23. 仕込み装備

***アーク


「はぁ。昨日の夜はベタベタしてきてひどかった……」


 ルナは許してもらえたのが嬉しかったのか、夜になると僕にまとわりつくように甘えてきた。

 さすがにしつこくなって何度も引き剥がしたんだけど、それでも諦めずにひっついてくるんだから根性がある。

 そんな根性あってほしくなかったけど。

 さて、そんなことより目の前の問題を優先しなくちゃな。

 問題というのは俺の目の前にあるルナの手甲だ。

 こいつには仕込み武器を複数装着できるようにしてあるんだけど、まだなにを装着するか決まっていない。

 一種類はトネルニードルで確定なんだけど。他にも4つ仕込み武器の装着用穴はある。

 他はなににしようか。


「うーん、どうしたものか。トネルニードル以外の爆弾は周囲に影響を及ぼすからあまり装着したくないし、かと言ってそれだと装着数が余るしなぁ」


 仕方がないのでふたつはフランジュとグラーセアで埋めるとしよう。

 至近距離で使わないように注意しておけば有効な武器だ。

 そうなると残りはふたつ。

 さて、このふたつは何を装着しようか。


「有力候補はクロスボウの矢、ボルトだけど装填可能数が課題か」


 錬金術の爆弾は作る時に小型化すればある程度の数は入る。

 でも、矢はそうもいかない。

 攻撃力とか直進性とかを保つためにも各パーツをしっかり作る必要がある。

 そう考えると、針の実を加工して針だけを丈夫にしたものを飛ばしてもいいんだけど、まっすぐ飛ぶ距離は限られているし、そもそも威力がなぁ。

 木には刺さるだろうけど、鉄に刺さるかどうか怪しい。


「うーむ。これはどうしたものか。オパールにも聞いてくるか」


 自分ひとりで悩んでいてもいい答えは出ないと判断し、僕はオパールの元へと足を運んだ。

 この時間なら分体のひとりが食事の用意をしているだろう。

 台所に行けば実際にいたし。


「オパール、ちょっといいか?」


 僕が話しかけるとオパールが料理の手を止めてこちらを向いた。

 なんだか申し訳ないな。


「おや? どうかしましたか、アーク」


「いや、ルナの手甲に仕込む仕込み武器を考えているんだけど、いい案が思い浮かばなくて」


「いい案。錬金術の爆弾を詰め込むのではダメなのですか?」


「いや、爆弾は詰め込むことにしたんだけどさ。あとふたつ枠が余っているんだよ」


「……一体何個仕込めるようにしていたんでしょうね、この子は。ともかく、錬金術の爆弾が埋まってしまったのなら針の実を飛ばすとかでもいいのでは?」


「それじゃあ威力が出ないだろう」


「うーん、それもそうですね。でも、矢を飛ばすとなると手甲の中に入れておける数が少なそうですし」


「そこが困りどころなんだよ」


「ええと、私にもいい案はありませんね。次に街に行ったとき聞いてみるとかどうです?」


「それでもいいか」


「急ぐ必要はないんですし、そうしてください」


「わかった。いい案が思い浮かばなかったらそうするよ」


「はい。それでは、私は昼食作りがありますので」


「悪いな、邪魔をして」


「いえ。では」


 料理に戻っていったオパールと別れて僕は再びアトリエへ。

 うーん、威力があるならそれでいいんだよな。

 かと言って、針の実じゃ威力が出ないし……。

 針の実に爆弾を詰め込んで衝撃で爆発するようにしても、今度は取り扱いに注意しないといけなくなるし、難しいなぁ。

 出来れば刺さる武器で多少の飛距離はほしい。

 なおかつ威力もほしいとなるとやっぱり針の実爆弾が安易で簡単なんだけど……。

 出来れば矢にしたいな……。

 ん、待てよ?

 そもそも飛距離を気にしないなら、そんなに矢の構造を気にしなくてもいいんじゃないか?

 矢の長さを極端に短くして刺さったら爆発するようにすれば……。

 うん、いける気がする!



********************



『アーク、あたしの手甲の改造が終わったの?』


『ああ、終わった。とりあえず僕が使ってみせるからよく見ていろ』


『うん!』


 ルナは今日もご機嫌だな。

 改造に結局1週間もかかったのに。


『まずはこれ。フランジュ!』


 僕は手甲を握り絞めながら魔力を通し、手甲の仕掛けを発動させる。

 すると、手甲の一部が開き小サイズのフランジュが飛び出した。

 そのフランジュは勢いよく飛んでいき、離れた場所にある的を直撃、普通のサイズのフランジュと同じだけの破壊力を披露して消え去った。

 うん、上手くいったようだな!


『おお! フランジュだ!』


『ああ、この手甲にはフランジュとグラーセア、トネルニードルが仕込んである。フランジュとグラーセアは至近距離で使えないようにしてあるけど、トネルニードルは相手を爪で突き刺している状態でも使えるようにしているから上手く使ってくれ。どれも片手に最大10個詰めることが出来るからな』


『片手に10個。両手で20個も使えるんだ!』


『その通り。でも、無駄打ちしていたらすぐになくなるから使う時は考えてな』


『うん!』


 さて、最初の装備、錬金術爆弾のお披露目は成功したようだ。

 次の武器も上手く説明しなくちゃ。


『次の武器だ。ダーツ!』


 僕の言葉に反応し、手甲から2本の短い矢が射出された。

 その矢は近くの的に刺さると爆発して的を粉々にしてしまう。

 ルナはこっちも嬉しそうに見ているな。


『アーク! いまのなに!?』


『ダーツって言う手投げ式の矢を改造した物さ。それを撃ちだしてなにかに刺さると爆発するように仕込んである』


『うわぁ! それも錬金術で作ったの!?』


『まあ、そうなるかな。ダーツは50本ずつ仕込んであるから爆弾よりはたくさん使えるぞ』


『でも、無駄遣いしたらすぐになくなっちゃうんだよね! よし、覚えた! 覚えたから早く貸して!!』


『はいはい。遊ぶのは構わないけど怪我をしないようにな』


『はーい!』


 ルナは手甲を身につけて的の方へと行ってしまった。

 そこでフランジュやグラーセアが安全に使える距離を見極めようとしたり、爪を突き刺したままダーツを使うとどうなったりするかをしっかりと確認していたようだ。

 30分と待たずにすべてのアイテムを消費しつくして補充のお願いに来たのはご愛敬かな。

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