【完結】胸クソ彼氏で初恋を喪失した超ピュアな幼なじみを抱きしめたら、俺にデッレデレになりました。~クソ彼を差し置いて、幼なじみが今さら男女としてドキドキし始めた件~

夢々ぴろと

【1章】傷心の幼なじみ

1.幼なじみに初彼氏ができた

「聞いてよみっちー! 私……私ね、ついに初彼氏ができましたぁ!」


 少し気恥ずかしそうに、けれど幸せそうに手を小刻みに鳴らす女の子。

 羽井田沙那はねいださな


 俺――市川道貴いちかわみちたかの気の置けない幼なじみ。幼稚園から中学校までずっと一緒に過ごしてきた。


「マジか……! とうとう沙那にも春がきたのか!」

「うんっ! はーるがきーたーはーるがきーた♪ にーきたー♪」


 全力でアレンジ童謡を歌う沙那は、ふわっとした癒し系で小動物みたい。かあいい。


「俺には恋人なんて夢のまた夢だよ」

「な~んだ、相変わらずだねぇ~。めっちゃやさしいのにね!」

「うっせえマジでうっせえ」


 イタいところを突かれすぎてナチュラルAdoが出た。

 俺ら二人とも、そういう色恋沙汰とは縁がなかったのになぁ。かんっぜんに抜け駆け。マラソン大会で「一緒に走ろ~」って言ってきたやつが自分を放っていったみたいな感じだな。


「でも、みっちーはずうっと私から離れなくてもいいんだよ~♡」

「せんせー。誰かの女になった人がなんか言ってまーす」


 小さな顔に栗色のボブが映える。幼なじみでずっと見てきたのに、今でもちゃんと新鮮なほど可愛い。学年でもワンツーを争うレベル。

 こんなに仲良くなれたのは、たまたま幼なじみだったからでしかない。


「あくまでお友だちとしてってことだからねっ! そういうノリで、みっちーのことがすき! だいすきっ!」

「彼氏怒るぞ……?」

「いやいや! 何も気にせずじゆーでいさせてくれるみっちーは、かけがえのないお友達だもん!」


 そう、こんなに心を開いてくれるぐらいには。

 昔からウブで照れ屋ではあるが、俺には何も気にせずガンガンわがままを言ってくる。ま、変な気を遣われるより気楽でいいんだけど。


「でも絶対これから彼氏に夢中になるだろ?」

「すでにメッロメロのキュンキュンですが⁈」

「……じゃあいくら昔から仲がよかろうが、男の俺は徐々にフェードアウトだよ」

「あれあれあれ~? もしかして……妬いちゃってるんですかぁ~……?」

「なわけ」


 正直、自分のことみたいに嬉しいよ。めちゃめちゃ本心。(自分もはよ彼女をつくれというツッコミは受け付けないぜ?)


「高校に入ってからは彼氏が欲しいってずっと言ってたもんなぁ」

「そうっ! とうとう私の甘えたがりさんがかくせーしましたっ!」

「沙那みたいな子がその気になれば、男子なんてイチコロってわけか」

「ちょっとぉ~! からかわないでよぉ~!」

「いや、マジ。大マジだって」

「そっかぁ~。えへへ、なんか照れちゃうね」


 ちょっと性格がピュアすぎたり、そもそも中学校は女友達とばかり遊んでいたのだが……高校に入って半年が経ったこのタイミングでの初彼氏。


 沙那は幼稚園からの付き合いで、もはや空気のような友達。だから嫉妬とか喪失感はない。

 そもそも別の高校に進学してからは、前ほど会わなくなったしな。

 

「え、告られたの? それとも沙那から?」


 というわけで興味津々。根掘り葉掘り聞いてやろう。


「お、いい質問ですねぇ~~!」

「ラブ上彰がみあきらですか?」

「これは聞いて驚け見て笑え、そこのけそこのけお馬が通る……だよっ!」

「なんで後半に馬走らせたんだよ。俺がビックリすんのね?」


 ぽわぽわしている沙那は非常に天然でボケもかましてくる。でもまあ慣れたもんよ。


「告られちゃったんです。なんと……3年生の先輩からっ」

「おぉ」

「しかも塩顔イケメンでサッカー部のエース!」

「おおぉ!」

「おまけに特進コースだから勉強もできるの! 有名私大に推薦が決まったんだってさぁ~」

「おおおぉ……っ!」

「全然恋愛とかに慣れてない私を、めっちゃしっかり引っ張ってくれるんだ~。頼りがいがスゴいんだよ~!」


 おい、超絶優良物件じゃねーか。駅チカ・風呂トイレ別・ペットOKの賃貸ばりに。

 さっすが沙那。誇れる幼なじみ。いざ恋愛に取り組むと、このハイスペをツモっちゃうんだもんなー。


「しょーじき私にはもったいないぐらいの男の子で……。あぁ、ほんとだーいすき……。早く頭よちよちしてもらいたいよぉ……♡」


 自分の体を自分で抱きながら沙那。これは相当入れ込んでますね。


「沙那……」

「どしたの~。急に手なんか握って」

「ほんっとにおめでとう……。彼氏さん、大切にするんだぞ……」

「え、あははっ。……ありがと。さっすがみっちー、優しいね」

「そりゃ応援するよ。沙那には幸せになって欲しいもん」


 性格の良さには自信ニキなんだ。これが異性として好きだった女の子とかなら今晩は枕ずぶ濡れ洪水警報発令なんだが、沙那だけは心の底から応援したい。


「ほんとに? さびしくなぁい?」

「……ざ、ざびじぃ~。ないちゃう~」

「あはっ、絶対おもってな~い!」

「……俺がめっちゃ拗ねたらキモいだろ」

「でも!! みっちーだって、きっと可愛くてえっちぃな彼女さんができるよ!  幼なじみの私が保証しますっ!」


 俺のストライクゾーンが微妙に歪んで捉えられてるな? 誤審。球審にもVAR導入はよ。

 なんて思っていたら、沙那が小さくてかわいらしい小指を差し出してきた。




「2人とも、ぜったいぜーったいしあわせになろうね! やくそくだよっ!!」




 沙那が彼氏さんとどれだけ進展したとしても……俺らもこのまま仲良くい続けられるといいな。


「……うん。約束」

「破ったら、針1億本のーますっ!! 覚悟しててよねっ!!!」

「おいオーバーキルすんな」


 ……なんて思っていたが。このときの俺たちは知らなかったんだ。


 沙那の幸せが、今だけのかりそめのものだということを。


 ――年上彼氏が、こんなにもピュアな沙那を穢して、のほほんとした笑顔を曇らせる胸クソ男だったということを。



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 カクコン8挑戦中です。

 沙那と道貴の関係にちょっとでもドキッとした、2人を応援したいという方は☆×3やレビューいただけると嬉しいです!


 これから毎日よろしくお願いします!

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