ACT.14 キャノンボール終結

あらすじ

 トップを争う2台は大沼に入った。

 途中でオオサキは谷に先行を許してしまう。

 逆転しようとしたオオサキだったのだが、技の発動に失敗してしまう

 S15が前を走ったまま、大沼を抜けてキャノンボールの最終局面に入る!



 上り坂となっている、2連ヘアピンに入る。

 ここは2台とも、ドリフトで通過する。

 パワーを必要としている区間だったこともあり、満足に距離を縮めることはできなかった。


 

 直線を抜けると、また2連ヘアピンが来る。

 さっきと同じく、ドリフトで通過した。



「もう後がない! あの技を発動させる!」



 S字からの左ヘアピンに入る。

 前者を抜けた辺りで、銀色のオーラを纏いながら、クルマの操舵を曲げないゼロカウンタードリフトを発生させる!



「小山田疾風流<スティール・ブレイド>!」



 S15を追いかける!

 前に出られるか!



「イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケェー!」


 

 高速ゼロカウンタードリフトで距離を縮めることに成功はした。

 しかし、S15の前に出ることは出来なかった。



「中々ん走り屋じゃった。じゃが、まだまだブッサイクじゃのう」



 このまま前に出ることはなく、ゼロカウンターで縮めた距離はS15のパワーで引き離されてしまう。



 そして……。



「ゴォール! 谷選手のS15がトップのまま見事完走致しました! 続いて、赤城最速のオオサキ選手が乗るワンエイティも2位で完走! 中々の走りでしたが、惜しかったです!」



 前に出ることはできず、おれのキャノンボールは準優勝で終わった。

 S15から彼女が降りてきて、挨拶してくる。



「さすが雨原に勝つほどの走り屋じゃ。じゃが、雨の走りではまだまだブッサイクじゃのう」


 

 悔しかった……そんなことを言われて。

 もっと鍛えないとダメなのか……。

 必ず見返してやろう!

 智姉さん以外の人に負けるなんてはじめてだ……。



 駐車場。

 おれの敗北を見て、DUSTWAYの4人は悔しがっていた。



「糞(シット)! ガラ姉に勝ったから、負けるんじゃあねーと言ったくせに!」



 ヒマワリとのバーベキューでの約束を破ってしまった。

 申し訳ない。



「あたしに勝てたのに、谷には勝てなかったのか……雨がネックだったか」



「上には上がいるな……」



「相手は雨での運転が上手だったね」



 雨さえ降らなければおれは勝てたかもしれない。

 いや、それ以前に相手の運転技術が高いのもある。

 もっと鍛えないと……。



 1時間半もすると最下位のクルマもゴールした。

 これで長かったキャノンボールは終わりだ。

 はじめ赤かった天(そら)は暗い雨雲に包まれている。



 順位

 1位:谷輝(S15)

 2位:大崎翔子(RPS13)

 3位:毛利スグル(ND5RC)

 4位:和倉千路(JR120)

 5位:京橋天満(EK4)

 etc……


 以下はリタイア

 森川恒夫(EF8)

 永島愛枝(EF9)

 彩依里あきら(CY15B)

 重信杏里(SA124A)

 和倉奈々央(JR120)

 etc……..。



 完走したおれたちは駐車場へ移動し、取材を受ける。

 プロ野球でいう、ヒーローインタビューだ。

 視聴者に伝わるため、恥ずかしくないようにしないと



 まずは谷からだ。



「もうちょっとで負けるところじゃったが、恵みの雨に助けられて優勝できました」



 次がおれだ。

 悔しさを吐き出すつもりで受けた。



「2位で悔しいです。もうちょっとで勝てたのに……雨が降らなければ、そして自分に腕があったら……今回の敗北は自分の実力不足です」



 おれの無念さ、皆に伝わるといいな……。



 谷、毛利と共に表彰台へ上がる。

 谷には金、おれには銀、毛利には銅のトロフィーが送られた。

 さらには副賞として賞金まで貰った。



 次の大会ではトロフィーの色を変えないと……。



 ここに智姉さんらが来る。



「お疲れ。惜しかったな……相手は雨でのドライビングが上手だった。それが課題だな……練習しよう」



「智姉さん……」



 その言葉でおれは泣きそうになった。



「お疲れ、惜しかったな」



「もう少しで勝てましたね……」



「けど、2位も名誉ですよ」



 六荒、桃代さん、薫ちゃんも労う。

 準優勝も好成績だと思うけど、おれには悔しい順位だ。

 今度こそ谷に勝ちたい。

 それまで腕を上げないと。



 C4を載せたトラックは赤城山頂上の駐車場で停止する。

 そのクルマの運転手にワシはこんなことを頼んだ。



「こんクルマ、ブルーフレアへ届けてくださりまっせ」



 トラックはここを後にした。

 降りてすぐ、おやっさんがいた。

 彼の肌は全身赤くなっていた。

 怒り心頭かも?

 ワシと目を合わせると、すぐ一喝してきた。



「あきらのアホゥ!」



「ひぃ!?」



「なんでC4をエンジンブローさせんねん! お前がC4のエンジンを殺したんやぞ!」



 その言葉を聞くと、頭が真っ白になった。

 ワシなんか、悪いことしたん?

 クルマを殺したから、怒るのも仕方ないか。



「すんません……」



「ブルーフレアに帰ったら、C4のエンジンを見たるわ」



 取りあえず、おやっさんと共にブルーフレアに戻ってくる。

 どんな雷が落ちるか覚悟をしていた。

 体が震えてくる。



 C4のエンジンを見ていた。

 すると、ブローの原因が発覚する。



「ヘッドガスが2発も吹き抜けとる。ちゃんとメンテナンスしたんか?」



「してはりません」



「ブレーキのエア抜きは? ラジエーターキャップの点検は? オイル交換は? タイヤの空気圧チェックは? ホイールの増し締めは? アライメントは?」



「どれもしとらんとです」



「アホゥ!! お前はブラック企業ならぬブラック運転手か!? お前がどれも手を抜いとるせいでクルマが過労死しとるやないか! これでロータスチューンのV8が死んでもた……お前のせいでな!」



「すんません……」


 

 ワシの不甲斐なさのせいでC4を殺してしまった。

 申し訳ない気分だ。

 せっかくおやっさんから誕生日記念に貰ったクルマなのに……。


 

「潰すか直すどっちか、決めェ」



「な、直します」



「直そうとしたら、別のクルマのエンジンを積むけどええ? それとお前の借金がさらに増える……ええか?」



「それでも構わんです」



「ったく、ロールスに追突されて作った莫大な借金がさらに増えたわ……」



 これでC4が甦る。

 嬉しいと同時に借金が増えるという罪悪感も感じた。



 ここで説明しよう。

 ワシには借金が出来たのは、数ヵ月前、C4に乗りたてだった頃だ。



 学校の帰り道で黄緑と緑のツートンのロールス・ロイス・レイスにリアフェンダーを追突されるという事故を起こした。

 幸い自分には怪我はなく、C4にはリアフェンダーの凹ませたぐらいの傷を負い、それはおやっさんによって修復された。

 しかし、日本の保険は加害者が高級車であっても、互いが修理費を請求するようなシステムになっている。

 しかも、相手はクルマは高価だったため、修理費は莫大だった。

 ぶつけた側は裕福だったため払ってくれたものの、ワシの方は金がなかったために払えず、莫大な借金を背負うことになった。

 その数は500万円を越える。



 この話はオオサキさんらは知らないだろう。



 場面は戻って、C4を修理に出したワシにおやっさんからさらなる提案が来る。



「あきら、代車は用意したる」



「本当どすか!?」



「たーだーし、C4とは正反対のクルマや。FFやしな」



 ガレージの外に、暗闇に包まれて見づらいが、1台の緑のクルマがあった。

 ボディはハッチバックで、ヘッドライトはリトラクタブルとなっていた。

 メーカーはホンダ、日本車だ。



「そのクルマはアコードエアロデッキや。C4が直るまでこのクルマに乗って貰うで。正反対のクルマに乗るのも勉強になるやろ?」



「はい」



「代車やからぶつけたらアカンで」



 おやっさんが用意したエアロデッキに乗り込み、ワシはマンションへ帰っていく。

 C4が修理中の今、これがしばらくの相棒だ。

 そこに停車すると、自分の部屋に入る。


 

 そこはちらかっており、ゴミが散乱している。

 その山を通りながら、冷蔵庫を開ける。


 

 コンビニで買ったにぎり寿司が入っていた。

 口に入れていく。



「上手いわ~」



 クルマはブローさせる最低な行為をしたけど、寿司の味は最高だ。

 色々やった後に食べる晩御飯は格別だ。




 赤城山の頂上。

 おれのワンエイティを眺めていた謎の男がいた。

 不機嫌そうな顔をする。



「ったく、最悪なデザインね。優勝者のクルマもなんとも言えないけど……」



 おれには聞こえなかったが、傷つく言い方だった。

 デザインにうるさい人なのかな?



 だが、その男と後で関わることになる……。

 彼もかーなーり有名人だと知ってしまう。

 


 そして逆転に失敗した理由が翌日、明らかになる!

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