第2話 魔法少女になりました


 ハルの家、雑貨屋のドアを開けるとカラン、カランという音と同時に声が掛かる。

「いらっしゃい、今日はカレーだよ」

 ハルの父が電子タバコを片手に教えてくれる。

「いつもすみません、お邪魔します」

 挨拶しながら、おじさんの脇を抜けてレジ裏の住居に続く階段を上る。


 階段を登り切り挨拶する。

「お邪魔します」

「いらっしゃい、アキちゃんはご飯一緒する?」

「じゃあお言葉に甘えて」

 いつものおばさんとのやり取りを、いつもの写真が迎えてくれる。私とハルのまだ歩けもしない頃の写真だ。


 少し遅れてハルが来る。

「ただいま」

「「お帰り」」

「アキ、飯持ってくから、先に部屋いっといて」

「ん」


 勝手知ったる他人の家、フキン片手にハルの部屋に入る。

 戦車の模型が棚にホコリ一つ被ることなく並び、微かに塗料の匂いがする。昔はもっと、臭くて散らかってたな。


 ちゃぶ台を準備し、ベッドに膝をついて窓を開ける。

 

 バカでチビで、私の後ろを付いて回って、アワアワしてたのに、カッコよくなっちゃった。

 勉強机の上には手垢の跡がわかる参考書が積まれ、ドアの枠には私とハルの背比べが刻まれている。今じゃハルの方が手のひら一つ分背が高い。

 

「アキ、開けてくれ」

 半開きのドアに顔を挟んだハルが居た。そういうところは変わらない。

 ドアを開けてあげると、カレーにサラダにコーヒーが2人分、溢れそうなトレーをちゃぶ台に着陸させるとそのまま飛びたつように手を伸ばし、勉強机の引き出しから何やら取り出した。


「誕生日!明日だろ。これ、プレゼント」

 振り向きざまに、ラッピングされた袋を渡される。

「ありがとう、中あけていい?」

「うん」


 あー、これは勝ったわ、アキちゃん大勝利です。今日の雰囲気は間違いない。

 私の脳内では裁判結果の如く「勝利」と書いた紙を持ったスーツの人が10人ほど走ってる。


 中に入っていた髪飾を手に取ると温かい光が私を包み、魔法少女に変身する。

「へ?」

 光がおさまると、白を基調とする、短いスカートに、ヘソが見えて袖がない上着、レース地スリーブとストッキングが前腕と脚を隠している。小さい時に見た魔法少女そのままの格好だ。

 オマケに、髪飾りはステッキになって手に収まり、淡い光を放っている。


 ハルは私以上に驚いてるようで口を開け、目玉が少し飛び出ている。

 学校の制服、なくなると親が泣くな……

 ……とりあえず本能に従い、カレーを一口、ウマイ!スパイシー!

 現状を把握した結果。

「夢みたい?」

 と、スプーンを唇に当てながらつぶやいた。


 ガッ


 ハルがデコピンとは思えない、強力な一撃を私の眉間に打ち込む。

「夢じゃ無いのか」

 ハルは爪が痛いのか、手を振ってる。

「痛いんだけど」

「でもいきなり、アキがそんなカッコになって、俺の部屋でカレーを食べ始めたら、夢か確認したくもなる」


 互いの奇行に納得し合い。なぜか正座で向かい合い、一緒にカレーを食べる。食べ終わる。

「ネタバラシで、誰か来ないの?」

「俺のプレゼントが原因で大変申し訳ないが、ガチでトラブルです」

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