第33話 真和志村失踪事件
真和志村寄宮で起こった集団失踪事件は当時の琉球新報や沖縄朝日新聞社、沖縄毎日新報社、沖縄民報社が次々に報じた。特に月城こと伊波普成が所属する沖縄毎日新報社と赤新聞と言われている沖縄民報社は県庁の忖度なしに事件について報じた。そして県知事官舎には多くの記者が県知事が来るのを待ち構えていた。
「よし、県知事が来るのを待つぞ!」
月城が同じ記者である上間常三郎と真栄田緑葉に呼び掛けた。
「はい!」
2人が答えると、鈴木邦義が知事官舎から出て来た。邦義が来ると、毎日新報や民報社の記者達が一隻に駆け付けた。
「知事、真和志村寄宮で起こった集団失踪事件は帝国大学誘致の為、真和志村に視察に来ている県庁が関わっているとされていますが、知事は何か知っているのでしょうか?そして住民達に開いた説明会で何があったんですか!」
月城が邦義に尋ねると、邦義は月城の目線を合わせないまま「ノーコメント」と呟き、津田が運転する車に乗って県庁へ行った。
「くそっ逃げられたか。みんな県庁まで追うぞ」
月城達新聞記者は県庁まで走って行った。失踪事件の真実を追うために。県庁内では新聞記者の存在に知事はかなりうんざりしていた。
「どうしました。知事?」
知事室の中に孝太が入って来た。
「鮫島君、実は外にいる新聞記者達が邪魔なんだ何とかしてくれんかね?」
邦義は疲れた表情で眼鏡を取り、頭を抱えていた。
「はい。ではこの消人器を使わせていただきます」
孝太はにっこりと笑い、あの消人器を持つと、邦義は「そんなものは使わなくてもいいよ」と言われたので、孝太は「はい。わかりました」と言って消人器を置いて県庁の入口に向かった。
県庁ではまたしても月城達新聞記者がこちらに構えていた。とそこに拓也が通りかかった。
「伊舎堂さん?」
月城は拓也の存在に気付いたのか声を掛けた。
「あっ伊波普猷の弟の月城さん。どうしてここにいるのですか?」
「そりゃ仕事ですよ。普段は翻訳の記事を書いているのですが、5月6日に真和志村で起こった集団失踪事件の真実を追っている所なのです」
「え?琉球新報にも載っていたあの事件!?しかし、県庁と何か関係あるのですか?」
「ありますよそりゃ。失踪事件視察の日に県知事と官吏が真和志村寄宮に視察に来ていますからね。しかも住民からの話によると、沖縄に帝国大学を誘致するための説明会を開いていたとか」
「それって本当ですか!」
「はい。しかも説明会には1人が消人器という出前箱のようなものを持って帝国大学誘致に反対する住民を消したそうです」
「そんな・・・・・」
「ええ。私も耳を疑いましたが、住民によると本当に反対派の住民を消す様子を見たそうです。そして消された住民の名前をみんな忘れたと言っております。また、この事件はらい病の患者が全員集落から集団で失踪しているのです。しかも目撃した住民によると県知事を始めとする県庁の人間がらい病患者を連れて行った。そして彼らの住処を案内した賛成派の住民の1人を消したと言われています。ちなみに伊舎堂さんは真和志村の視察には参加されていませんよね?」
「とんでもない。部署も違うし、何せそっちはうちよりエリートの集団ですよ」
「はぁよかった。やっぱり伊舎堂さんは参加しなかったんですね。あの・・・県庁の中に案内させてくれませんか?」
「いいよ。別に俺は構わないけど」
拓也は月城達3人を県庁の中へ案内した。
県庁の中に案内すると、そこには各部署で手書きの作業をしている人達がいたが、殆どが他府県出身の男性達であった。とそこに同僚の尊治が拓也に声を掛けてきた。
「おーい伊舎堂ーどうしたんだ。この人達は誰だ?」
尊治が月城達新聞記者を見た。
「あーこの人達は沖縄毎日新報の記者で真和志村で起こった集団失踪事件について調べているんだ」
拓也が3人を尊治に紹介すると、「沖縄毎日新報の記者伊波普成です。周りからは月城と呼ばれていますので、月城と呼んでください」月城は尊治に自らの名刺を渡した。すると他の2人も「同じく記者の上間です」「真栄田です」と言って尊治に名刺を渡した。
「あっありがとうございます。私はここで官吏をしております橋口尊治です。県庁には1年前に東京から赴任してきました。真和志村で起こった事件は私もとても奇妙に思っております」
「やはりそうですか・・・・それにしては尊治さん、私の兄や比嘉牧師よりも背が高いですね・・・背はどのぐらいありますか?」
月城は尊治をしたから見上げていた。他の2人も同じだった。
「5尺9寸程ですかね・・・・」
「かなり大きいですね・・本県では大きい方だと言われている兄や比嘉牧師でもせいぜい5尺6寸~7寸ぐらいですよ」
「そうなんですか…」
「はい。後、集団失踪事件について何か知っている事があれば教えてください」
月城が尋ねると、尊治は「うーん」と考えながら「特にないのですが、最近妙な機械を見ましたよ」と答えました。
「え!?どんな機械ですか?」
「機械と言っても金庫みたいな感じですけどね」
「橋口、俺もそれは初耳だぞ」
「俺は見たんだよ。あっ、その場所に行きますか?」
「大丈夫です。でも、詳しく情報を教えてくれてありがとうございました」
月城達はお辞儀をすると、県庁を去って行った。尊治は月城達を睨みつけた。
「おい橋口、どうした仕事に戻るぞ」
拓也が尊治に声を掛けると、尊治は「わかった」と言ってにっこりと笑った。
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