊の『別班べっぱん』があるが、『帝国機関』は『別班』以上に政府や世間からも知られていない。それにあの組織は歴史修正主義や差別主義的な組織だ。そいつらの元にいたら利用されるだけだ」


「歴史修正主義」と「差別主義」、どちらも大学の授業で聞いた事ある言葉だが、詳しいことはわからない。でも、なんとなく歴史修正主義は歴史を変えようとしたり、無かった事にするんだろうなと思った。


「じゃあそっちには行きませんよ」


 蓮は不服そうに拓也達の目をそらしながらスマホをいじりだした。


「あっあなた達、名前を聞くの忘れていたけどあなたが蓮さんよね?」


 沙夜が蓮に名前を聞いた。


「そうですけど・・・知花蓮って言います。出身は読谷です」


「蓮・・男の子みたいな名前だね」


「よく言われます」


「蓮さん、自分の事を名前で言うんだね」


 本土出身の沙夜にとって一人称が名前なのは心底びっくりなようだ。


「一人称は名前です。沖縄みんなそうです」


 蓮は沙夜から目をそらしながらスマホをいじっていた。


「まだ信用していないようだね・・・・」


「仕方ねぇだろ・・・突然、過去にやって来て『アルバース財団』なんて聞いた事も無い組織に助けられたら俺でも疑っちまうね。詐欺かなんかじゃねぇかってな。そんなに早く帰りたいなら、俺らがタイムマシンを動かしてあげるよ」


拓也が言うと、蓮は「え!本当に!」と言って目をキラキラさせていた。


「おぅ今から沙夜が操縦するからお前達、操縦室に行けよ」


「あの操縦室ってどこですか?」


蓮が立ち上がって拓也に聞くと、キッチンの奥に進んだ脱衣所から右の方向に行けば操縦室だ。


拓也に言われて未来達は操縦室に向かった。操縦室にはタイムマシンを動かす高性能な機械と椅子があった。


「蓮さん、飛行機の操縦席みたいですね」


未来は操縦席を見て飛行機の操縦席みたいだなと思っていた。


「そうだね。シートもエコノミークラスのそれだし」


蓮も未来と同じように思いながら飛行機の操縦席のシートに座ると、スマホで翼に連絡した。


‘‘翼―なんか『アルバース財団』って人に拾われたからその人達がのっているタイムマシンでワンチャン現代に帰れれるかもしれない!``



翼はこんな返信を送った。


‘‘そうか!良かったな!帰ったら観覧車乗ろうぜ!


翼の返信を見ると蓮はにっこりと笑った。



未来も家族のグループLINEで自分は大丈夫だ。もうすぐ那覇空港に帰れるはずだとLINEで送った。


未来達の家族も返信で‘よかったね‘‘といった喜びの声だった。


拓也達が操縦席に着くと、沙夜と拓也が操縦席に座り、縁が未来や蓮と同じ席に座った。


「タイムマシンが動くからみんなシートベルトをしてね」


沙夜に言われると、未来達もシートベルトをした。沙夜はタイムマシンの操縦レバーを引くと、AIが話し始めた。


「こんにちは辺土名沙夜さん、ここは1916年3月26日の沖縄県那覇区松山町2丁目です。2016年に帰りますか?それとも別の時代に帰りますか?」


AIの問いに沙夜は答えた。


「2016年の現代に帰る!」


と答えると、AIが「では操縦してください。起動開始」と答えた。


沙夜は操縦レバーを動かし、タイムマシンを上空に上げると、成層圏から宇宙空間に行き、現代に戻ろうとした。が、急にタイムマシンが動き出し、この時代に戻ってしまった。


「あれ?戻れない!どうして‥」


普段は冷静な沙夜もえ?というような表情をしていた。



「どうしたさーやー?」


「わかない‥また松尾山に戻ってしまった‥」


「え?」


なんとタイムマシンが現代に戻ることなく1916年へ戻ってしまった。



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