第2話 イキる!

僕が神様から貰ったチートは大きく分けて二つ。


一つは時空――Lv1である。


チートである時空には、四つ程効果があった。

インベントリと空間把握、それに転移と時間停止だ。


インベントリは、物を収納できる小説なんかでお馴染みの謎空間である。

残念ながら、無制限に物を詰め込んだりは出来ない。


レベル1で収納できるのは、5種類まで。

種類と言った事からも分る様に、同じ種類の物はスタック可能だ。

ポーション99個みたいな感じで。


レベルが上がれば、まあ収納数も増えていくだろう。


空間把握は、僕を中心とした半径50メートル内の空間を把握する能力だ。

地形だったり、生き物の様子なんかを確認できる。

今回の脱出にも、きっと役立ってくれる事だろう。


これもレベルが上がれば、範囲なんかが広がっていく。


で、次が転移。

まあ一言で言うと、瞬間移動だね。

範囲は3メートルで、再使用の待機時間――所謂クールタイムが10秒程ある。


レベルが低いうちは移動距離も少ないし、クールタイムのせいで連発も出来ないけど、間違いなく強効果だ。

この状況からの脱出の要でもある。


で、最後が時間停止。

これは読んで字の如く、自分以外の時間を停止させる能力だ。

レベル1での効果は1秒で、クールタイムは15秒だ。


因みに、周りの時間を止めたら空気が壁になって自分も動けなくなる。

とかそういう事はない。


仮にも神様から貰ったチートだからね。

そこは御都合的仕様で、クリアーされている。


そして時空とは別のもう一つのチートは、IP交換システムと呼ばれる物だ。

IPはイキリポイントの略で、俺がイキって気持ちよくなると獲得出来るポイントになっている。


この能力はIPを使って、スキルブックやマジックブックを獲得する事が出来るという物だ。

本来スキルや魔法は訓練して覚える物なのだが、ブック系を使えば一瞬で習得出来る様になっている。


イキって悦に浸ったら、優秀なアイテムが手に入る。

正にチート!


「さて、それじゃ第一段階達成のために……昼寝でもすっか」


なぜ昼寝をするのか?

果報は寝て待てと言うだろ?

僕が何を死うようとしてるのかは、直ぐに分るさ。


「テメェ!トレーはちゃんと出せっつってんだろうが!」


横になってうとうとしていると、独居房の扉が勢いよく開き、ツクムが怒鳴り込んで来る。

僕は食後に、ドアの隙間からトレーを戻す様に彼から言われていた。

今回はそれを無視して、昼寝してた訳だ。


そして案の定、狙い通りツクムが独房の中に態々入って来た。

俺の為に、わざわざ扉を開けてくれてありがとう。


え?

転移で扉は抜けられるんじゃないか?


もちろん抜けられる。

けど、このチートは一度使えば、10秒のクールタイムが必要になってしまうからね。

そこがネックだ。


もし看守が一人なら転移で抜け出して、時間停止でツクムをボコボコにするという手段でよかっただろう。

けど、僕の独房を見張っている看守は常に二人いる。

万一二人同時に制圧出来なかった場合、転移のクールタイムが足を引っ張る可能性が高い。


だから態々、ツクムに扉を開けて貰ったのだ。

これなら転移を温存できる。


更に言うなら、もう一人から独房の様子は見えていない――空間把握で確認済み。

つまり余計な声さえ上げさせなければ、もう一人に知られる事無くツクムを制圧できるという訳だ。


「ご、ごめんなさい!!」


「ごめんじゃじゃすまないんだよ!!」


ツクムが警棒を振りかざし、僕に殴り掛かって来た。

その瞬間、転移でその背後に回る。

そして事前に手にしておいたタオルを、背後からその口に突っ込んだ。


「――なっ!?んんんんんっ!?ごぇ……」


何が起きているのか理解できず、パニックに陥るツクム。

僕はその脇腹に、渾身の一撃を叩き込んだ

するとその一発で、奴の体がその場に崩れ落ちてしまう。


「よっわ……」


時を止める必要すらなかった。

想像以上の弱さだ。

いや、これは僕が強いと考えるべきか。


片腕がないとはいえ、仮にも僕は名門ガゼムス侯爵家の血を引いている。

更に、狭い空間ながらも10年以上訓練して来たのだ。

もはや今の僕にとって、雑兵如き物の数ではないと言う事だろう。


「やめてください!」


子供の頃から散々殴られて来たのだ。

当然このぐらいで許すつもりはない。

僕は自分が殴られているかの様に叫びながら、気絶したツクムを更に殴りつける。


思い知れ!


「あ、やっちゃった……」


取り敢えず4-5発は。

そう思って殴り終えたら、ツクムはもう息をしていなかった。

どうやら力を入れ過ぎた様だ。


「人殺し……いやまあ、こいつは屑だし気にしなくていいか」


人を殺すなんて恐ろしい事、自分がするなんて考えもしなかった事だ。

だが……やってみると、案外どうって事はなかった。

後味が悪いどころか、むしろすっきりした気分まである。


まあ相手は、子供にすら手を上げる屑野郎だったからな。

これが普通の人だったら話は変わって来るが、ゴミ掃除で嫌悪感を感じる必要はない。


「さて、じゃあ次だな」


空間把握で確認するが、もう一人の看守は異常に気付いていない様だった。

僕は空間転移でその背後に転移し、そのまま後頭部を殴って一発で気絶させる。


「よし、今度は死んでない」


ツクムを殺したのがある程度殴る練習になったお陰で、加減が上手くいった。

アイツはともかく、他の看守に殴られた事はないからな。


流石に殺したりは……


「でもよくよく考えて、ツクムが俺を殴ってるのを知ってて止めなかったんだよな」


同僚同士の余計ないざこざを避けるためだったのだろうが、子供が殴られているのを知っていて止めないのは流石に屑だよな。

こいつもいっそ殺してやろうかと、倒れている看守を見下ろす。


が――


「やめとこう。僕は別に殺人鬼になりたい訳じゃないからな……ふ、命拾いしたな。お前。神に――いや、このキョウヤ様に感謝するんだな」


キョウヤは自分で付けた名だ。

実はこの転生した体は、名前すらもらえていなかった。

なのでカッコいい名前を自分でつけてみた。


生前の名前は使わないのか?


いや、あんまイキリ陽キャ向けの名前じゃないじゃん。

山田隆って。


「お、ポイントが入った」


頭の中で『ピロリン』と、音が鳴る。

確認してみると、IPが一ポイント入っていた。

どうやら今の行動は、イキリと判断された様である。


「うん、凄くいいシステムだ。さあ、この調子でイキリまくろう!」


こうして始まる。

僕の人生の第二幕。


そう―のイキリ陽キャ人生が。

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