第9話

「ただいまー。」


 施設に立ち寄った後、日が傾き始めたころに自宅のボロアパートに帰ってきた。


「おかえりなさい!」


 昨日までは何も返ってこないため切り捨てていた挨拶ができる。不本意だがこのやり取りが俺は嫌いじゃない。


「ちゃんと留守番できてたかって…なにこれ…?」


 部屋にはなぜか洋服が散乱しており、朝出ていった時よりも混沌とした部屋になっている。


「なにごと?」

「えーとその…掃除をしようと、思いましてー。」

「掃除って言葉知ってる?」

「知ってますって!」


 知っていたら何故掃除をしてより汚くなっているのだろう。


「その…魔法でどうにかしようとしたら、上手くいかなくて、ですね…。」

「お前は新米魔法使いか。」


 てへぺろっとするノエルにイラっとする。本当に追い出してやろうか。


「てか今までどうやって生活してたんだよ。」


 この生活力の低さだと一人暮らしなんてもっての他、誰かに頼らないと生きていけないだろう。


「今まではその、小人さんにお世話になってまして。」

「小人?」


 聞きなれない単語。友達みたいなものか?面倒見のいい奴もいるものだ。


「小人というのはサンタクロースを補助するサポート役みたいな人です。皆さんとても優しい良い人たちです!」

「そんな奴らもいるんだな。小間使いみたいなものか。」

「当たらずしも遠からずって感じですかね。小人さんたちは普段は一般人と同じように生活しているので意外とそこら辺にいるものですよ。」

「そうなのか。で、その小人とやらに追い出されたと。」

「べ、別に追い出されてないですっ!お世話するのが面倒なので独り立ちしてくださいなんて言われてないです!」


 言われてたな。これは絶対。


「そう言えば帰りに、昨日プレゼント配った施設見に行ったぞ。」

「え、界人ってもしかしてそういう趣味なんですか…。」


 すいっと身体を手で覆ってドン引きしている。


「いや違うって。ただちょっとあの後どうなったか気になって。」

「幼女の生態に興味があるということですか。」

「プレゼントだよっ!」


 危ない危ない。うっかり同居二日目の少女にロリコン扱いされるところだった。


「その、喜んでたぞ。子供たち。サンタさんありがとうって。」


 施設の様子をありのまま伝える。少なくとも先ほどあった女の子はサンタさんに感謝している様子だった。


「そうですか、それなら良かったです。サンタさん冥利に尽きますね。」


 爽やかに笑う彼女はポッと胸をなでおろす。やはり子供たちが喜んでくれているのが嬉しかったのだろう。


「だからまぁ、お前のことをサンタクロースって認めてやってもいいかなって思ってな。昨日のアレに関しては間違いなく良いことをしてたし。」

「それはありがたいです。でも、私はたとえ界人に認めてもらえなくてもサンタさんとして皆に笑顔を届けたいと思ってますよ。それが私の仕事ですから。」

「…そうか。」


 優しい口調で強い決意を語るノエルに若干見とれてしまう。初めてかもしれない。彼女をカッコいいなと感じたのは。

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