ACT.11 キャノンボール終盤

 あらすじ

<スピリット・オブ・ウインド>を習得し、加速を上げる手段を得たオオサキ。

毛利のND5RCに追い付き、縮めたり、離されたりする、激しい攻防戦を繰り広げる。

しかし前に出ることは出来ず、"ある手段"があれば追い抜けるはずだと考えるようになる。



 安中バイパスに入った途端、ND5RCに付いてある通信機から、チームメイトの音声が鳴る。

 内容はガソリンのことだった。



「毛利さん、ガソリンは大丈夫ですか?」



「残り少なくなっとる」



「補給したらええですよ」



「けど、そないことしたら……ワンエイティに抜かれるぞ」



「後で逆転できると思いますよ」



 通信を切ったワシは焦った。

 ガソリンを入れるか、トップを守るかという2択を迫られた。

 


「どうしたらええんじゃ」



 おれも遅れて安中バイパスに入る。



 ここから高速区間が続くため、ND5RCに離されていく。



 しばらくすると、S字ヘアピンに遭遇する。


 

 そこの後半辺りで、萌葱色のオーラを纏う。



「小山田疾風流<スピリット・オブ・ウインド>!」



 対向車線に出そうなほど、インを付いていく。

 その技は加速だけでなく、最高速度まで上昇させ、ワンエイティは300km/hを越える速度で走行する!



「イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケー!」



 君が代橋を抜けると、高速区間が終わる。

 左ヘアピンに入り、また<スピリット・オブ・ウインド>を使う。

 そこを抜けると高崎前橋バイパスに入る。



 加速と最高速度を上げたまま、右ロングヘアピンでND5RCに接近する。

 前のクルマは白いオーラを纏った。



「このままじゃと、抜かれる! 爆裂のロータリー流<シューティング・スター>」



 ロングヘアピンを抜けて、高速S字区間。

 おれに抜かれないように、ND5RCは降ってくる星の如く超加速する!



「まだまだ抜かせないとは……」



 高速区間が続く中、<スピリット・オブ・ウインド>の効果が切れて速度が遅くなった。

 ND5RCとの距離が離れていく。

 コーナーらしい区間もない。



 絶体絶命だ!



 その時、おれのワンエイティに萌葱色と白のオーラが包み込む。



「能力が発動した!?」



 いよいよ来たようだ。



<スピリット・オブ・ウインド>を使った時以上にパワーアップした速さでND5RCを追いかける。



「あの時みたいな姿になったか。じゃが、トップは渡さんぞ」



 NHK前の右ロングヘアピン。

 ここは両者ともに技を使わず、抜けていく。



 そこを抜けると、前橋大橋に入った。



 おれはこんなことを考えていた。



「次の曲線で仕掛けようか」



 いよいよ追い抜きの体制に出ることにする。



「絶対に抜かさんぞォ! ガソリンがなくなる前に、先にゴールしたいところじゃ!」



 直進部分と右側が封鎖されて左コーナーとなった表町一丁目の交差点に入る。



 ND5RCは無色透明ののオーラ、ワンエイティは萌葱色のオーラを纏う。



「<ハヤテ打ち>!」



「<スピリット・オブ・ウインド>!」



 高速グリップ走行同士がぶつかり合う。



「イケイケイケイケイケイケイケイケェー!」



 かつての柳田戦終盤の時同様、<スピリット・オブ・ウインド>はドリフトでもグリップでもない走りを始めた。

 


 その走りをするワンエイティは歩道に乗り上げそうなほど内側を攻め、ND5RCの前へ出た。



「おっと、ワンエイティが再びトップに躍り出た!」



「抜かれたわい……」



 

 2位となった毛利は全てを出しきった気分になった。

 あと、ガソリン計を確認する。

 


「残り少ないのう。ピットエリアに入るか」



 交差点後の直線を抜け、ND5RCは住吉町交番前のピットエリアに入る。

 そこでガソリン補給した。



 しかし毛利はこのレースにおいて、その後はトップ争いに再び来ることはなかった。




 再びトップを走るおれとワンエイティは四ツ塚原之郷前橋線を走行していた。

 コースの性格は市街地から一転、田園風景が広がる道路となっていた。



「このまま突っ走ろう」



 もう誰もリードを邪魔する者はいないと考えていた。



 しかし、後ろから更なる影が迫る!



「エンジン音が聞こえてくる!? まだクルマが来るの!?」



 直列4気筒ターボエンジン、SR20DET(※)の音だ。

 バックミラーを確認すると、青緑・黒・赤の三色の派手なカラーリングのS15型シルビアがいた。

 谷輝のクルマだ。



※SR20DET……日産の直列4気筒シングルターボエンジン。シルビアや180SX、パルサーGTI-Rなどに搭載された。当初は先代のCA18DETと比べられたものの、研究が進むにつれて、チューニング業界ではメジャーなエンジンとなった。



「そいつが雨原を倒した奴か。トップを取るとは中々やるのう。じゃが、それはワシが奪ってやる」



 後ろのクルマから逃げたいおれは黒いタイツに包まれた脚でアクセルを強く踏み、逃げようとする。

 だが、S15は速かった。



「相手の方が馬力がある!?」



「ワシのS15は500馬力を越えとる。逃げられるかのう?」



 智姉さんから通信が来る。



「前に言ったかもしれないが、オオサキ、あのS15に乗る谷輝という女は雨原のライバルだ。あとそのクルマは530馬力のパワーを持つ。離されるなよ」



 パワーが高いけど、V12クアッドターボ、VR38DETをそれぞれ搭載したピアッツァを倒したから怖いと感じない。

 

 

 絶対にトップを守って見せる!



 四ツ塚原之郷前橋線の終わりに当たる、直進部分と右側が封鎖されて左U字ヘアピンとなった交差点。



 ここで萌葱色のオーラを纏う。



「小山田疾風流<スピリット・オブ・ウインド>! イケイケイケイケイケイケイケイケー!」



 歩道に出そうなほど内側を攻めながら、太湖赤城線に突入する。

 S15を大きく引き離すも、この後は直線が続くためさっきのは水の泡に消えた。



「コーナーでは中々やるのう。じゃが直線では馬力のあるこっちが上じゃ。直線で抜くのは不本意じゃけえそっと様子を見とくか」



 赤城神社への道が続く直進区間が封鎖されて右ヘアピンとなった、Y字路。

 

 

 ここでも<スピリット・オブ・ウインド>を使って谷を引き離す.



「わしは簡単に離されはせん。<コンパクト・メテオ3>!」



 パワー全開で勢いのある立ち上がり重視のラインを取るドリフトで攻めていく。


 

「ここから裏赤城だ」



 ここは、おれが前にEF9型シビックに乗った環状族の幽霊と戦った場所だ。

 坂が急で、コーナーの数が多い。

 ただしこの出来事とは対照的に今度は上りで走る。



 パワーを必要とする上り坂のため、谷のS15との距離が縮まっていく。



 キャノンボールはいよいよ終盤だ。



 天は雲が空を覆っていた。

 天気は変わるかもしれない。



「キャノンボールは裏赤城に入ります。果たして勝利の女神が微笑むのは誰だ! 天気は雨になるかもしれません!」



 実況もバトルの様子を見守る。



TheNextLap


 


 

 



 



 



 

 




 

 





 


 



 


 

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