第39話 最初の消失者


「え?」


 拓也はきょとんとした表情になっていた。


「いや、あくまでも俺の勘だ。なんか相手に読まれているっていうか」


「おい!後ろに警備隊の人間はいないか?」


 拓也が康徳に聞いた。まさか康徳達まで尾行されていないかと心配だった。


「警備隊?なんか陸軍の将校みたいな奴がいる」


「多分、そいつらが警備隊だ。今すぐ逃げろ」


 拓也に言われると、康徳は「わかった」と言って走って逃げた。そこから康徳の連絡は消えた。


「大丈夫か?あいつ、まさか消されてないよな?」


 拓也は康徳が消されていないか心配だったが、警備隊の人間に見つからないように隠れた。


 沖縄警備隊の兵士達は「ごめんください」と伊波普猷の家の門を叩いた。しかし、門を叩いても誰も出なかったので、兵士達は諦めてどこかへ去って行った。


 一方、空いていないはずの那覇郵便局の電話交換室で1人の女性がパソコンで拓也達の会話の様子を見ていた。


「柿沼、何をしているんだ?」


 そこに現れたのは帝国機関のトップとされる男だった。


「本部長、実はアルバース財団の職員の会話を盗聴しました。後、周辺に隠しカメラを仕掛けた情報によると、辺泥康徳をVANISHで消しました。一般人の小野寺海音は消しませんでした」


「そうか。で、後の職員は消されていないのか?」


「まだです。辺土名沙夜と松下古奈美は明治橋にいますし、ハワイ支部の2人もそちらにいます」


「じゃあ警備隊を明治橋の方に送らせよう」


 本部長が言うと、葉子が「はい分かりました」と答えた。




 ________




 南明治橋にはハワイ支部のエミリーとマーティンが歩いていた。2人はどうやら帝国機関側の人間が来ないか確かめていた。


「ティムとザックが捕まったっていうのに今度はこっちか・・・・」


 マーティンは木造の南明治橋に持たれて景色を眺めていた。


「仕方ないよ、あいつら人を消すみたいだし」


「全く、酷い奴らだ」


「そんな私達も沖縄の人間にとっては加害者側よ」


「そうだな。95年に起こった事件でそう思ったよ」


「でもそんな理不尽な事件は今も起こっている」


「じゃあ・・・この時代の沖縄はか?」


 マーティンは横を向くと橋の向こうから陸軍の制服を着た警備隊の集団が走って来るのが見えた。


「そうとも限らない」


 エミリーは逃げるかと思えば、走って警備隊に向かって行った。マーティンもエミリーについて行った。


 エミリーとマーティンは警備隊達に蹴りを入れたり、VANISHを奪ったりした。


「あいつら強い・・・・さては米軍上がりか?」


 警備隊、もとい帝国機関の人間もエミリーやマーティンの強さには叶わなかったようだ。何度も彼らは立ち向かったようだが、無駄だったみたいだ。


 それを近くで見ていた沙夜と古奈美は奥武山公園まで逃げた。


 2人が逃げた当時の奥武山は今と違って丘のようになっており、2人は丘を登って行った


「辺土名研究員、ここに来れば安心ですね」


 古奈美は奥武山から見える御物城を眺めながら話した。


「でも、彼らの動向が気になるね・・・・・」


「そうですね。実は・・・ちょうど明治橋の方に向かう途中、中学時代の同級生を見かけたんです」


 急に古奈美が昔の事を話し始めた。


「中学時代の同級生?確か松下研究員は別の中学校から櫻崎学園に転校したと聞いたけど・・・」


「そのきかっけになった人がいたんです。私、転校する前、同じ美術部の同級生と付き合っていたんですけど、妊娠してしまって・・・親にも言えず、家出同然で財団系列の病院に駆け込み、そこで中絶してもらったんです・・・」


「そんな事が・・・・でもその人のそっくりさんかご先祖様じゃない?」


 沙夜は知花蓮の事を思い出しながら話した。


「でも、本人そっくりなんです」


 古奈美が言った途端、彼女の姿がぱっと消えた。


「え?」


 沙夜が振り向くと、そこには帝国機関の鳴海と隆平がいた。


「悪かったわね。松下研究員の同級生はうちの事務員だよ。あんたも消える?うちの仲間になる?それとも・・・」


 鳴海は沙夜にどうするか尋ねると、沙夜は帝国機関の仲間にはなりたくないが、彼らに捕まると酷い目に遭う事を知っていた。


「このまま消して欲しい。あなた達なら、私のような女性に何をするかはわかっている・・・だから消して欲しい・・・」


「わかった・・・じゃあ消すね」


 鳴海がVANISHを向けて消そうとすると、沙夜は走って逃げようとした。が、それもむなしく鳴海がVANISHで消してしまった。




 ______________




 一方、未来達一行はと言うと、旗頭を見たり、綱引きに参加していた。蓮とモーガン、ウタは綱引きの綱を引いていた。


 未来は綱引きには参加しなかったが、妙子と無事に合流する事が出来たので、妙子と話していた。ちなみに妙子の近くには未来が編入試験で見かけた女学生が2人いた。


「妙子、もしかして妙子が前いた学校の後輩?」


「そう、同じお茶の水の後輩よ。こっちが2年のひよちゃんとねずちゃん。沖縄に来たばかりだから私が案内していたの」


 妙子が後輩達を紹介すると、2人共、未来に対して会釈した。


「だからかー私、妙子ーがどこかなと思って探していたんだよ」


「ごめんね伊舎堂さん。あっ、ひよちゃんとねずちゃんは沖縄に来てどう思ったの?」


 妙子が2人の後輩に沖縄の事を聞いた。


「帝都に比べると、田舎ですね・・・」


「私もそう思いましたわ。電車も帝都の方がたくさんありますし・・・裸足の方が多いですし・・」


 妙子の2人の後輩は当時の沖縄を東京に比べると、田舎だと答えた。


「そうかな?」


 現代のかなり発展した沖縄知っている未来にとってはあまり田舎に見えなっかった。


「伊舎堂さんも帝都にいたからわかるでしょ?沖縄は浅草12階のような建物が無いのよ」


「まぁそうだけど、浅草12階って建物しか見た事ないからな・・・・」


 未来は妙子の話にやや苦笑いした。ちなみに浅草12階は1890年に施行された12階建ての展望塔であり、正式名称は「凌雲閣」である。日本初のエレベータが導入された事でも有名だったが、1923年の関東大震災で崩壊して焼失する。しかし。2016年の現代では浅草12階以上に高い建物があるため、未来は浅草12階如きで・・・と苦笑いをしていたのだ。


「そうなの?でも・・・お父様とお母様もあまり浅草12階を見て喜ばなかったような・・」


 妙子が自身の両親が浅草12階に対する反応を思い出した。


「橋口さんのお母様って沖縄でも洋装をする方ですよね?変わっていますよね・・」


 妙子の後輩の1人が言うと、小野寺海音が未来達の元へ走って来た。


「たっ、大変だ!大変だ!」


 学生服を来た少年が駆けつけてくるのを見て未来や妙子達は一瞬、驚いたが、未来は何があったか海音に聞いた。


「どうしたの?」


 海音が息を切らせながら未来に呟いた。


「実は・・・・あの人が・・・・消えたんだ・・・・・」


 海音が康徳が消えた事を話した。


「え?誰?」


 未来は誰が消えたのかわからなかった。


「康徳さん・・・じゃなかった俺の父さんって事になっている人・・・・」


「消えたの?」


「うん・・・」


 海音は下を向いた。



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