第6話 妹との距離(目黒音夜視点)

「なぁ、友梨って今、何か好きな物とかあるか?」


「えっ……とつぜん、何?」


 突拍子のない質問に捉えられてしまったようで、困惑した様子で聞き返される。

 もう少しさり気なく聞くはずが、直球的に聞き方になってしまった。


 久美子の提案を受け、さっそく今夜から探りを入れてみることにしたのだが、どう遠回しに欲しい物を聞こうかと考えたものの、出た言葉は単純で、なんの捻りもないものだった。

 

「いや……最近あんまり、友梨の趣味とか、流行り物とか、そういった話してないなぁと思ってさ」

 プレゼントのことだと悟られないよう、なんとか誤魔化しながら聞き出せるよう、言葉を選んでいく。


「……もしかして、誕生日のプレゼントのこと聞いてる?」


「……え…………。」


 わずか数秒の会話で確信をつかれて、こちらの思想を見抜かれてしまったことに動揺する。


「……え、あの…………」


「ねぇ、去年も言ったと思うけどさ、適当でいいって言ったじゃん」


「いや、まだ誕生のプレゼントについて聞いてるとは」


「……違うの?」

「いや、それは…………」


「はっきり言って!」


「違わないです」


 威圧感に負け、正直に吐いてしまう。


 ごめん久美子。

 兄貴は、ものすごく使えない兄貴でした。


「その、なんていうか……正直に話をすると、毎年味気ないものばかり渡している気がしててさ。だから今回は、友梨が喜んでくれるものを渡したいなって思って」


「別に、そんなに無理しなくてもいいんだけど」


「無理なんてしてないって。ほら、こないだのテェディーランドで俺用のお土産くれたじゃん? すげぇ嬉しかったからさ。だから俺も、何かお前が欲しいものを誕生日ぐらいはあげたいなって思ってさ」


「……お土産、嬉しかったんだ」


 非常に小さな声で友梨は呟く。


「ん? なんでそんな声が小さくなった?」


「べ、べつに大したことじゃない!」


 怒られてしまった。


「そういうことなら、まぁ……分かったけど。私も突然好きな物とか、欲しい物って言われてもすぐには思いつかないからさ、少しだけ待ってくれない? ……とりあえず保留にしていい?」


「あぁ、別にいいけど」


「でも私は正直なんでもいいから…………兄貴が買ってくれるなら」


 また後半の方はよく聞き取れなかった。


 妹の声量は、頻繁に変わりなかなかに聞き取るのが難しい。

 女子高生というのは、こいものなのだろうか?


「とりあえず俺のほうでも考えて探してみるけどさ、なんか欲しいものが見つかったらすぐに言ってくれよな」


「……うん、でも兄貴チョイスかぁ……やっぱりちょっと不安かも」


 友梨はクスッと笑う。


「だから、遠回しに聞いたんだろ」


「兄貴、分かりやす過ぎ。そんなんじゃきっと、女の心は読めないだろうね」


「まぁ、友達にさり気なく聞いてみたらって、アドバイスがあったから、今日はこうやって聞いてみたんだけどな」


「……ねぇ、それって女の人?」


「あぁ、大学の友達だな」

 俺の友人ついて聞かれるとは、少し驚いた。

 友梨でも、俺の交友関係を気にしたりするんだな。


「……ねぇ、兄貴は大学にも女子の友達って、いるの?」

 今まで、あまり大学の交友関係について話したことがなかったので、何を話せばいいのか少し迷ってしまう。


「講義とか、研究室で話したりする子はいるけど、その程度だな。あぁ……でも今度、一緒に買い物には行く予定はあるけど」


 雑誌が床に落ちる。

 どうやら友梨が手を滑らしたらしい。


「……ど、っぢ、どんな人なのその人?」


「どんなって言われてもなぁ、なんでそんなこと聞くんだ?」


「べ、べつに! ちょっと気になっただけ」


「…………?」


「兄貴は女子の扱いとか下手そうだから、ちょっと心配になっただけ」

 先程まで穏やかに話せていたと思っていたのに、今の友梨はどこか不機嫌な様子が感じられてしまう。


「特徴って言われもなぁ、友梨と身長が同じぐらいで、髪は長い方で……あとは、話しやすいぐらいか、あんまそういうことを考えてこなかったから、それぐらいしか出てこないぞ」

 久美子は何気なく話すようになり、親しくなったこともあり、特徴と言われても、友梨の知りたいようなことは出てこないと思うのだが。


「ちなみに、どこに行く予定なの?」

「ワミズミモールだけど」


「ワミズミ……」

 ワミズミモールは、県内屈指の大型モールである。


 暫く考え込んでいるいあたり、何かついでに買ってきて欲しいものでもあるのだろうか?


「あ、兄貴はその人のこと気になってるの? ……付き合いたいとか、考えてる?」

 妹から出た言葉は、想像とは全然違っていた。


「付き合う? 俺と久美子がか?」


「久美子っていうんだ……」

 ギリギリこちらに聞こえるような声で、友梨は呟いていた。


「呼び捨てで、モールに2人でお出かけって普通に怪しいと思うんだけど」


 確かに異性が2人で出かけていれば、それをデートと見るものがいるのも分からなくない。


「まぁそう言われば、怪しまわれるのは分からなくないけどさ、本当に普通の友人だぞ。そういった感情を持ったこことは1度もなかったから」


「…………そう、なんだ」

 再度何かを考えるように、再び小言を呟いている。


「とりえず了解、プレゼントの件は考えておく、その人と買い物行く日までには適当に決めておくよ。そっちの方が買い物さっと終わって楽でしょ」

「えっ、なんでその時にプレゼント買うって分かったんだ?」

「いや、それぐらい分かるって」

 期限が悪くなっていたと思ったが、今の友梨は笑顔で不機嫌さは見られなくなっていた。


「参考書とかやめてくれよ」

「分かってるって。そうだな何にしようかな〜」

 久しぶりに友梨の笑う表情を見れた気がして、俺も心なしか安堵する。


 この感じなら、もっといろいろ話せるかもしれないな。


「なぁ、友梨は女子が喜びそうなケーキのお店とか、ワミズミモールのどこかにあるか、知ってたりするか?」

 そしたらついでに会話の取っかかりとして、女の子が喜びそうなカフェでも聞いてみよう。

 

 帰りには、久美子に奢るわけだしな。


「…………は?」


 とつぜん、ものすごい形相で睨まれた。


 えっ? なんでそんな怒ってらっしゃるの?


 なぜか、機嫌を大きく損ねていた。


 全然、妹が分からない。


 やっぱ嫌われてんのかな……俺。


  ―――――――――――――――


次回更新は12月3日を予定しています。

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