21. 無謀なルナ
ルナの新装備を作ってから、また街に行くための商品作りが始まった。
素材は前回行ったときのあまりがまだあるのでそんなに困らない。
困ったらまた採りに行けばいいし、いまはルナがいるから採取も安全で早く済むからな。
押しかけ妻には困っているけど、なんだかんだで受け入れてしまっているなぁ。
さて、今日もヒールポーションを作るか。
「おや? ルナちゃんはここにも来ていませんか」
ヒールポーションを作り始めようとしたところにやってきたのはオパール。
ルナがいないみたいだけどどうしたんだろう?
「オパール、ルナがどうかしたのか?」
「いえ、人間語学習を中止にして別の場所に行くと言っていたのですが、ここではなかったみたいですね。外も探してきます」
「ああ、わかった。俺もちょっと探してみるよ」
「お願いします。あの子、新しい装備が出来てからはしゃぎすぎていて……」
「そんなに嬉しかったのかねぇ」
「嬉しかったみたいですよ。愛する夫の手作りで性能のとびきりいい装備というのは」
「ならいいんだけど。とりあえず、僕は家の中を探してみるよ」
「では私は家の外の方を見回ります。見つけたら教えてください」
「ああ、わかった」
ルナの奴、どこに行ってしまったんだろう?
オパールは直接アトリエへとやってきたらしいから他の場所は見ていないらしい。
なので、他の場所、台所や水浴び場、中庭などを見歩くけれど見当たらない。
寝室で寝ているかと思いそっちも見てみたが寝室にもいなかった。
代わりに寝室にあるはずの物もなかったが。
「ん? 手甲や鎧なんかがすべてない? あいつ、またどこかで型の練習をしているのか?」
最近、暇さえあれば装備を着けて型の練習をしていると聞いた。
今回もそのパターンかな?
そうだとすると、外を探しているオパールが見つけてくれるはずなんだけど。
ちょっと外に出て様子を聞いてくるか。
「さて、オパールはどこに……」
「大変です! アーク!!」
「オパール!?」
オパールがこんなに声を荒げて急に現れるなんてよほどの一大事だろう。
一体なにがわかったんだ?
「オパール、どうした?」
「はい、外で遊んでいた妖精たちに話を聞いて回っていたのですが、朝食を食べたすぐあとにフル装備のルナちゃんが森の奥へ入って行くのを見かけたそうなんです!」
「フル装備で森の奥……それで、寝室に装備がひとつもなかったのか」
「はい。それで、どこに向かったかを尋ねてみると、岩場地域の方に向かったとか」
「岩場地帯……まさか、洞窟にひとりで!?」
「その可能性が高いと思います。アークもすぐに装備を調えてきてください。私も一緒に行きます」
「わかった。すぐに支度をしてくるから待っていてくれ」
よりにもよって何で洞窟にひとりで行ったんだ、あいつ!?
僕も寝室に置いてあった装備をすぐさま身につけると、オパールと合流して岩場地帯まで走って移動した。
岩場地帯は至って普通の様子だが、この先どうなっているかわからない。
もどかしいけど、慎重に行かないと。
「アーク、わかっていますね。洞窟の中で大声を出してはいけませんよ。モンスターに囲まれてしまいます」
「わかってるよ。ケイブバットや赤グミ程度に負けるつもりはないけれど、ビーストテイルに囲まれたら面倒な事になる。急いで探し回りたいけど焦らずにだな」
「はい、焦らずに、です」
「オパールもそろそろ気配を薄くした方がいい。気配が濃いままじゃ狙われる恐れがある」
「では、そうさせていただきます。くれぐれも慎重に」
その言葉を残し、オパールの存在感が希薄になり、姿もほとんど見えなくなった。
家の外だとオパールはほとんど戦闘力がないのでこうしてついてくるしかないのだ。
さて、あの無鉄砲娘はどこまで行っているのか。
僕が洞窟内に踏み込むとまず最初に見つけたのは赤グミやケイブバットの死体の山。
あいつひとりだと解体しても持ち運べないからそのままにしていったんだな。
おそらくロックゴーレムは倒したあと核である魔石だけ取り出して放置していたんだろう。
そうすれば復活されることもない。
このまま死体を放置して進んでいくわけにもいかないため、風化薬で解体し素材を回収しながら奥へと向かっていく。
だが、奥に向かっていってもなおモンスターの死体は積み重なっている。
爪で突き刺された形跡がないところを見ると、まだ爪は使わずに殴るだけで倒してきたみたいだ。
それらも風化薬で解体し奥へ奥へと進んでいく。
そして朱金石が採れるエリアになった頃には、ビーストテイルの死体が転がるようになってきた。
ビーストテイルには爪を使っているようで体の至る所に穴が開いている。
ただ、ビーストテイルの尾や爪にも血の跡がついており、無傷で切り抜けてきたわけではないようだ。
「ここまで進んでもまだいないか。まさか、この先のエリア、蒼海石のある方面まで進んだんじゃ」
蒼海石は朱金石よりもグレードの高いインゴットが作れるが、その性質も気難しく普通の武器に使うのは難しい。
僕は錬金術で仕上げているからなんとか使えているけれど、普通の鍛冶屋じゃインゴットにすらできないという話だ。
そもそも、蒼海石を溶かすことが出来ないらしいけど。
そんなことより、早く奥のエリアに進まないと!
「この先のエリアは一角魚が現れるから苦手だ。あいつらタフだし、トネルニードル以外の爆弾はほとんど効かないんだよな……」
一角魚は大きな角を持った巨大な魚型のモンスター。
空中を泳いで突っ込んでくるあたり、理屈の通じないモンスターらしい挙動だ。
さて、このエリアにルナは……いた!
『この……角を持った魚、強い!』
「Kirururu」
『でも、この鎧なら刺し貫かれない! まだ負けない!』
ああ、でも、刺し貫かれないだけであって至る所に傷がついてボロボロじゃないか。
一角魚は3匹いて2匹は既に倒したみたいだけど、残り1匹に手間取っているみたいだ。
でも、いまならこちらに気付かれていないし、トネルニードルを当てられるか?
僕はマジックバッグの中からトネルニードルを取り出し、全力で一角魚へと投げつけた。
さすがの一角魚も視界の外から投げつけられたトネルニードルには反応できず、電撃を食らって動きが鈍ったようだ。
『ん? トネルニードル? あ、アーク!』
『僕はいい! 早く一角魚にとどめをさせ!』
『うん、わかった! 雷の爪!』
一角魚の頭部にがっちりと爪を食い込ませ、魔法の爪で目を貫き、ルナは一角魚を絶命させた。
これで、いまのところモンスターはいなくなったな。
『アーク! あたし、こんなモンスターまで倒せるようになったよ!』
『話はあとだ! まずはこいつらの素材を回収して洞窟を抜け出すぞ』
『え? うん』
状況を理解していないルナを無理矢理落ち着かせ、僕は風化薬で一角魚から素材を剥ぎ取る。
一角魚の角は槍としていい素材になるが、とりあえず後回しだ。
素材を回収したらルナの手を取り、大急ぎで洞窟から駆け出す。
幸い、途中でモンスターに出くわすことはなかった。
『ふい、いい汗かいた。アーク、あたし、こんなに強く……』
『大馬鹿者!』
パン!
僕の手がルナの頬を思いっきり叩いた音が鳴り響く。
ルナは叩かれたことが理解できないような顔をしてこちらを見ていた。
『アーク、なんで打つの?』
『当然だろう! ひとりで洞窟になんて来て! せっかく新調した鎧だって傷だらけ、体だって傷だらけじゃないか! 何でこんな無謀な真似をした!』
『無謀? あたしはただ、ひとりでもここまで出来るってことをアークに見せたくって……』
『そんなもの見せなくてもいい! また、一緒に採取に来たとき強くなった姿を見せてくれればいいんだ! ひとりで勝手に死にに行くような無謀な真似をするヤツは嫌いだ!』
『え? あたし、アークに嫌われたの?』
『ああ、嫌いだな』
『どうして? あたしはアークに心配をかけさせたくなかったから強くなった証に獲物を取りに来ただけで……』
『それが無謀だって言うんだ! わからないなら僕は先に帰る!!』
『あ、待って。おいて行かないで、アーク……』
ルナがすがってくるけれどこれ以上心配してやらない。
あとはオパールが適当にあやしてくれるだろう。
それで帰ってこなくなっても……まあ、仕方がないことだな。
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