第22話 大女(まぎーゐなぐ)
「あぃあんまーと
「仁王ー!」
芭蕉布を着た高齢の女性が中年女性を連れてがに股歩きで仁王の元にやって来た。
高齢の女性はよく見ると、手にハジチが施されていた。
仁王は人力車に乗っていた未来と蓮を下ろした。
「
「ぃえー
高齢の女性は未来と蓮に指を指した。
「
「仁王ーあんた
「無いって」
「ならいいけど。あれなんかの名前は?」
「女学校4年の伊舎堂カマドです」
「同じく女学校で地歴を担当しています。教師の波平ツルです」
2人は手を挙げた。
「流石、大和帰り。大和口が上手だね」
「ぃいー県立高女って言うでぃきやーが行く学校に行っているみたいさー」
「そうねぇーだあーこの市場案内させれー」
「
「
中年女性は仁王の肩を叩くと、仁王はしょんぼりした顔で人力車を引いた。
市場を歩くと、そこは今では有り得ない光景が広がっていた。死んだアグーの子豚を藁のようなもので包んで頭に担ぐ女性がいた。
「なんか昔の市場って無法地帯だね」
「うん」
未来と蓮は昔の市場の光景に驚いていた。
すると、どこからともなく「
2人の少女のうちは1人はごっつい顔をしていた。また2人共、仁王や中年女性、高齢女性同様、裸足だった。
「あぃ
中年女性が2人の少女の事を知っていた。どうやら少女達は姉妹のようだ。
「あぃ
「今はいいよ。それよりウシ、
「あっちよーでもねー最近、この辺に
「
「
仁王や中年女性、高齢女性も大女と言われてピンと来なかった。
「ねぇそのまぎーいなぐって何だろう?」
「多分、2ちゃんの怖い話にあった『八尺様』みたいな人だよ」
「何それ」
蓮は未来の話を半分信じていなかったが、その背の高い女性は蟹江校長が1年前に見たという女性の話に似ていた。
「えーあれも
高齢女性は蓮に指を指した。確かに言われてみれば蓮も160㎝はあるので、当時の女性の中では背が高い方だ。
「
ウシは真剣な眼差しで話していた。
「
ウシの妹トクが口を開いた。
「ぃいーその時に、あぬ
ウシは懐からあるものを取りだした。それはUSB状の機械「VANISH」だった。
(何でVANISHがここに・・・・)
蓮は目を疑った。この時代に生きるウシがそんな機械を持っているわけがない。洋装の女性はまさかと考えてしまった。
「それはどこで手に入れたの?」
蓮はウシに聞いた。
「
ウシがVANISHを持った経緯を答えると、蓮は「それ私達にくれる?」と聞いた
「いいよ。どうせ使い勝手が無いものだし」
ウシは蓮にVANISHを渡した。蓮はVANISHを未来が持っている肩掛けカバンに入れた。
「ありがとうね。その洋装をした女性の事、詳しく教えて」
「うーん。たしかあれ、我んと変わらない年の娘がいたよー」
ウシは洋装の女性に関する新しい情報を教えてくれた。
「情報ありがとう。じゃあね」
蓮は未来や仁王達と共に魚市に行った。
_______________
一方、
「お母様!私までこんな格好をして恥ずかしいです!ここは帝都ではございません。沖縄で洋装なんて目立ちます!」
妙子はいつもの女学生スタイルの恰好と違って帽子にワンピースと当時としてはモダンな格好に身を包んでいた。
「妙子、袴よりこっちの方が動きやすいし、楽でしょう」
お母様と呼ばれる身長170cm近くのモデル体型をした美しい女性が白い帽子にワンピースに身を包み、洋傘を持っていた。手には白いレースの手袋をしていた。
「で、でも…」
妙子は洋装が恥ずかしかった。周囲が自分達の事をジロジロ見ているからだ。
「暑いわね。妙子行くわよ」
母親は妙子の言う事を聞かず、洋傘をさして歩いて行った。
「あれー
「あいやー
人々は妙子の母親の姿に驚いていた。
妙子と母親はその後、人力車に乗って西本町に行った。人力車を降りて西本町を歩くと、「沖縄観光物産店」と書かれた店に入った。
「いらっしゃいませ。奥様、どうされましたか?」
店の中に入ると、菊が出迎えてくれた。
「古里さん、お店の方はどう?」
妙子の母親も菊の事を古里と呼んだ。
「ええ。お店の方はまぁまぁ順調です」
「そう」
「奥様、他にも沖縄関連のお土産があるので、できればこちらもほうも…」
「興味が無い。それよりも私のVANISHが魚売り小娘に奪われた。新しいのが欲しい」
妙子の母親が菊に新しいVANISHが欲しいとねだった。
「いいですけど、それよりいい考えがあります。そちらの傘を貸してください」
妙子の母親は菊に傘を渡した。
「私の傘で何をする」
「まぁ私の工場に来てください。完成したらわかりますよ」
菊が2人を店の奥に案内させると、そこは板張りの部屋だが、この時代にはそぐわぬパソコンや機械を制作する工場があった。
「なっ…何これ…?」
妙子は蒸気機関とも違う複雑な機械を見て驚いていた。なにせ彼女が生きていた時代にはそのような機械がまだ無いからだ。
「佐藤、この傘にVANISHの機能を入れて」
「はい」
佐藤は洋傘を分解してVANISHと同じ機能を持つように改造していた。
「これで新しいVANISHができるのか?」
妙子の母親が佐藤に聞くと、「できます」と佐藤が答えた。
「実は私達、インセルレボリューションが開発したVANISHという機械を独自に改良している工場です。一応、工場なので元々あった畳をとっぱらって使用しております。私達独自に開発した機械に消人器がございます」
菊は木製の出前箱を持った。
「…凄いもうこんなものまで発明しているのね…古里明美、
妙子の母親は菊と佐藤の本名を呼んだ。彼らもまた帝国機関の一員にして2016年の未来から来たのだ。
「はい」
「完成したら私にちょうだいね。あれが無いと暑いから」
「かしこまりました」
菊こと古里明美はお辞儀をした。
「傘が完成すれば詔人ちゃんがいる県立図書館に行くわよ」
「はいお母様」
妙子の母親と妙子は店の奥からパンプスを履いて店内に行った。
_______________
県立図書館では詔人が学校の宿題をしていた。隣には伊波普猷がいた。
「橋口君、聞いたぞ。君は府立1中で優秀だったと」
「先生、それは誰から聞きましたか?」
「君の同級生の當間君から聞いたよ」
「そうですか…」
「
1高とは東京大学教養学部の前身であり、今の高校とは違って大学の前期課程である。
「首席になれば1高に?」
「そうだ。私でも中学校では首席になれなかったし、1高に進学する事も出来なかった」
「でも3高に進学出来たじゃないですか?」
「やむなくな。君には私が叶えられなかったものを叶えて欲しい」
詔人は尊敬してやまない男に褒められるのは嬉しいが、詔人にとって全寮制の男子校である1高に進学するのはかなり気が引ける。今でも男ばかりの中学校はかなり苦しいのに・・・・
「……わかりました。叶えてみせますよ」
詔人は正直に言う事が出来なかった。
_______________
仁王達と共に魚市に行った未来と蓮は仁王達と分かれて大門前通りに来ていた。
「やばい!魚売りのウシとトクから魚も貰ったよ」
蓮が持っているくーじには魚が入っていた。「すごいね」未来はちんすこうを食べ歩きしていた。 すると、向こうからウタとモーガンが歩いて来た。
「あっ!モーガン!」
「ウタ!」
未来と蓮は2人の元へ駆けつけた。
「モーガン、実はこんなものを拾ったんだ」
蓮は未来のカバンからVANISHを取りだした。モーガンも蓮がVANISHを持っている事に心底驚いていた。
「これは…どこで見つけた?」
「東町の市場で魚売りのウシって子が持っていた。その子から貰った」
「そうか。そのウシは誰から貰ったんだ?」
「貰ったという本人曰く洋装した女性から『奪った』って言っていた」
「洋装の女性?」
モーガンは話を聞いて怪しいと思った。
「もしかしたらその人、帝国機関の人間かもしれないね」
ウタは洋装の女性が帝国機関の人間だと睨んだ。
「…本当はここでVANISHを預かりたいが、ここでは危険だ。蓮、お前が持っておけ」
モーガンに言われると、蓮は未来のカバンにVANISHを入れず、自らの着物の懐にVANISHを入れた。
「わかった。拓也さん達に連絡する。大門前通りを巡ろうか?」
「うん」
未来と蓮は大門前通りを歩いて行った。
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