第5話 見切り発車

「もうちょいで50ポイントだな」


街を出て既に一週間経つ。


日が暮れると――


「ふ、闇が来たか。だが全てを黒に塗りつぶせると大間違いだ。何故なら、俺と言う光が地上に燦然と輝いているからだ」


――で、一ピロリン。


寝る時には――


「戦士にも休息は必要だ。今日という日を礎に、俺は明日へと羽搏く」


――で、ピロリン。


朝起きたら――


「今日もまた日が昇る。俺の為に……さあ旅立ちの時だ」


――でピロピン。


更には、ご飯を食べる度に――


「我が血肉となりる事を誇りに思うがいい」


――これまたピロリン。


以上のライフワークで1日6ポイント程イキリポイントが溜まるので、現在の所持IPは49だ。


交換は5ポイントの次が10pで、その次が20pだったけど、30と40では増えなかった。

20で頭打ちとは思えないので、50ポイント辺りで次の奴が解放されるんじゃないかと僕は踏んでいる。


え?

交換してスキルや魔法を覚えないのかって?


高ポイントでどういったものが交換できるか、興味があるからね。

だから、出来るだけポイントは溜めていく方向で行こうと思ってるんだ。

もちろん、緊急で必要になった場合は話は別ね。


現在の状況は、かなり安定していた。

この一週間特にトラブルなく、僕は街道から200程はなれた位置を維持しながら旅をしている。


ああ、200メートルって言うのは空間把握の届く距離ね。


ん?

半径50メートルじゃなかったのかって?


実は、神様から貰った時空のレベルは2に上がっていた。

まあ上がったというよりは、上げたと言う方が正解かな。


どうやってあげたのか?


厳しい訓練や魔物を倒して……と言いたい所だけど、神様から貰ったチートはそんな事ではレベルは上がらない。

ではどういう条件かというと、それは――


賽銭だ。


神社とかで、お参りする時お金を投げるよね。

神さまにお願いする対価として。

つまりそういう事だ。


時空のレベルは、この世界のお金を神様に捧げる事で上げる事が出来る。

正に地獄の沙汰もなんとやらだ。

まあ神様相手に地獄呼ばわりはあれではあるけど。


捧げたのは勿論、ツクムからの慰謝料の残りだ。


正直、残しておいた方がいいかなとは思っていたんだけど……


ついついレベル上げの誘惑に負けてしまい、上がるかどうかの確証もないまま捧げてしまったんだよね。

まあ陽キャイキリはなんでも見切り発車しそうなイメージがあるし、上がったので結果オーライ。


因みに他の強化は――


インベントリが5枠から7枠に――しょぼい!

空間転移が3メートルから6メートルへ――これはまずますかな。

時間停止が1秒から1、2秒に――何とも言えない微妙さ。


――といった感じだ。


改めて確認すると、空間把握以外は無難な強化となっている気がするな。

逆に言うと、空間把握だけ飛びぬけて強化されているとも言える。


ひょっとして神様は僕の様子を見ていて、今必要な物を優先的に伸ばしてくれたりとか……って、流石にそれはないか。

神様もそんなに暇じゃないだろうし、きっとたまたまだろう。


「しかし……以前の陰キャだった頃なら、街道を外れた旅なんてきっと出来なかったよな」


今の僕は街道から大きく外れて移動しているため、荒れ地や雑木林を進む形となっている。

街道も綺麗に舗装されている訳ではないが、僕の進む道はそれの比ではないくらい足場が悪い。

当然そういった所を進むのは、普通に歩く何倍も疲れる行動なのだが、正直今の僕にとっては楽勝だった。


それもこれも、武闘派名門でならすガゼムス家の血を引いた体に、10年以上の訓練が加わっているお陰だ。


「体力があるって素晴らしい!」


荒れ地をスキップしながら、そんな事を呟く。

以前は体を動かすのが凄く億劫に感じていたけど、体力があると逆に動き回りたくなってくるから困る。


「さて、昼ご飯でも食べようかな」


荒れ地を抜け、森の中に入る。

しばらく歩くとお腹が空いて来たので、食事をとる事にした。

ここで格好つければ、ポイントが入って50ポイントに到達するだろう。


「ん?」


マントをござ代わりに敷き、その上に座った所で空間把握に反応が引っかかる。

200メートルほど離れた場所に、女性――どちらかと言えば女の子と呼ばれる年齢の子の反応が。

方角は街道のある方向とは逆方向で、森の中の方だ。


森の中に人?

冒険者か何かだとか?

まあこの世界に、冒険者なる肩書があるのかは知らないが。


その反応は、此方へと近づいて来る様な動きをしている。

ひょっとしたら、街道を目指しているのかもしれない。


「これは……魔物の反応か?」


女の子の反応の後に、直ぐ別の反応が飛び込んで来る。

今度は人型の、それも複数の魔物の反応だ。

その動きは、明らかに女の子を狙った動きをしていた。


「これはチャンスかもしれない……」


女の子が魔物に襲われているのなら、それは――


イキるチャンスだ!


困っている女の子を助けつつ、格好をつける。

正に願ってもないシュチュエーションだ。


まあ魔物を倒せるのかという問題もあるが、相手は所詮小型。

そして今の僕には高い身体能力が備わっており、空間転移や時間停止も出来る。

多分大丈夫だろう。


「よし、行くぞ!イキりに!」


マントを素早く回収し、僕は反応のある方へと急いで向かう。

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