第3話 たんけん1 かみさま編

「そういえばわたし達ってこのシマのこと何にも知らないよね」

「まえりーが食べ物取りに行ったとき、ずーっと森が続いてたよ」

「うーん」

「たんけん!?」

「でも道に迷ったら危険だし・・・」

「元から迷ってるでしょ。りーたちって」

「・・・確かに。」

「じゃあ行こ!!」

「荷物まとめたらいくかなあ」

正直あまり乗り気ではなかった。人間が開発したからこそ街というのはとても安全な場所。だけどここは完全な自然。何がいるかもわからないし、何があるかもわからない。

でも思ってみれば知らないからこそ知る必要がある。

ここにいても何が起こるのかはわからないし、森に行ってもそれは一緒。

私は漂着していた銀色のケースにスキットルと食料とナタとライター、拳銃を入れた。

「りーもぶき欲しい!」

「危ないからだめ」


森に入って数時間進んでも特に何もなかった。続くのはもり!もり!!りー!

しかし、日が傾きかけた頃、何か古めかしい石でできた建物を見つけた。

「すごい!『いせき』だ!」

初めてりーの口から私の知らない言葉が出てきた。

「『』?」

「あのね、おおむかしのひとがね、神様に住んでもらうためにつくった建物おうちなんだよ!」

「かみさま・・・」

「すごくすごーくお願いすれば、お願いを叶えてくれるの!」

これは何となく知っていた。

人間は存在しない「神様」の姿をした石の塊や木の人形にごはんや果物をあげていた。私にはよくわからない文化というか、風習だった。

「・・・すごーく、お願いすれば私の記憶は戻って、おいしいごはんや魚を食べれるのかな」

「どうだろーねー」

私は本当は知っていた。神様が本当にいたとしても私のお願いは絶対に聞いてくれないことを。

そんな優しい神様が本当にいたら、私はこんなことになっていないから。

よくわからないシマに、よくわからない漂着物、そしてよくわからない女の子と一緒に二人で過ごさないといけない。

・・・でもそれはりーにも言えること。りーも不安だったり、怖かったりするかもしれない。私とおんなじ。だからりーは多分「おともだち」だ。

「なか入ってみる?」

確かにいせきには大きな入り口があった。

でもじめじめとしていて、真っ暗な感じが怖くて入れなかった。

「こわいの?じゃありーだけで行ってくる!」

りーはなんだか怖いもの知らずな感じがした。

無鉄砲さが怖いという気持ちをなくすのかもしれない。

私はその無鉄砲さが逆に心配で怖かった。

「うわー!きれーい!」

いせきからりーの明るい声が聞こえてきた。

私もその声を聞いてなんだか入る勇気が湧いてきた。

中に入ると、穏やかな顔をした女の人の石像が天窓からの光を浴びて暗いいせきの中で目立っていた。

確かにこの光景には神様のようなものを感じられる。

神様は本当にいるのかもしれない、とも思えそうだった。

「ねえ・・・あおいちゃんって文字読める?りー読めないや」

「読めるけど・・・」

いせきの苔だらけの壁にびっしりと私の読める文字が書いてあった。

「オルクス様はいつでもあなたを見守っています。あなたが大きな、とても重大な決断を下すとなれば、オルクス様はあなたに決断の勇気と人知を超えしその英知であなたを良い道へ導いてくれるでしょう。勤勉に励み、己を鍛え、オルクス様を愛し、オルクス様に祈りを捧げれば、いつときに応え、あなたを『至高なる大きな世界』に誘ってくださるでしょう・・・」

「オルクスってだれ?」

「私も、わかんないや」

私はなんとなくその文章に惹かれて、しばらく壁をなぞりながら読んでいた。

読んでいて気づいたのが、がないってことと、神様は他利的お人好しすぎる存在ってことだった。

願いを叶える見返りが、お祈りを毎日欠かさないことと、果物をたくさんもらうことしかない。

それは逆にわたし達人間が利己的すぎるという事実を鏡写しに見せていた。

りーは私が考え事をしたり、読んだところを読み直してみたりしている間、ずっとお昼寝ぐーぐーをしていた。

読めば読むほど、神様が本当にいないということと、それにすがらなければ生きられないということをよく知らされた。

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