今度は帝国だぞ!

「空の旅、快適だねぇ~」


 ルナの背に乗っての空の旅は本当に気持ちが良い。

 広大な土地だけでなく、山脈すらも上から見下ろせていると良く分からない全能感のようなものを感じる。


“楽しそうにしてくれて何よりだ。これなら、定期的にリヒターに言って外に散歩させてもらうのも良さそうだ”

「それ……悪くないな。俺たちからしたらもうデートみたいなもんだし」

“そう、それだ! お散歩デートというやつだ!”


 嬉しそうなルナを表すように飛ぶ速度が上がった。

 ルナがどんなに速度を出しても彼女が発動している魔法のおかげもあって、俺に当たる風は皆無なため空の旅は何度も言うが快適だ。


「……あ、というかさ。普通に王都のドラゴンたちは空を飛んでるだろ? ルナだからダメってのはないんだよな?」

“その通りだ。普段私が外に出ないだけで何やら決まりがあるように思われているのかもしれないが、ドラゴンの女王だからと言った理由はない”

「なら安心だな。まあそれでも、少しはリヒター様に伺いは立てないとだけど」

“奴の胃の調子を考えるならそれが良いだろう。もちろん、人になれることを伝えはせん。その秘密はゼノだけが知っていれば良いのだからな”

「分かってるよ。俺だけが知る秘密……ルナは俺の嫁さんだからな」

“っ……!!”


 少しだけ恥ずかしかったけど、そう伝えたことに後悔はなかった。

 朝のやり取りで俺たちの関係性については再確認をしたし、俺とルナはもう男女の関係になったといっても間違いではないのだから。

 嫁さんだと、そう伝えたのがルナにとって凄く嬉しかったのか彼女は物凄いスピードで高度を上げ始めた。


「ルナ!?」


 徐々に高度を上げるのではなく、直角に角度を変えて彼女は上昇する。

 そして地上からかなり離れたところで、まさかの彼女はドラゴン体から人間体に変化した。


「ルナさ~ん!?」

「好き! 好きよゼノ!」


 ドラゴン体から人になれば、当然飛ぶ力を失って落下するだけだ。

 しかし、彼女は人間体のままで俺に思いっきり抱き着き、喜びを表すようにキスの雨を降らせてくる。

 大空を俺たちは落下しながら互いにキスを交わすという無茶な行為であるにも関わらず、ルナに抱きしめられているのもあって不安は何もない。


(これ……ルナの魔法かな?)


 本来であれば高い場所から落下する場合、体に浮遊感が訪れるはずだが周りを神秘的なベールのようなもので包まれており、どうもそれを感じなくなっているようだ。

 ただのキスだけでなく、舌すらも絡ませるような激しいキスを交わした後、名残惜しそうな表情で顔を離したルナは光に包まれ、再びドラゴン体となって俺を背中に乗せて飛行を続けた。


「ったく、どんな愛情表現だよ」

“うるさい、今のはゼノが悪いぞ。ゼノが飛び上がりたくなるくらいに嬉しいことを言ったからいけないんだ”


 どうやら俺が悪かったらしい。

 まあ可愛かったので背中を撫でながら、俺たちは次なる場所へ向かう。

 肌に合わなかったクサトリカからは離れ、俺たちは何気ない顔で過去に王国との間で戦が起きた帝国へと足を踏み入れた。


「帝国かぁ……クサトリカよりは普通だけど、それでも戦いの歴史があるんだよな」

“うむ。両国間でまだ少し隔たりはあるが観光に関しては問題ない。もちろんドラゴンでの姿を見られるわけにはいかないがな”


 帝国の地には当然ながら俺も初めて来た。

 空の上だからこそ分かる帝国の土地……ちょくちょく田舎町は目に見えるが、流石に帝国の心臓である帝都はまだ先のようで見えない。


“聞くところによると帝都はかなり珍しい物が多いと聞いたが……流石にそこまで行くのはゼノのことも考えるとリスクがある”

「だな。俺としてもそこまで行く気はないよ」

“それが良い。仮に宣戦布告と捉えれればリヒターに悪い……まあ、私一人で帝国を破壊し尽くすことは可能だが、今回に関しては私たちの方が悪い”

「出来るんだな……」


 この世界には多くの国が存在しており、その国にしか発展していない技術なんかもあってどの国も武力的な面で言えば強い。

 その中であってもここまで言えるルナのポテンシャルというのはやはり高い。

 いや、ルナというよりドラゴン全体だと言えるだろうか。


“帝都までは行かないとして、近郊の都市くらいには寄るとしようか”

「そうだな。行こうか」


 ということで、俺たちは帝国の近郊都市に向かうことにした。

 近郊都市ミラルス、例によって例の如く名前だけは知っているが特にどんなものが盛んかは俺もルナも知らない。

 近くに降り立った後、人間体になった彼女と共に俺たちは門に近づいた。


「止まれ」


 すると、門番の兵士に止められた。

 とはいえこれは必要な検査らしく、俺たちの前を進んでいた人たちも同じように呼び止められていたので、特におかしなことではない。


「ふむ……怪しい物は特に持っていないようだな」

「旅行者か?」

「えぇ。王国から来たの」


 ルナの言葉に頷いた兵士はどこかに連絡をする素振りを見せた後、許可を出したことで中に入ることが出来た。

 ただ……俺たちが持ち物検査は仕方ないとして、ルナの体を触ったことは少し許せなかったが。


「デリケートな部分は触られてないから良しとしましょうよ。気持ち悪いことに変わりはなかったけれどね」

「そう……だな」

「ふふっ、そんな風に思われるのもやっぱり良いモノねぇ」


 それから俺は気を取り直し、ルナと共に観光を開始した。

 ただ、彼女はこんな一言を口にした。


「ゼノ、ないとは思うけど出来るだけ離れないようにしましょうか。さっきの兵士がどこかに連絡を取っていたでしょう? 女が云々って聞こえたし、もしかしたら面倒ごとがあるかもしれないから」

「……どこに行ってもルナは人気者だな」

「そうねぇ。あなたとの初めてを終えて女としての魅力が増したからかしら?」

「それはあるな確実に」

「でしょ? まあ、何かあると分かってわざわざ罠を踏む必要もない。安心して、何かあったら燃やすから」


 ほんと、頼りになるお嫁さんです。

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