第4話 理想のお兄ちゃん(目黒音夜視点)

「あいつ、過労と過剰摂取できっと早死にするわね…………」

 兼継の背中を見送りながら、呆れたように呟く久美子。


「まぁそれにしてもさ、話を聞いていて思ったけど、音夜は妹さんのこと、大切にしてるんだね」

「……そうか?」

「妹さんの悪口とかほとんど言わないし、こうやって何かしてあげようって考えてるんだからさ、やっぱり良いお兄ちゃんだよ」


 ……良いお兄ちゃんか。


 確かに、友梨は大切な妹であることは事実。

 でもそれはきっと、幼い頃に父親を亡くした、あいつへのお節介な気持ちが強いのかもれない。


「そろそろお節介をやく年齢でもないのかもしれないけどな。正直あいつは俺以上にしっかりしてるし、俺や母さんの方が困らせることが多い気がする」

 友梨が俺や母さんに、迷惑をかけるようなことはほとんどしない。

 中学以降は、そういった記憶がほとんどなかった。


「その感じだと、ほんとは、もう少し我がままでいて欲しいんでしょ?」


「…………え?」

 考えていたことを久美子に当てられ、少し動揺してしまった。


「なんか顔に出てるよ」


 確かに俺から見ても、友梨は他の女子高生より落ち着き過ぎていると、感じることがある。

 高校生なのだから、普通は家のことなど後回ししにて、好き勝手にしていい年齢なのに。


「あいつはたぶん、家族に迷惑をかけないようにって考えてるだろうからな、できればもっと自分勝手でいて欲しいとは思う。……高校生らしく、もっと好き勝手して欲しい……かな」


「訂正。音夜はさ、すっごく良いお兄ちゃんなんだね」


「別に…………俺はあいつに、なにもしてやれてないけどな」


 実際問題、友梨とは上手く関われていないのだから。

 良好ないい関係とは、全く持って言い難い。


「ね、ねぇ……音夜」


 久美子の声のトーンが、どこか少し変わったような気がした。


「もし、良かったらの話なんだけどね―――」


 遠慮がちに、少し様子を窺うようにこちらを見ている。


「……手伝おうか?」


「手伝う?」

 この時点で、頭が上がらないほどにお世話になっていると思うだが。


「こうやって話を聞いて、いろいろアドバイスもらえていて、これ以上手伝ってもらったらさすがに迷惑じゃ」

「…………そうじゃなくてさ」


「ん?」


「実際のプレゼント選びを、だよ。きっと男の視線だけじゃあ、女子高生の喜ぶものを見つけるのはなかなか難しいと思うからさ。だから私が手伝ってあげる。兄妹の仲を深められるようにサポートしてあげるよ」


「いいのか、そんな個人的なことに付き合わせて?」


「別に、それぐらい構わないよ」


「まぁ確かに俺1人で探すより全然いいとは思うし、助かるけど……なんか申し訳ない」

 確かに久美子の視点からお店選びや、今の若い女の子が好みそうな物を選んでくれれば、より友梨の期待に答えられる物は買えるだろう。


 だが、彼女だって多忙な女子大生。

 そこまでやって貰うには、腰が引けてしまう。


「一緒に選んでくれたら嬉しいのは本当だけど、さすがにそこまでして貰うのは頼りすぎかなと思えるし、今は何もお礼できることがない」

 「私がやりたいから、提案してるのに……」

 久美子は、不機嫌そうな反応を見せ、考えていた。


「よし! なんなら見返りとしてさ、手伝った帰りに、喫茶店でケーキセット奢ってよ!」

 久美子は名案を思いついたと、楽しそうな表情で提案をする。


「スタバとか、ドトールとか音夜が手軽に頼みやすいところで全然OKだからさ」


「まぁそれぐらいなら全然、むしろ歓迎だけどさ」

 楽しそうに話をする久美子を見ていると、断るのも失礼に思えてきた。


「それじゃあ、お願いしてもいいか?」


「やったぁ! それじゃ決まりだね。 誕生日ってすぐなんでしょ、それなら早い方がいいだろうし、来週の土曜日とか音夜は予定あいてる?」


「バイトは14時には終わるから、その後でよければ」

「OK! じゃあその日は15時に駅で待ち合わせで」

 トントン拍子に予定が確定する。


「場所はワミズミモールでいいかな? あそこならいろいろなお店があるし。……なので、その前に、まずは妹さんのリサーチよろしくね」


「それが、いちばん大変そうだよなぁ」



「音夜なら大丈夫だって! 頑張ってねお兄ちゃん!」

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