第6話 初めての、交際

「私千歳は、恵一君のことが好きです。私と、付き合ってください」


 そう言って、丁寧にお辞儀をした。覚悟はしていたが、やはり面々と向かって言われると身構えてしまう。


 初めての体験に、どう返していいかわからない。


「でも、俺恋愛経験とかないし──」


「素振りとか見てればわかるわ。たまに自信なさげになって、あたふたするところとか──」


「うぅ……ごめん」


 ズキッと心が痛む。仕方がないだろ……異性と接するのに慣れていないんだから。

 つい考えちゃうんだよな……。こうしたら嫌われちゃうんじゃないかな──とか、変に思われちゃうんじゃないかな──とか。


「でも、それだけ異性のことを意識しているってことよ。私は──そんなあなたのことが大好きなの」


 そう言って、千歳はにこっと微笑む。ほほ笑んだ表情は、美しく太陽のようにまぶしい。

 俺のことを、心の底から好きでいてくれているのがわかる。


 そんな想いを持っている千歳を、裏切る気持ちになんてなれなかった。

 ちゃんと尽くせるかどうかわからないけれど、精一杯のことをしよう。


「わかった。そこまで言うなら、俺も千歳のために尽くすよ」


「あ、ありがとう。そう言ってくれて、本当にうれしいわ。多分今までの人生で一番幸せよ」


「これから、こんな俺だけどよろしくね」


「大丈夫よ。こっちは、恵一君と一緒にいるだけでとっても幸せだから」


 こうして俺は、千歳と付き合うこととなった。


 大丈夫かな? 果たして千歳を幸せにできるのだろうか──。先が思いやられるというか、頭が痛くなる。それでも、俺のことを好きって言ってくれて、本当にうれしかった。

 恋愛経験がない俺にとって、初めての経験になる。


 うまくいくかわからないが、全力を尽くしていきたい。


 そう考えていると、背中にやわらかい感覚を感じ始める。マシュマロのようにむにゃッとした感覚が2つ。


 なんだろうかと一瞬考え、一つの答えを思い浮かべる。


 まさかと思い後ろを振り向くと──。

「わあ~~ありがと。これで私たち恋人同士ね。これからはFカップあるおっぱい、二人っきりの時なら触りたい放題でいいからね~~」


 思わず、ごくりと息を飲む。なんと胸を俺の背中に当ててきたのだ。俺を欲情させまいといわんばかりに、背中に当てたおっぱいをゆさゆさと揺らしてくる。


「待て、人前でこんな──」


「人前じゃなかったらいいの?」


 まるで俺を発情させて、間違いを起させようとしてるみたいだ。


 ──だめだ。付き合ったばかりなのにそんな性欲を満たすことばかり考えていては──。


 急いでミルクティーを全部飲んで、トレーをもって立ち上がった。


「お盆片付けてくる」


 早足で、いったんこの場を去る。そうでもしないと、理性が持たない。

 出口にあるトレー置き場に行き、コップを捨ててトレーを片付ける。それから自分の席に戻ると、千歳も残りのアイスココアを飲み干して、トレーを片付けに行った。


 一人の時間になり、ほっとして大きく息を吐いた後考える。これから、こういった誘惑にかられる場面が続出するのだろうか。


 ……気が重くなる。本当に大丈夫なのかな?



 それから、千歳が戻ってきた。鞄を肩にかけた後、すっと手を出してくる。そして、クイクイッと何かを要求してきた。

 何を意味しているのか分からず困惑していると、千歳はやれやれとため息をついた。


「もう……手をつないで帰ろうってこと。もう付き合ってるんだから、これくらいあたりまえでしょ」


 不満そうにジト目で言われて、初めて気が付いた。そうだ、交際してるんならそれくらい当たり前だ。


 すぐに右手を差し出すと、千歳はすぐさま両手で俺の手を握ってくる。互いの指を絡み合う、恋人繋ぎ。


「隼人君の手、あったか~い」


 ぎゅっと千歳が握る手に力を入れてきたので、こっちも軽く握り返す。

 柔らかくて、冷たい小さな手。


 握っているだけで、心地よくなってくる感触。もっと、隣にいてつないでいたいという気持ちになれる。


 ふと視線が合うと、千歳は優しくはにかんでくる。太陽のようにまぶしく、気品さとかわいさを感じさせる表情。


 でも、人前で必要以上にいちゃつくのはやはり気が引けてしまう。


 そして、駅のホームから電車の中へ。

 俺と千歳は、最寄り駅が一駅違い。


 先に千歳の最寄り駅へたどり着いて、別れとなる。駅が近づいて電車がブレーキをかけ始めたあたりで、別れのあいさつ。


「じゃあね千歳。また明日」


「そうね恵一君。今日はありがとう。これから、恵一君に精一杯尽くしていくから、よろしくね。あなたが望めば、体でもなんでもすぐに差し出すわ」


「──いきなりそんなこと、絶対にしないから」


 駅に到着して、扉が開く。周囲の人がちらほら降りると、千歳は俺のほほに顔を近づけ──。


 チュッ。

 優しくキスをしてきた。やわらかい唇の感触がほほを包む。


 そして、すぐに俺の正面に立つ。両手を後ろにおいて、満面の笑みを浮かべていった。


「ありがとう恵一君。これから、よろしくね」


「うん、よろしくね」


 そして千歳は電車を降りる。ドアが閉まって、電車が駅を発車。窓の向こうにはニコニコと手を振る、千歳の姿。


 電車に揺られながら、生まれた初めての体験にただ考えていた。

 こうして俺は、千歳と交際をすることになった。生まれて初めての、異性との交際。


 まだ、彼女ができたという事実に現実感がない。夢を見ているときのように体がどこかふわふわとした気分だ。


 果たして、千歳を幸せにできるのだろうか、うまくやっていけるのだろうか──心配になってしまう。


 いや──。


 軽く首を横に振って、決意を固める。

 せっかく恋愛経験のない俺を好きになってくれたんだ。大切にしなきゃ。


 精一杯、頑張ろう。


 ☆   ☆   ☆


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