第12話 薬草

「わっ!本当にあった!凄いです、イスルギさん!」


森の中、深い藪を剣で切り払いながらかき分けて進むと、そこには三つ葉のクローバーを人間の手のひら大にした様な草が生えていた。

クロディン草と言う、かなり価値の高い薬草の一種だ。


「これはなかなか見つけられない薬草なのに、本当に凄いです!どうしてここにあるって分かったんですか?」


エリクシルが目を輝かせ、そう聞いて来る。

当然、僕はそんな彼女に――


「ふ……まあ戦士の勘って奴かな」


――格好をつけて返した。


そして『ピロリン』と音が鳴る。


「か、勘ですか……」


もちろん、勘と言うのは真っ赤な嘘だ。

クロディン草は、空間把握で見つけた物だった。


空間把握は、範囲は200メートル内の地形や生物などを認識する事の出来るスキルだ。

その中には植物なんかも含まれている。


え?

薬草として見つける事が出来たって事は、植物の概要も分るのかだって?


残念ながら、そんな効果はない。

範囲内にある物の形や大きさが把握できるだけで、それがどういった物かは個人の知識による物だ。


じゃあなんで僕にそんな知識があるのか?


簡単な事さ。

僕がクロディン草を見分ける事が出来たのは、エリクシルにその形を事前に聞いていたからだよ。


――少し前。


「イスルギさん。余裕があったら、薬草の収集をしておきませんか?」


森の中を歩いていると、エリクシルが急に提案して来た。


「薬草の収集?」


「はい。私達エルフは薬草に詳しいんです。村に行商の方が来ていたのも、私達の集めた薬草を手に入れる為だったんですよ。だから、薬草を売れば少しはお金になるんじゃないかと思って」


エリクシルには、お金がないと言う独り言を聞かれてしまっていた。

その事で、彼女は気を使ってくれた様だ。


「成程……確かにそれはありだな」


流石に、無一文というのは宜しくないからね。

世の中お金とは言わないけど、稼げる術があるなら稼いでおくべきだ。


仮に薬草を手に入れたとして、どうやって捌くのか?

お金の価値も分からない奴に、現金化するのは無理じゃないか?


それなら問題ない。

もうこの世界の常識は手に入れてるからね。


何故なら……GIPを稼げたから。


エリクシルと握手した際に『パッパララララー』とファンファーレの様な音が鳴り響き、僕がシステムパネルを確認すると――


『【薄幸なハイエルフの少女を守り抜け】クエスト・進行イベント【同行】を達成』


『【薄幸なハイエルフの少女を守り抜け】クエスト・サブイベント【絆】を開始』


――と出ており、GIPを2ポイント獲得できていた。


そのお蔭で余裕が出来たので、僕はポイントを使って常識学習を交換している。

だからこの世界で生きていくための最低限の常識は、もう頭の中って訳さ。


その際に分かった事が一つある。


それは――


最初の街で買った食品とマントは、実は超ボッタクリだった事だ。

適性価格の倍近くふんだくられていた。


……いつかまたあの街に戻る事があったら、その時は絶対に仕返ししてやるからな。

覚えてろよ。


「期待しててください!世話になりっぱなしじゃなくて、こういう所で少しでもお役に立って見せますから!」


エリクシルはそう力強く意気込む。


彼女を守る事に関しての対価は、ハイエルフの貴重な血を貰うという形で成立している。

けどそれは単なる建前でしかないし、彼女もそれは理解していた。

だから少しでも俺の役に立とうと、頑張ろうとしているのだ。


「俺も一緒に探すから、薬草の特徴とか教えてくれないか?」


特徴さえ知っていれば、空間把握で薬草を見つける事が出来る様になる。

知っておいて損はないだろう。


「はい。分かりました」


まあもっとも、それを薬草探しのメインに据えるつもりはなかった。

あくまでも、エリクシルの取りこぼしなんかを『さりげなく見つけ出した体』でのみ使用するつもりだ。


何せ、空間認識の範囲は200メートルもあるからね。

もし本気を出したら、僕だけが薬草を見つけまくる事になるだろう。


正直、それは宜しくない。

せっかくエリクシルがやる気を出しているのに、水を差したくないからね。


――現在。


そんな訳で、採集しながら僕達は森の中を進んで来た。

エリクシルの薬草を見つける能力は優秀で、近場にある物はその殆ど全て見つけ出している程だ。


だが今回の様に深い藪の中にある様な物は見つけるのが難しいらしく、そういう時は僕の出番となる。


「イスルギさんに負けない様、私ももっと頑張らなくっちゃ」


「なら競争だ」


「はい!」


こんな感じで和気あいあいと、僕とリクシルは薬草収集しながらの旅を続ける。


しかしアレだな……


前世は空気陰キャ。

今世は15年間監獄。


そんな僕にとって、可愛い女の子との二人旅は果てしなくハードルの高い物だった。

それも何もない森の中を行くとなれば、猶更だ。

だから正直、最初はどんな風に接すればばいいんだとか悩んでたんだけど……


世の中案外何とかなるものだね。

正に薬草様様だよ。

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