間章 魔法の髪飾り

髪飾りの謎

 あの妖魚による不思議な出来事の後、小奈津こなつの身に不運なことが続いた。

 まず、異空間に吸い込まれた際、鞄をなくしたので教科書や筆箱などを買い直すことになった。

 スマホを無くし、新しい機種に変えてデータを復旧するのに、お小遣いの全てを使い果たした。

 また、苦手な数学の授業で当てられて答えられず、先生に嫌味を言われた。

 その後の体育の授業でドッヂボールが顔に当たって腫れた。

 こういう時こそ助けてほしいのに、バレッタはステッキに変わらず、そのままだった。

 あの魔法みたいなことは何だったのだろうか。

 気になった小奈津は雑貨屋へ向かうことにした。

 その雑貨屋は小奈津のお気に入りだ。店内はレトロな感じで、かわいいものが揃っているので、来る度に目を奪われる。

 小奈津は商品を見ていたいという気持ちをぐっとこらえ、レジに向かった。

 レジにはこの雑貨屋の店主である白髪交じりの男が座っていた。


「いらっしゃい」


 小奈津はこの雑貨屋で買った髪飾りを店主に見せる。


「あの、この髪飾りですが」

「? 何か?」 

「とてもかわいくて気に入っています。だけど」


 気づけば小奈津は店主にあの不思議な出来事を話していた。

 てっきり店主に笑い飛ばされるかと思いきや、店主は真剣に小奈津の話を最後まで聞いてくれた。

 小奈津が話し終えると、店主は腕を組む。


「……これは、儂が海外に旅行した時に、道端で売っていた」


 店主曰く、その道端では珍しい雑貨を扱っていたので、店の商品として売りたいと思い、交渉したそうだ。


「その時に道端の売り主はこの髪飾りの由縁を語った」


 それは遥か昔のこと。魔女が普通の人間に恋をし、情熱的な恋心を寄せていた。だが、普通の人間にはすでに恋人がおり、振り向いてくれないと分かると、魔女は普通の人間に不幸をもたらした。そのことが発覚し、追い詰められた魔女は杖を置いて行方をくらませたという。

 それから、魔女の激しい思いを吸い込んだ杖は解体され、さらに新しい魔法が上書きされた。それは、


「恋心を鎮める」


 小奈津は店主の言葉を繰り返す。

 恋心は恋心でも、心に影響を及ぼす程の激しいもの。それをこのバレッタ、否ステッキは鎮めてくれるのだという。その力は今の形になっても失っていなかったというわけだ。

 店主の話を聞いて納得した。

 このバレッタは恋が絡んだ不思議な出来事に反応したのだ。だから、小奈津にとっての、恋が絡んでいないピンチには反応しなかった。


「御伽噺だと思ったんだ。まさか本当のことだとは思っていなかった……取り替えようか?」


 小奈津は首を横に振る。


「ううん、いい」


 小奈津はバレッタのかわいいデザインを結構気に入っているのだ。手放す気になれない。


「教えてくれてありがとう」


 小奈津は店主に礼を言うと、店内の商品を見に行った。


                       

 

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