第21話

 サンタクロース研究会が九条院のお友達作りに協力することになった翌日から、早速九条院本人を交えての作戦会議が行われている。


「それで、どうだったのよ。」


 そう問い詰める九条院に俺は端的に感想を伝える。


「一言で言うと、怖い。」

「はぁ!?」

「ほらそれも怖い。」


 九条院は俺を睨みつける。だからそういう目つきが怖いって。


「これを毎日やってるとしたら九条院、お前は鏡を見たことがないのか?ってレベルだぞ。」

「もういい、こいつ取りあえずシメる。あたしの笑顔のどこが怖いっていうのよっ!」

「まあまあ九条院さん、落ち着いて。」


 拳をすでに振り上げている九条院を幸が宥める。本当のことを言っただけでなんでここまでキレられないといけないのか。

 今日の作戦会議のテーマは九条院の表情についてだ。ノエル曰く人間は表情から様々な情報を得ているとのこと。つまり、九条院が絡みやすい雰囲気を纏っていれば問題はないわけだ。

 したがって、今日一日同じクラスの俺が九条院の教室での表情や仕草を観察していたのだった。


――「クラスで笑顔で座ってても誰も話しかけてくれない。」


 彼女は確かにそう言っていた。それを果たして実行しているのかをチェックするためでもあったのだが…。

 確かに彼女は笑っていた。間違いなく。しかし俺が目撃したのはおおよそ笑顔というものとはかけ離れたものだった。無理に頬を釣り上げて口元は不自然、そして何よりも目が笑っていない。そんな状態を誰が笑顔と認めてくれようか。そんな顔で見つめられたら今夜にでも呪われてしまうんじゃないかと丸一日心配になってしまうレベルである。


「お前さ、目が笑ってないんだよ。そんな顔するんだったら真顔の方が全然ましだぞ。」

「な、失礼よ!あたしはこれでもちゃんと笑っているつもりなんだけど!あんただって普段から変な顔してるのによく言うわよ!」

「だからこれが真顔なんですけど…。」


 どいつもこいつも俺の顔嫌いすぎでしょ。そんなこんなで押し問答を続けていると、ノエルがピシッと手を挙げる。


「はい、ノエル。」

「そもそも、普段からニコニコする必要ってあるんでしょうか?」

「……。いや、あんまりないかも。」


 そうだよ、普段からニコニコしてる奴なんてそうそう見かけない。だったら違うアプローチを目指すべきだ。

 すると、今までは黙っていた部長がパンパンと手を叩く。


「真白の言う通り、表情は不自然に笑うのを止めるとして、お目当てのグループにどう入っていくかじゃないか?」

「そうですね。確か安田と三ツ石のグループに入りたいんだったな。」

「ええそうよ!あそこら辺の子たちみんなキラキラしてて、いかにも女子高生って感じなのよねぇー。」


 キラキラと九条院は瞳を輝かせる。今日一日、九条院の監視ついでに安田、三ツ石グループにも意識を向けておいた。間違いなく彼女たちがクラスのカーストトップに君臨すると言っていいだろう。

 あのグループは全員が派手な恰好をしており、男子たちと一緒に休み時間は談笑にふけっている。いわゆるリア充グループだ。次いで咲良の女子グループがカースト二位と言ったところで、俺はいわゆる最底辺のぼっち、ノエルはどのグループにも可愛がられるマスコット的な存在になっている。


「言っておくがあのグループはかなりリア充度が高いぞ。男も一緒にいるし。今からでも咲良のほうのグループにしたほうがいいんじゃないか?」

「いいや、変えないわ。一番難しいグループに頑張って入る。そのぐらいじゃないと前に進んだことにはならない。」


 俺の忠告を九条院は一蹴する。それほどまでに決意は固いようだ。


「じゃあそのグループに挑むとして、どうやってグループに入るかだな。」

「話しかけるしかないんじゃないの?」

「まぁ幸の言う通り、話しかけるしかないな…。」


 話しかける以外でお友達になる方法があったら是非教えてほしいものだ。連絡先は下のメールアドレスまでー。


「何言ってるんだ君たちは、もっと簡単な方法があるじゃないか。」


 部長が首を傾げながらそう言う。え、ホント?やっぱ部長はすごいな。


「名執、お前今から食パン買ってこい。」


 はい?俺今パシられてる?

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