キャノンボール編

ACT.プロローグ 彩依里あきら

 読んでいただくための注意事項


 本作品はフィクションです。

 作品の出来事や登場人物は存在しません。

 公道での自動車レースを取り扱っていますが、実際にはその行為は違法なので絶対に真似しないでください。

 実際に運転される際は、シートベルトを締めて交通ルールを守り、安全運転でお願いします。


 赤城最速・雨原芽来夜は最速になってから負け無しの走り屋だった。

 しかし、突如現れた180SXに乗る16歳の走り屋・大崎翔子に破れ、最速の座を明け渡した。


 最速となったオオサキであるが、彼女の前の新たなる挑戦者と舞台が待ち受けている。


 弟子入りする仲間と共に……。


 2015年6月14日の日曜日

 朝7時


 群馬県Maebashi市

 アメ車専門店ブルーフレア


「行ってきます、おやっさん」


 群馬県Maebashi市赤城山麓

 和食さいとう


 今日はいつもと違い、黒い疾風Tシャツを着がえてみた。

 たまには衣装の気分転換が必要だ。

 下はいつもと同じ、白いホットパンツに黒タイツだけど


 階段を降りて1階に着く。


「おはようございます、智姉さん」


 この人は伝説の走り屋、斎藤智こと智姉さんだ。

 おれの走りの師匠であり、お姉さんで母親的な存在の方だ。

 そして……アレな関係でもある。


「おはよう、オオサキ。私は今から新聞を取りに行く」


 智姉さんが新聞を取ると、今日は変わったチラシが入っていた。

 新聞を広げると、おれはそれが気になる。


「このチラシって……」


「気になるのか?」


 チラシの中身はこれだ。


 上毛三山キャノンボールレース。

 赤城山・榛名山・妙義山の3つの山を結ぶ長距離レースだ。

 開催の際はサーキット化した峠以外にも一部公道が封鎖される。


「何だか凄そうなレースですね」


「興味あるのか?」


 このチラシを見ると、胸が高鳴ってしまう

 

 突如ピンポンと音がする。

 誰か来たようだ。

 1人の男性と2人の女性だ。


「おはようございます」


 この、青髪ショートの女性は萩野桃代さんだ。

 和食さいとうの従業員を努めている。

 元々はあるお金持ちの家でメイドをやっていたけど、会社の倒産により雇えなくなったため、ここで働くことになった。

 

「休みだけど来ちゃったよ」

 

 この、青髪を束ねた男性が美波六荒だ。

 単身赴任のレーサーだったものの、戦力外通告で和食さいとうで働くこととなった。

 智姉さんの学生時代の先輩であり、そういう関係からおれは敵視している。


「お邪魔しますで」


 この 小柄な女の子は現役女子高生の井上薫ちゃんだ。 

 元々はブラックバイトで働いていたものの、過酷過ぎてそこを辞めてここに来た。


「こないだのバトル、すごかったですね。あれは昨日の事みたいですね」


「赤城最速の走り屋が身近にいるとはな……実感が沸かないぜ」


「このままやと、赤城だけでなく日本……いや世界を制覇しはるんちゃいますか?」


「薫ちゃん、それはデカすぎると思うよ……」


 3人はチラシの方に目を向ける。


「これはなんでしょうか?」


「上毛三山キャノンボールレース……?」


「新しい挑戦なんですね?」


「これに興味があるのか?」


「参加するのか、オオサキ? 今回のレースはかなりの長距離になり、能力が発動したらこないだの雨原戦みたいに倒れるかもしれないぞ……」


 おれの答えは……。


「参加するよ……!」


「おお、赤城制覇の次は上毛三山制覇か。頑張れよ」


「長いレースになってしまうぞ……やれやれだな。今度からそのレースの舞台で練習をすることにしようか。長い練習になるけどな……」


 こうして、キャノンボールレースに参加することとなった。


「なんだか……嫌な予感がする……」


 突如、六荒が険しい顔をし始める。


「キャノンボールのことなの?」


「それじゃない。この後、ヤバいことが起きるかもしれない」


 予言らしきことはこの後起きる。


 店の外にある道路。

 1台のクルマが走っていた。


 車種は阪急電車を思わせるマルーン色のボディに縦に赤いストライブが巻かれたシボレーのC4型コルベット。

 BSM製のエアロに、グランドスポーツ純正のホイールを身に付けていた。


「今日は上手く攻めとる。このままやったるで!」


 ドライバーは全力で峠を攻めていた。

 しかし……!


「ハンドルが聞かん! このままやと……」


 ハンドルを曲げるのが速すぎたあまり、店に突っ込みそうになる。

 ドライバーは強くブレーキを踏み、停止させようとした。

 六荒たちは窓からそれを眺めていた。


「やはり起きたぞ」


「クルマがミサイルのように突っ込んできます」


「この店はどうなるんでしょうか?」


「大丈夫、オオサキが六荒の予感を聞いて駆けつけたぞ」


 この店は仕事場であると同時に家だから、衝突したら大変な事が起きる!

 気分転換に新しくイングス製のエアロにしたワンエイティだけど、それを傷つける覚悟で乗り込んでC4を止めに行く。


「ワンエイティすまないけど……え、えーい!」


 C4が、ワンエイティのサイドに接触して停止した。

 互いのクルマに軽い傷が付いたものの、両ドライバーは無事だった。

 停止し相手のクルマからドライバーが降りてくる。


 ドライバーは金髪のツインテールをした、おれと同い年か年下っぽい女の子だった。

 目はつり上がっていて赤い瞳をしている。

 体格はおれより少し大きく、服装は縦に白いストライブが巻かれた青いワンピースを着用し、下は紫のタイツを履いていた。


「すんません、すんません! あなたは……赤城最速の……」


 謝罪したC4の女の子はおれの事を知っているようだった。

 こんなに知れ渡っているのだろうか……?


 外から智姉さんらが来る。


「大丈夫か? オオサキ!?」


「大丈夫です。相手の方も大丈夫です」


「店にクルマをぶつけそうになってすんません、すんません。あと相手のクルマを傷つけてすんません!」


 彼女は智姉さんの方に向かって土下座した。


「ったく、嫌な予感を感じたぜ」


「ヒヤッとしました……」


「怖かったで……」


 この出来事で従業員の寿命が縮まったのだろう……。

 C4のドライバーも含め、一同店の中へ入る。

 彼女は自己紹介を始めた。


「ワシは彩依里あきらと申します」


「俺は美波六荒だ。ここで働いている」


「私は萩野桃代と申します。私もここで働いております」


「うちは井上薫と申します」


「おれは……」


 おれも続けようとしたけど……。


「赤城最速の大崎翔子さんでしょ? あっちは伝説の走り屋、斎藤智さんですよね?」


「やっぱおれの事を知っていたんだ。智姉さんの事も……」


「私の事まで知っていたとはな」


「あなたたちの名を知っております」


 伝説の走り屋の知名度は伊達じゃあない。


「実はワシャ、1人前の走り屋になりたいんです。まだ走り屋を始めたばかりやし……さっきみたいに店に突っ込みそうになるほどですわ……」


「なるほど……君は速くなりたいんだね」


「今からワシと勝負して、その腕を見ててつかあさい!」


「もちろんだよ。確かめてあげる!」


 こうして、あきらとバトルをすることとなった。


「やれやれだな。バトルになるとはな……ガソリンがさらにもったいないぞ」


「でも、私は楽しみですよ」


「後、関西弁っぽい喋り方やけど、そこ出身なん?」


「いや、ワシは群馬出身だす。こん喋り方になったんは西日本中心に引っ越しを繰り返した影響ばい」


「へぇ~うちと一緒やね。うちも群馬出身で、うちの方は親が京都出身であることが影響しとるで」


 おれとあきらは外へ出ると、それぞれのクルマに乗り込んでスタートラインへ並んだ。


 C4から、オレンジと黒のオーラが見える。


「あれは……」


 彼女も覚醒技超人かもしれない。

 属性は、色から土と闇だ。


大崎翔子(RPS13)


VS


彩依里あきら(CY15B)


コース:赤城山上り


「これ食わんと……」


 あきらは袋から梅干しを取り出し、それを口に入れる。

 食べることで力を入れるようだ。


 カウントは智姉さんが務める。

 智姉さんが2台の前で両手を挙げる。

 バトルを待つ2台はエンジン音を吹かす。


「それじゃあカウント始めるぞ! 5秒前、4!」


 カウントを数える度に智姉さんの指が折れていく。


「3! 2! 1! GO!!」


 数え終えると、2台が発進する。

 おれは相手の走りを後ろを走ることにした。


「どんな走りをするのか、見せてもらうよ!」


 バトルは最初の5連ヘアピンに入る。


「どりゃあああああああああああああああああああ!!」


 あきらのC4はガードレールに接触しながらコーナーを攻めていく。

 おれの方は得意のドリフトで攻めていった。


「何なの!? クルマを傷つけるようなコーナリングをしているね!」


 こんなコーナーの攻め方はありえないよ……。

 5連ヘアピンを終えて、第3高速セクションに入る。


 相手の方がパワーが上で、おれを引き離していく。


「アメ車特有のV8の加速を見せたる!」


 第3高速セクションでC4が強烈な加速を見せた後は、右ヘアピンに入る。

 ここでも、ガードレールと友達となりながら攻めていく。

 サクラゾーンに突入する。


 この後の2連ヘアピンでも、同じ走りで攻めていった。


「ガードレールに接触しながら走るとは……」


 そんな走りをするC4に呆れた。

 高速S字からの右U字ヘアピンを通り、もう1度来るS字を抜けてナイフの形をした左ヘアピンを抜けるとジグザグゾーンに入る。


 C4はトルクのある大排気量車らしく直線では速いものの、コーナーではガードレールを擦りながら走っていくから非常に遅い。

 これがあきらの実力か……。


「ホントまだまだだね……」


 さすが初心者と言ったところ……。

 次のジグザグゾーンも岩壁やガードレールにクルマをぶつけながら攻めていく。

 クルマがかわいそうだよ……。


 しかし、第2高速セクションに入ると大排気量V8のパワーでおれを引き離す。

 複合ヘアピンであるハンマーヘッドヘアピンに入る。


「いよいよあれを使うばーい! 行っくでー!」


 ここでC4のボディに透明なオーラが包まれる。


「<ハヤテ打ち>!」


 覚醒技の初歩技である、少し速いグリップ走行でコーナリングする技、<ハヤテ打ち>を使って攻めていく!


 ちなみに覚醒技とは、速い走り屋が持つ特別な力の事だ。

 その力を持つ走り屋は覚醒技超人(テイク・ハイヤー)と呼ばれている。

 その人たちはタキオン粒子で作られたオーラを身に纏う。

 それは覚醒技超人の目にしか見えない。


 ハヤテ打ちは覚醒技の初心者用の技のひとつだ。

 属性がなく、使いやすい。


 透明なオーラを纏い、ハンマーヘッドヘアピンを高速グリップ走行で駆け抜けようとしたものの……。


「ぶつかる! ぶつかってまうわ!」


 ガードレール衝突寸前になり、そこで停止させる。


「ガードレールとおともだちになる走りをするから、こうなったんだよ」

 

 これが君の技なの……?

 そして覚醒技とは思えない走りだね……。


 停車したC4の前にワンエイティを停める。

 クルマから降り、あきらの元へ向かう。


「降参だす、降参だす。ワシはまだまだだすなぁ」


 バトルはおれの勝利に終わった。

 

勝利:大崎翔子


 バトルを終えるとあきらと共に店に戻ってくる。


「おかえり」


「よく戻ってきたな、オオサキ、彩依里」


 突如、あきらはおれに対して土下座する。


「お願いします! ワシを弟子にしてつかあさい!」


「え?」


「ワシャ、まだまだやと感じました。ばってん、あなたと一緒におったら速くなれるんやと考えとります! どうかワシを弟子にしてつかあさい!」


 答えはすぐ決まった。


「弟子入り、認めるよ 」


「いいのか……!?」


「いいのか?」


「いいのでしょうか!?」


「ええんでしょうか!?」


 おれの答えを聞いて、皆驚いた顔をする。


「この子を1人前の走り屋にするんだ」


「オオサキの弟子になったから、私から見れば孫弟子だな。私とオオサキの走る日には来てくれ、メールで伝えるから後で番号を交換しよう。鍛えてやるからな」


 こうして彩依里あきらというC4コルベット乗りの少女が弟子になった。

 あきらと共に最速の走り屋になる日々が始まるのだった。


 群馬県の関越自動車道。

 青緑・黒・赤の三色の派手なカラーリングをして、URASのGTエアロと326パワーのウイング、社外のオーバーフェンダーを身に付けたS15型シルビアが走っていく。

 前にオオサキと雨原のバトルの時、ギャラリーしていた人のクルマだ。

 

TheNextLap

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