第16話 グッドバイ・ハロー・蟻悪魔クインデスパイヤ


 「クインデスパイヤ……!!」


 デカい……!! 

 デッドリバーには負けるが、体育館を半分は埋め尽くす巨大さだ。

 地上を突き破って這い出た女王蟻は牙を剥き出し超音波のような咆哮をあげた。

 ビリビリと俺にも男にも振動だけが伝わってくる。

 そして一気に周りの働き蟻達も目が真っ赤になって牙が伸び、口から吐き出す体液は辺りを溶かし始めた。


「ここは狭い! 校庭へ出るんだ!」


 俺達が逃げた後ろをクインデスパイヤが強靭な顎で破壊して追いかけてくる。


「うわ! 攻撃きますよ!」


 触覚が伸びて俺達をハエ叩きのように殴打しようとするのを既で避ける事ができた。

 荒れ放題だが広い校庭までは逃げる事ができたぞ!

 しかし、男とは離されてしまったか。

 女王蟻にだけ気を取られていれば、後ろから働き蟻達も襲いかかってくる。

 俺は働き蟻に回し蹴りを食らわせた。


 半分にはなったが、闇堕ち聖女の力で身体能力も身体の治癒能力も普通の人間の何倍もある。


「さてと……俺はどうするかな」


 聖剣・『祝福のウェディング・ベル』を出したからといって最強! 即一刀両断! というわけにはいかない。

 なんせ先の折れた剣だ……闘い方にもコツがいるし威力はかなり落ちている。

 

 遠くに離れてしまった男が胸元から伸縮性の魔法の杖のようなものを取り出すのが見える。

 なんの技なのか、周りの働き蟻が吹っ飛んで塵になるのが月に照らされて見えた。


 凄すぎだろ!!


 しかし、自分の子供達が殺されたのを見て、女王蟻が男の元に突っ込んでいく。


「危ない……!!」


 俺は思い切り跳躍して、一斉に蟻達から攻撃されそうになった男を掴んで二人で転がった。

 

「聖剣! 『祝福のウェディング・ベル』!!」


 即座に立ち上がり、男を背にして俺は聖剣をその手に出現させた。

 闇に侵食され斑模様でもなお光り輝く、美しい両刃の剣。

 ただ、剣の先は無い。

 いつ折れたのかは、わからない。


 それでも、俺はこの剣があるかぎり闘い続ける!


「その剣は……!」


「援護を頼みます!」

 

 俺が両手で剣を斜めに振り下ろすと、雷鳴のような光が溢れて働き蟻達が飛散し一瞬で蒸発した。

 雑魚ならこれでいけるか!

 

 穢れた闇堕ち聖女とはいえ、聖なる力はまだ健在なのだ。

 ただ自分のなかで闇部分とのコントロールが難しい。

 あの百鬼夜行の夜は、俺にとっても闇堕ちパワー・サービスタイムのようなものだったのだ。

 ウィンキサンダのサポートもあったんだろう。

 数々の罵倒も暴力も、俺の精神を見ながらのコントロールだった……?


 それはさすがに少し買いかぶり過ぎだな。

 全く! 悪魔と闘うたびに、お前を思い出すぜ! ウィンキサンダ!!


 働き蟻を蹴散らし、俺は女王蟻と対峙する。

 デカいのに動きが速くて後ろにまわることが難しい!

 口から溶ける体液を吐き出す巨大女王蟻の触角攻撃を避けつつ、右の一本を斬り落とした!!


 確か蟻は触角が片方無くなればコントロールが利かなくなるはず……って!


「虫と一緒なはずないかぁ!!」


 そうはいかないか! 残念!

 クインデスパイヤは変わらずに俺を巨大な顎で噛み砕こうと牙を剥く。

 さすがにその牙を正面から受け止めるわけにはいかない!


 避けたところで、男の援護攻撃に気を取られたクインデスパイヤの前の両足を切断することができた!!


 「よっしゃあ!」


 バランスを失い、頭から崩れ落ちるクインデスパイヤ!

 これでもう、ゆっくり仕留められるか!

 何度も攻撃を交わし、走り続けていた俺はさすがに少し疲れて片膝を地面に着いてしまった。

 

 その瞬間、風を切り裂く音がした。


「……がっ……!?」


 ぶっとい針が、俺の腹を貫いている。

 すんでのところで避けて、脇腹だったが……一瞬で血が月夜に舞い散る。


「ぐあっ!」


 そのまま吹っ飛ばされて、俺は血を撒き散らして転がった。

 なんだ……。

 くっそぉ……何が蟻悪魔だよ……気付かなかった……隠してたのか! 蟻のくせにサソリみたいな毒針を尻から伸ばしてるなんて……!!


 猛烈な熱さを感じて、俺は血を吐く。

 一気に出血した事で気が遠くなった。

 じわじわと地面に、俺の大事な血液が散らばっていくのを感じる。


 そうだ、死はいつだって……すぐそこにある。

 かっこよくなんか死ねないんだ。

 わかってたのに……、もうループはないんだって……。


 

 

 あ~あ……、なんで俺。

 あの百鬼夜行を生き延びたのに、また死ぬような事してんの……?



 

 奈津美……ごめん……


 ウィンキサンダ……俺も地獄へ……。

 

 


 俺を更に突き刺そうと、クインデスパイヤの針の先が俺に向かってくるのが見えた。

 


「祭ぃいいいいいいいいいいいいい!!」


 

 男の声が聞こえる。

 俺……名前を教えたっけ?


 

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