第2話 「白粉花 キブシ」


立ち上がろうと苦戦してる人を前に思考を巡らせていたが、人より聴覚が優れてる私の耳に2人分の足音が聞こえてきた。

この足音の持ち主達がこの状況を作り出してる犯人だと直感が働く。


どう声をかけようとか、腕の傷に触れないようにしなきゃとか色々考えが巡ったが今はそんなことを気にしてる暇がない。


無言で行動を起こすことは申し訳ないけど、状況が状況だから文句は後から聞こう…


そうと決めたら迷ってる暇はない


「なにを…」


座り込んでる人の前に行き、一旦自分のリュックを下に降ろして傾いてる身体を支えてやり背中に乗せる。

自分と相手の鞄を持ち直したところでハッキリと足音が聞こえてきた。


誰だか知らないが、この人は絶対渡してやるもんか


なるべく振動を与えないように注意しながら早足で歩みを進め始めると、背中の重みが少しずつ増す。


きっと気絶したんだ…早くしなきゃ


いかに人目に付かずスムーズに隠れられるところに行くかが一番重要なので、誰も人がいないのを確認して異能を使う。

すると、足元の影がゆらりと動き広がった。

そこへ足を踏み入れると、とぷんっと沈み闇の中へ身を沈めてその場を離れる。



数分ほど闇の中を歩いて移動してると、出口にたどり着きするりと影から身を出す。


ここはどこだと辺りを見渡すと、廃工場のような場所だった。

ちらりと目線を動かして見た外は人の気配などは無いようだ。


背負ってる人を寝かせられる場所を探し中を歩いてると、休憩室のような部屋を見つけた。

中にあった簡易ベッドに寝かせて顔色を窺う。

顔色は青白いが息はしてるし、脈もある。

ケガをしてるであろう腕は服をまくって確認してみると、ぱっくり切られた傷口があったが血はほとんど止まってた。


縫う道具は持ってないけど、傷を塞いであげることはできるかな…


異能を使用し使役してる異形の者の力を借りる。

その代償として左手の爪が三枚剝がされて持ってかれた。


右手を傷口にかざしてゆっくり左から右へ動かすと、そこに傷はもうない。



ずっと傍にいたい気持ちはあるけど追われてる身としては相手が居場所を突き止めてくるかもしれないということも頭に入れておかないといけないのだ。


少し、周りを見ないといけないかな…


この場所はさっきの神社から少し離れてはいるけど、そこまでの距離ではないので来ようと思えば来れる距離だし、人気の少ない所は全て探すだろう。


殺す気でいる相手ならば確実にここに辿り着くはず。


建物から出て周囲を警戒しながらぐるりと一周していくと人の気配がした。

木の影にするりと同化し様子を伺う。


男二人組で何かを探してるようで周りをキョロキョロしながら歩いている。

廃墟探検や心霊スポット巡りをしに来たのかとも思ったが、あまりにも殺伐とした雰囲気なのでこの二人が当たりだろう。

中の様子を伺っているので、このままではきっと中に入ってきてしまうのは時間の問題だ。


二対一ではあまりにも不利だし、なにより相手の情報が無さすぎるから時間があるうちに逃げた方が安全だよね。


来た道をすぐ引き返し部屋へ戻る。

静かにドアを開けると建付けが悪いのか、キィーっと音を立てて開く。

外のこともあるので極力音は立てないように静かに中へ入ろうとした時、ベッドで寝てたはずの人が目覚めており目が合った。


えっ…え?

起きてるよ。目が覚めてるとは思わなかった…え?

なんて声をかけるべき?


何も考えずのいたので、いざ目が合うと頭の中は真っ白。

パニくりつつもケガしてたことを思い出し、異常はないかと上から下まで見るが大丈夫そう。


何か言わなきゃ…何か言わなきゃ…


何を言えばいいんだと思考を巡らせて、行きついた結果は体調が心配。


『…血は…止まった…?』

「え?」


そう言われてようやく思い出したかのように自分の腕を見た。


「止まってる」

『(貧血みたいだけど)…気分は?』

「特にない、けど」

『そう…』


さっきより顔色も良いし、受け答えもできてる。


これなら自分で歩けそうだし、早めに外へ出るとしようと決める。


『か…カバンは、そこ。…それだけ』


異能を使うために扉を閉めてから早歩きで進むと、慌てたように扉が開いた。


外に出て曲がり角を曲がったところで力を使い一本道を出し自分は普通の道へ。

あの人から見れば角を曲がってすぐに消えたように見えていることだろう。

道の先は一般道まで繋げてあるからあいつらに見つかる可能性も少ないし、きっと大丈夫。


もっと一緒にいたかったな…


いつの間にか日は真上まで登り切っていて、時間を見れば午後一時を超えていた。

また会えるかもしれないし、もう二度と会えないかもしれない。


そんな思いを抱えながら少し色づいた景色を見ながらその日は帰路についた。


*不思議な出会い*




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