始まりの章3章

第15話「誕生日大作戦」

 明日は休みだ。ゆっくり研究しよう。僕はそう思って部屋の電気を消し就寝した。

 次の日の昼、ノックの音が響いた。僕は返事をし扉を開く。

「あれ? オウキ君じゃん。どうしたの?」

「お前は、何をしている?」

 僕は首を傾げ正直に答えた。

「何って、勉強だけど?」

 それを聞いた王騎君は、ハァーーーっとため息をついた。

「ミツル、明日はなんの日だ?」

 なんの日? ああ、勤労感謝の日だな。僕がそれを答えると肩をトントンと叩かれた。

「しっかりしろよ! 男だろ!」

 今は少し寒くなってきて、もう冬の気配を感じる。そうか、買い物か。

「冬物を買いに行くの? 特売日とか?」

 王騎君は思いっきり僕を殴った。痛ぇ!

「何すんだよ!!!」

「明日はカモメの誕生日だぞ!!!」

 僕は、へ? と素っ頓狂な声を上げた。誕生日? 鴎ちゃんの? 僕は立ち上がり言った。

「誰に聞いたのさ」

「メンバー全員のプロフィールには目を通してる」

 それって犯罪じゃ? 僕が聞く前に、王騎君は言う。

「ちゃんと覗いていい部分だけを許可を得ている。十一月二十三日がカモメの誕生日。十二月三日がミツルの誕生日。十二月二十日がヒトミの誕生日。そして一月一日が俺の誕生日だ」

 冬に揃ってるなぁという僕の感想は置いといて。なるほど、それは一大事だ。

「わかった、ちょっと待ってて」

 僕は部屋着から学生服に着替えて支度を整えた。

「お前、いつも思うんだが……、それ気に入ってるのか?」

 僕の学生服を見て言う。うるさいな、これが落ち着くんだよ。僕と王騎君が外に出ると、男子宿舎の前には瞳ちゃんが待っていた。

「カモメにはバレてないな?」

 コクリと頷く瞳ちゃん。なんで瞳ちゃんまで参加してるんだ? そこまでして祝わなくてもと思っていると、僕の顔色から察したのか王騎君が言った。

「俺は全員の誕生日を盛大に祝いたい。勿論ヒトミの誕生日もきちんとやるぞ! だがまずはカモメだ。ここまで力を入れる理由を知りたいか?」

 僕は頷いた。鴎ちゃんの誕生日が最初に来たからだろうか?

「それはな、カモメが幼い頃に両親を亡くしているからだ」

 お、おいおい、覗いていい部分だけじゃなかったのか? という僕の疑問はすぐに解消される。

「これはカモメから聞いた話だ。俺が話したということは内緒だぞ?」

 鴎ちゃんの両親は資産家で、海外を飛び回る程の有名人だったそう。だが仕事の途中で飛行機事故で亡くなる。両親の財産を受け継いだ彼女は優しい祖父母に預けられたが、両親を失ったショックから心を開けなかったらしい。誕生日会も祝われても嬉しくなかったという。

 そんな風には見えなかった。明るく振る舞ってるように見えていた。僕の目は節穴か。

「俺はカモメとヒトミには誕生日の話を聞いていたから、この話を聞いていたんだ」

 いや、僕にも誕生日の話聞けよ! とんだ女たらしだな。だが、やらなければいけない事はわかった。

「よし、誕生日大作戦だ!」

 僕と王騎君と瞳ちゃんは手を合わせた。まずは五十番甲板に行く。買い物には最適だ。ファッションショップ、文房具店、ランジェリーショップなど。いや、プレゼントにランジェリーってどうなんだ?! 恋人ならともかくさ!

 鞄なども見て回るが中々いい物が見つからない。そもそも資産家の娘だったなら、不自由な暮らしなどして来なかったはずだ。お金を使って欲しい物を手に入れる。それが出来るなら何をプレゼントしていいのかわからない。

 王騎君と瞳ちゃんはそれぞれ何か買っていた。僕も何か買わなきゃ……。僕らはアクセサリーショップに入った。色々見て回るが値段を見るとどれも高価なものばかりだ。だが何故かそこまで魅力を感じなかった。

「ミツル、プレゼントするなら指輪がいいぞ」

「ミツル君からの指輪なら受け取ってくれるかも」

 王騎君と瞳ちゃんがニヤニヤしながら言う。なんでだよ、プロポーズするわけでもあるまいし。別にそういう訳じゃないけど指輪を見て回る。レッドダイヤモンドは、ないよな。買えないし。

 その時だった。気になるアクセサリーを見つけた。それはまさしく鴎ちゃんに似合いそうなヘアピンだった。だが値段を見てみた。うーん……。

 僕は結局それを買わずに他を見た。そして店を出た。その後ぐるぐる色んなものを見て回ったが、これと言ったものがない。あえて言うなら先程見たものが……、でもな。

 悩んでると王騎君が僕に言った。

「気になるものがあったなら迷うな」

「でも値段が……」

「高いのか?」

 僕は首を横に振り言った。

「カモメちゃんは、お金持ちの家に産まれたんだろ? だったら安物を買って渡しても喜ばないかもしれないよ」

 それは明らかに安物だった。おまけに子供っぽい。そんな物をプレゼントされて喜ぶだろうか?

 その言葉に王騎君は、僕の方へ近寄り僕の胸をトントンと叩いた。

「値段なんて関係ない。肝心なのは気持ちだ。勿論高い方がいいものかもしれない。でも、カモメにプレゼントしたいという気持ちが強いなら、それは買うべきだ」

 僕は王騎君の目を見つめた。彼は真剣な眼差しで僕を見ている。

 僕は頷いた。

「ちょっと行ってくる」

 あのアクセサリー屋さんに戻りあの商品を探す。

 あれ? 確かにここにあったはずなのに……。まさか売れてしまったのか!?

 僕は近くの店員さんにヘアピンの特徴を言い、在庫がないか確かめてもらう。

「一つだけありましたよ」

 店員さんの言葉に僕はほっと胸を撫で下ろした。お金を払い購入する。

「プレゼントですか?」

 店員さんの言葉に僕は頷いた。すると店員さんは可愛い箱に素敵な包装でピンクのリボンを付けて渡してくれた。

 誕生日当日、鴎ちゃんを食堂に呼び出した僕らはサプライズパーティを開いた。

 鴎ちゃんは驚いていたが、笑って言った。

「こんな風に祝ってもらえて嬉しいわ」

 王騎君と瞳ちゃんと先生がプレゼントを渡す。僕は最後に渡した。

 鴎ちゃんが僕のプレゼントを開けると驚いた。

「これ……」

 鴎ちゃんは目をぱちくりしながらそのヘアピンを眺めた。

「ご、ごめん、そんなに高いものじゃないんだけど」

 鴎ちゃんはそのヘアピンを手にした。それはスカイブルーの羽根のカモメが付いたヘアピンだった。

 鴎ちゃんは黙ってそのヘアピンを左側の前髪につける。そして、ふっと優しく笑い言った

「大切にする」

「うん」

 そんな僕らを、王騎君と瞳ちゃんは親指立てて見ていた。

 言っておくけどそんなんじゃないぞ! そんなんじゃないんだ!!

 そうしてケーキをみんなで食べて鴎ちゃんの誕生日を祝った。

 盛大に祝った後、鴎ちゃんからお礼を言われた。

「いや、企画したのはオウキ君だから……」

 そう言う僕にふふっと笑った鴎ちゃんは、皆にも礼を言っていく。

 誕生日会は大成功に終わったと思う。

 さて、十二月三日やってきた。

 僕はどう祝われるんだろうか? 期待しながら教室にくると、王騎君がいた。僕は王騎君に挨拶する。王騎君も挨拶を返す。そして他愛もない話をする。

 あれ? まさかと思うけど……。

 鴎ちゃんが入ってきた。挨拶を交わしいつも通り話をする。おいおい、待て待て。

 瞳ちゃんが入ってくる。挨拶をして皆で話をする。待って! 今日さ!

 先生が最後に入ってきて、挨拶をした。

「では授業を始めます」

 僕はずっこけた。そのまま授業が始まる。お昼までの授業にも何もない。お昼は食堂から配布された弁当を食べる。そして午後の授業へ。

 いつの間にか放課後になった。今日は二階層の訓練の日だ。迷路にて先生の見守る中、先に進みバラバラになり走る。

 僕はこの気持ちを抑えられず、やけっぱちになって走っていた。みんな僕の誕生日、なんだと思ってるんだ!!! いや、いいけどさ!

 王騎君なんて鴎ちゃんと瞳ちゃんには誕生日の確認しっかりしておいて、僕にはこれかよ!

 そうやって走っていると、誰かが走ってきた。先生だ。

「やはり六道君はこのあたりにいましたか」

 そういった先生は足を止めて、僕にも止まるように言った。先生と僕は迷路に押されるがままに進んでいく。そして行き止まりについた。

「ここが一番奥の間違いの道です」

 そこは正解の道と大差はなかった。だが、正解の道のように古代文字があるわけでもない。先生が言うには上に登っても何もないらしい。

「ではここから、正解の道へ行けますか?」

 無理ならお姫様抱っこしますが、と言う先生。僕は無言で走った。先生は先頭を走りながら言った。

「これまで沢山の事がありましたね。沢山の試練を貴方達は乗り越えてくれました。ずっと聞いています。あなたの力が大きかったと」

 誰が言っていたかは予想がついた。でもそんなことはないと思うんだ。僕は、僕らは皆で力を合わせ乗り越えてきた。

 皆がいたからできたんだ。そこだけは忘れてはいけない。

「僕は、皆に、出会えて、よかった、です!」

 この速度で走りながら喋るのは疲れる。角を曲がって今度は正しい道を辿る。いつも以上に疲れたが、先生に食らいついていく。

「これからもその調子であなたの力を発揮してください。さぁ見えてきましたよ」

 走ってる方向が真っ直ぐになり奥に三人が待っていた。

 正解の行き止まりに着くと、三人がクラッカーを鳴らした。

「ミツル君! 誕生日おめでとう!」

 いや、ここで祝うのかよ。先生も拍手して祝ってくれた。

 プレゼントは海底ダンジョンを出てから渡してくれるそうで、ここではシートを広げ、先生がカバンからケーキを取りだした。いやグチャグチャだよ! そりゃそうだよ!

 僕らは笑いながらケーキを食べた。そして片付けた後、壁を登っていく。

 もう僕らが回収した青の鍵のスペアはいくつになるか分からない。僕は一つの疑問を投げかけた。

「僕らの他にここを利用する人はいないんですか?」

 すると、先生は苦笑して言った。

「脱落して四階層の発掘に回る人や、ここはクリアしても先の階層で脱落した人たちは四階層で発掘しています。新しい人は新年度にならなければ来ませんしね」

 ここで修行する人は今はいないらしい。聞けばここに来た僕らもかなりの異端児だそうでなかなか集まることが少ないらしい。確かにこれだけの試練があるこの海底ダンジョンを攻略できるかどうかは、かなりシビアな問題だ。ついてこれた僕らは大分優秀な方なのかもしれない。

「そういえば黄色の鍵や白の鍵はスペア取りませんけど、どうなってるんですか?」

それを聞いて先生は笑った。

「特殊な方法で、青の鍵を作り変えているんです。その製法は内緒ですが、こうして青の鍵を集めてもらえるのは凄く助かるんですよ」

 一階層に戻りスカル達を蹴散らした後、海底ダンジョンから出た。今日ももう暗くなってきている。王騎君が僕に誕生日プレゼントを渡す。高級そうな手帳だった。瞳ちゃんはTシャツをくれた。黒地のシャツに古代文字で、賢者と書かれている。

 鴎ちゃんは……、これ指輪? え? 指輪?

「安物だけどね。ほら、これ」

 鴎ちゃんは右手の中指に同じ指輪をつけてるのを見せてくれた。僕は自分の右手の中指につけてみる。ピッタリだった。

「よかった! あ、一応言っておくけど、友達としての証だから! 親友としてのね!」

 王騎君と瞳ちゃんはニヤニヤしながらこちらを見ていた。違うって言ってるだろ! 鴎ちゃんも親友としての証って言ってるだろ!!

 僕は皆にありがとうと言って先生の方を振り返った。さて、先生は?

「よかったですね、六道君。ん? どうしたんですか? さぁ帰りますよ」

「いや、先生からはないのかな? と思って。カモメちゃんには手帳プレゼントしてたじゃないですか」

 それを聞いた先生はぶわっと汗を吹き出した。ダラダラ汗を流している。そして言った。

「あげたじゃないですか。教えというプレゼントを」

 ケーキを買ってきたのは先生で、実は慌てて買ってきたのだという。絶対忘れてたな、これ。

「すいません……、今からでも何かを……」

「もういいですよ。確かに教えというプレゼントは貰えました」

 僕のことをちゃんと理解してくれている。そういう存在がいるだけで強くなれる、そんな気がした。

 そして、十二月二十日。忙しく過ぎる日々に忘れないように、壁掛けカレンダーに赤丸をしていた。前日に王騎君と鴎ちゃんとプレゼントは買ってある。僕は鴎ちゃんに一緒に選んで貰って、小さな赤目のハリネズミのストラップを選んだ。

 瞳ちゃんは部屋がハリネズミのグッズで埋まるほどハリネズミが好きなんだという。鴎ちゃんはネックレスを選んでいた。派手すぎないか? と思ったが、これでも控えめらしい。シルバーのネックレスの中央にはルビーが埋め込まれている。

 さて当日は休みの日だったが、教室に集まる算段をしていた。ここで王騎君が時間になっても来ないトラブルが発生した。まさか寝坊したのか? と思ったが、違った。

 王騎君は瞳ちゃんに伝えた少し遅れた時間に、瞳ちゃんの手を繋いで現れた。中々やるな!

 僕と鴎ちゃんと先生はクラッカーを鳴らす。瞳ちゃんは顔が真っ赤だった。

「ありがとう……、ウチは嬉しいです!」

 瞳ちゃんの誕生日パーティが始まった。僕らは買い込んだ食べ物や飲み物で騒いだ。

 プレゼントを渡し喜んでもらえた。

 王騎君からの誕生日プレゼントに瞳ちゃんは涙を流した。ハリネズミの筆入れとボールペン、そしてノートだった。

 最初、そこまで感動する物か? と思ったが、どうやら文通するらしい。それを聞いた鴎ちゃんと僕はニヤニヤしながら見ていた。

「本当にいいの?」

 瞳ちゃんが王騎君に尋ねる。

「どんな些細なことでもいい。書いてくれたら返すぞ」

 王騎君は答え笑った。

「一応言っておくが、特別扱いをするわけではないからな?」

 瞳ちゃんはコクリと頷いた。やれやれ、素直になれないやつだな。

 さて先生からは? そう思っていると、先生は分厚い本を取りだした。

 古代文字でタイトルが書かれたその本は中を開くと古代文字でびっしりのようだった。ところどころ和訳が付箋してあるが、ほぼ読めない。

「赤居さんにはピッタリの本でしょう。古代人が書いたとされるホラー小説のようなものです」

 瞳ちゃんは物凄く喜んだ。勉強にもなるし、ホラー小説というジャンルが彼女にドンピシャだったようだ。

「先生、ありがとうございます。ウチ、一生懸命読みます」

 そうして受け取ったプレゼントを大切に持ち帰った瞳ちゃん。瞳ちゃんの誕生日会は終わった。

 さて残るは王騎君のみ。十二月三十一日に買い物を鴎ちゃんと瞳ちゃんとして新年を迎える。

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